第8話
俺は言葉遣いの荒い村の男に肩を掴まれ無事ではいられないと思っていた。
しかし次に男から飛び出した言葉は意外なものだった。
「お前すげぇな!!」
そう笑顔で言われた。
「へ?」
俺は予想外の一言に間の抜けた声を出してしまう。
男は肩をぽんぽんと叩きながら。
「いやぁ、最初はどうなるかと思ったぜ。光った種からたくさん植物の蔓が伸びてくるんだもんよ」
言葉遣いの悪い男は、笑いながら言う。
すると、その隣にいたもう1人の男がこういった。
「最初は我々もわけがわからずひたすら蔓から逃げようとしていたんですが、蔓は私達の方には伸びてこなかったんですよ」
なんだって? 俺とほぼ同じ距離にいたはずなのにあの蔓に巻き込まれなかったのか。
俺は思いっきり持ち上げられて降りられなくなったっていうのに。
「だがそのおかげで俺らも怪我一つなく無事でいられたわけだ!」
言葉遣いの荒い方の男が笑いながらそう言った。
「それに蔓の先端の方には見たこともないくらい大きな野菜とか果物がなっていたんです!」
もう1人の男がうれしそうに言った。
「え!? それは一体どこに?」
俺は驚いてそう聞き返していた。
てっきり失敗したのかと思っていたが、成長しすぎていただけで作物自体は実っているようだ。
「村の近くにある森の前です。そこに今日魔物達によって荒らされた村の大きな畑があるんですが、そこにたくさんの大きな野菜や果物が実っていたんです」
村の畑か……荒らされたとは聞いてたけどまさかそこに作物が実るとは偶然なのか。
とにかく実物を見てみないと。
俺は男達にお礼を言うと畑の方向に向かって走りだした。
すると後ろからレティーナの俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「バルトさん待ってくださーい!」
「ん? どうしたんだ?レティーナ」
「すみません話し込んでて。急に走り出したから何かあったのかと思って」
すぐに追いかけて来たからなのか、息をきらしながらゆっくりとレティーナは言った。
「あぁ、何かさっき村の人に聞いたんだけど、この先の畑に巨大な野菜や果物がなっていたって聞いたからそれを確認しに行こうと思って」
「巨大な野菜や果物? それってもしかして」
「うん、多分俺の魔術で出来たものだと思う」
「それなら私も行きます! 魔術によってできたものなら私にも何かわかることがあるかもしれませんし、それに農作業もしているので畑の場所へも案内できます」
「わかった。一緒に行こう!」
「はい!」
俺はレティーナの案内で、村から少し離れた森の近くにあるという畑へと向かった。
畑に着くと先ほどまでいた蔓の先端に位置する場所に、人間の2倍以上の大きさに育った野菜や果物がいくつも実っていた。
「こりゃあすげぇな」
「はい……。こんなに大きな野菜とか果物、初めて見ました」
巨大な作物の周りには、避難をしていた村の人達が物珍しそうにそれらを見ていた。
「他の人達も無事のようで安心しました」
レティーナもみんなの無事が確認できてうれしそうだ。
それにしても本当に野菜や果物が巨大化して実っているなんて。
俺は一番近くにあった巨大化したトマトの方に行った。
近づいてよく見てみるが、どこからどう見てもただのトマトが巨大化しているだけのようだ。
触った感触も匂いもよく知っているトマトそのもの。
だとすればあとは中身が同じかどうかだけど。
俺がトマトを見ながら考え込んでいると、後ろからレティーナがやってきてこういった。
「立派なトマトですね。これだけ綺麗な赤い色をしていたら中には、たくさんの栄養が詰まっているんでしょうね」
「それならいいんだけどね。こればかりは食べてみないとわかんないし」
「食べちゃだめなのでしょうか?」
「うーん。こんな形で実った果実だからね、食べたあと何があってもおかしくないし……」
「なら私が食べてみます」
「え?」
そういうとレティーナはトマトに向かって口を開いて少しだけかじった。
レティーナが食べた場所からは、トマトの果汁がしたたりかぶりついたレティーナの口にも果汁がべっとりとついていた。
「レティーナお前、勇気あるな」
「そうでしょうか?」
口をもごもごさせながらレティーナはそういった。
頬張っていたトマトを飲み込み、自前のハンカチで口周りを拭うと一つ息を吐いた。
「ところでどうだった? 食べてみた感じは」
俺がレティーナに聞くと。
「すっごく美味しかったです! 今まで食べてきたトマトの中で一番甘くて、他の人がいる前じゃなかったらそのまま2口3口といっちゃうくらいに」
そう笑顔で俺に言った。
「ただ……食べてみてなんだかこう身体に力が湧き上がってくるといいますか。とても不思議な感じがするんです」
レティーナが両手を開いたり閉じたりしながら考え込む。
ただ美味しかっただけじゃないのか、あのスキルには植物を成長させるだけじゃなく他の力もあったのか。
俺はそれを確かめるべく、トマトをかじった。
ほとばしる果汁、今まで食べたことのないような甘み。
味はトマトだがトマト本来の酸味などはまったくなく、まるでフルーツでも食べてるかのような感覚だった。
これはたしかに他の人がいなければ、夢中でかぶりつきたくなるのもわからなくもない。
そのくらいの美味しさだった。
俺は口に含んだトマトを飲み込む。
なんという満足感。
これなら村の人達も大喜びで食べられるに違いない。
そう思っていると、俺の身体に異変が起こった。
突然身体の奥底から何かが湧き上がってくる感覚を感じた。
力がみなぎってくるという言い方がこうも当てはまるほど食べる前と後では、全然違う。
なんだこの力は今なら村中を1日中、全力疾走しても疲れない自信さえある。
俺がこの不思議な力に戸惑っていると、レティーナが驚いた様子で俺に言った。
「バルトさん!!」
「どうしたんだ?レティーナ」
「トマトを食べたあとの、バルトさんの体からものすごい量のマナが溢れています!!」
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