第7話

「こ……これは一体」

遅れて村に着いたレティーナは、すっかり変わり果てた村を前に言葉を失っていた。

村の中央には大きな植物の蔓が、周辺の家を飲み込むようにして伸びている。

一つの蔓ではなく複数の植物の蔓が入り組みあうようにして村中に生えていた。

村には人影は一つもなく声もまったく聞こえていなかった。

「あの、どなたかいらっしゃいませんか!? いたら返事をしてください!!」


レティーナは、近くに誰かいないか大声で呼びかけた。


「その声はレティーナちゃん。こっちだ」

「バルトさん!? 一体どこにいるんですか?」

「上だよ。上」

周りをキョロキョロと見渡し俺を探すレティーナだったが、俺に言われ上を見上げた。

「バルトさん!? なんでそんなところにいるんですか!?」

驚くのも無理はない。

俺がいたのは太い蔓の真ん中あたり、高さでも10メートル以上はありそうな位置だったからだ。

蔓が俺を支えてくれてるから助かっているが、周りには降りれるような場所もなく孤立して降りられなくなってしまっている。

「まぁ、経緯はすごく話しづらいんだけど。とりあえずここから降れないのが今の一番の問題かな」

「待っていてください。今すぐ助けます!!」


そういうとレティーナは、俺の真下の位置まで走ってきて両手をこちらに向けこういった。


「疾風よ! その鋭利な刃で標的を切り裂け!!」

「え? ちょっとまって。一体何を!?」

真下にいるレティーナの姿は蔓のせいでまったく見えず、下の方から緑色の光が放たれる。

「ウインドスラッシュ!!」

そうレティーナの声が聞こえた瞬間、俺の足元で何かが斬れる音がしたかと思うと、足元が崩れ落ち俺はそのまま落下し始めた。

「うわああああああ」

突然の出来事に空中でパニックになる俺だったが、その直後再び下からレティーナの声がした。

「疾風よ!彼の者を浮かせたまえ!!ウインドフロウト!!」

レティーナが再び何やら言葉を言うと、緑色の光とともに俺の身体の回りを心地よい風がまとった。

そして重力によって落下していた俺の身体は、空中で止まりゆっくりと地上へ降りていった。

「すげぇ、これが魔術……」

俺は初めて目にする魔術の力に感動していた。


地上に降りると安堵した様子のレティーナが俺を迎えてくれた。


「よかったぁバルトさんが無事で。村がこんな状態なので魔物にでも襲われたのかと思いましたから」

レティーナが胸を撫で下ろしているが、俺は興奮のあまり思わずレティーナの両手を握りこういった。

「助けてくれてありがとうレティーナ!! 俺、初めて魔術って見たんだけどすごいな!! どうやってその魔術覚えたんだ!?」

レティーナは俺の変わり様に驚き、いきなり両手を握られたことに気づいたのか、顔を赤らめながらこういった。

「あの……ものすごく興奮していらっしゃるのはわかるんですけど……先に他の村の人がどこにいるのか知りたいんですけど」

顔を赤くしながら、こちらを見つめ聞いてくるレティーナ。

さっきは上から見ていて気がつかなかったが今、初めて俺はレティーナの顔を見ていることに気づいた。

初対面の時はカーテン越しだったため、声の感じから若い女性くらいしかわからなかった。

しかし今あらためてよく見ると、膝元まで伸びた栗色の綺麗な髪。

目はパッチリしてて瞳の色は真紅のごとく赤い。

そして美人系の顔を想像していたが、思ったより童顔でまるで小動物のような可愛らしい顔つきであった。

これは良い意味で予想外。

「あの……バルトさん?」

「はっ!?」


俺はレティーナの呼びかけで、彼女の姿に見とれていた自分から解放された。


「ご……ごめん。ちょっとはしゃぎすぎちゃって」

「手……」

「あっ……」

謝ったはいいものの彼女の両手をずっと握っていたのを忘れていた。

ずくに謝り手を離す。

急にいろいろなことが起き過ぎて俺、自身も混乱してる一度冷静になろう。

「いろいろなことが立て続けに起きて、ちょっと自分を見失ってたよ」

「元に戻ってもらえたならよかったです。それより、他の村の人たちを見てませんか?さっきから見渡しても誰もいないようなので」

「そうだった! 村の人達を探さないと!!」

「やっぱりみなさんここにいたんですね」

「あぁ! ここまでのことはみんなを探しながら話すよ」


そういって俺らは村の人々を探すために蔓の周りを捜索しながら、俺はレティーナにここまでの経緯を話した。


「そういうことだったんですか。この植物をバルトさんが……」

「うん、俺もここまで育つなんて思ってなかったから驚いて」

「正直まだ信じられません。私も魔術を使っていますが、今までそういった魔術なども聞いたことがないですし」

経緯を話す時スキルのことを詳しく聞かれたが、女神からもらったスキルなどと言うわけにはいかなかった。

なのでこの世界でもっとも不思議な力である魔術ということにしたのだが、そういった魔術は聞いたことがなくレティーナ半信半疑のようだった。

「俺もこの魔術についてあまりわからないんだ。ただ俺は作物を成長させて村の人たちに、美味しい野菜や果物を食べてほしかっただけなんだけどね」

「バルトさんのその心遣いとても素晴らしいと思います。ただ魔力のコントロールは練習しないと難しいので、今度からはちゃんと練習してから使ったほうがいいと思います」

まぁ、その練習のために使ったはずなんだけどねぇ……。


今回ので適当に使うものではないってことはわかったし、次使うまでに練習しておくことにしよう。


蔓の周りを捜索し始めて数分後、中央の入り組んだ蔓の部分をようやく抜けるとその先に何人かの人影が見えた。

蔓の影であまり良く見えないが、おそらくこの村の人達であろう。

「お!誰かいる」

「本当ですね。早くみなさんが無事か聞いてみましょう」

俺とレティーナは急いで人影の方へと向かう。

人影に近づくとそれは先ほどまで俺が止めようとしていた二人の男と、その話し合いを止めたかったアシッドさんだった。

「アシッドさん無事だったんですね!!」

レティーナはアシッドさんを見つけると、傍に駆け寄っていった。

「レティーナちゃん村に着いていたんだね」

「みなさんお怪我はありませんか?」

「大丈夫だよ。ここには3人しかいないけど、この先の蔓が伸びてない場所でみんな集まってる」

「よかったぁ……本当に心配しました」

どうやら村の人達は無事のようだ。

レティーナは俺の時よりも心底安心したようにアシッドさんと話していた。


そしてそれを眺める俺はというと、さっきまで話し合いをしていた男性二人からじっと見られていた。


もうすでに嫌な予感しかしない。

レティーナは思いのほか怒っていなかったけど、他の村の人からしたらこんなことしてタダで済むはずがない。

俺は冷や汗をかきながら突っ立っていると男性二人が俺に近づいてくる。

終わった……そう思い俺が覚悟を決めていると男の内言葉遣いの荒かった方が俺にいった。

「なぁお前さっき俺らを止めようとした奴だろ」

完全に覚えられてる!

「は、はい。そうですけど」

話しかけてきた男は険しい顔で俺の肩をガッと掴んだ。

次に俺は無事でないかもしれない。

心の中で俺はこう思った。

(さよなら、俺の異世界ライフ……)








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