第6話

村に着くとさきほどまでゴーストタウンののように、静まりかえっていた村の広場でなにやら村人達による話し合いが行われているようだった。

俺はアシッドさんに付いていきながらその様子を眺める。

そうそうレティーナも一緒に来るはずだったのだが、何やらやることがあるとかで遅れて来るらしい。

俺達が広場の中央に近づくと、話し合いをしている村人達の声が聞こえてきた。

「やっぱり森は焼くべきだ!! 村の畑が魔物共に荒らされたんだぞ。このままにしておけるか!」

相当腹を立てているのか、顔を真っ赤にしながら森の方角を指差し対面する村人に怒鳴り散らす男。

「そんなことをしたら、森だけじゃなくこの村にまで火が燃え移ったりしたらどうするんだ! それに森を焼けば森の中にいる魔物が村を襲いに来るかもしれないだろ!」

怒鳴る男の対面の男の人もまた、森を燃やすと村が危険になると訴えているようだ。

「たしかに森が燃えたら、村もただで済まないかも知れない。だがレティーナの占いではもうこの世界は3日ももたないらしいじゃないか。

他のところでもマナの減少で異常事態が続いてるらしいし、この村付近でも魔物達の行動が活発化してる。このまま何もせずに死ぬぐらいなら、せめて畑を荒らした魔物達に一泡吹かせてやらないと気が収まらないだよ!」

「だからと言って他の村人まで巻き込む必要はないだろ! 他に方法はあるはずだ!」

「じゃあその他の方法ってのは何があるっていうんだよ!!」

「それは……。これからみんなで考えていけば」

「だからそんなことをしてる時間はねぇって言ってんだろうが!」


話を聞いてるとどちらの言い分ももっともだ。


片方は今の現状では悪化するであろう村の状況を強引にでも変えようとしている。

そしてもう片方は村の連中を危険にさらすリスクのある方法を取るより、平和的な解決策があるかもしれないと思い留まらせようとしている。

だがその具体的な方法は出ていない。

このままでは危ない方法を取るか、村で争いが起きるのは明らかだ。

早く止めないと面倒なことになりかねん。

俺はさっき村へ戻る途中、アシッドさんが持っていた何種類かの野菜の種をもらいズボンのポケットにしまっていた。

「じゃあアシッドさんいってきます」

「すみませんお願いします」

俺は未だ怒鳴り合う村人二人近くに歩いていった。


二人は近寄ってきた俺に気づき俺のほう向く。


「何だ、お前は? ここらで見ない顔だが、今大事な話をしているんだ。よそ者は引っ込んでろ!!」

森を燃やそうとしている方の男が、俺を見て首を突っ込むなと怒鳴る。

あまりの気迫に少し怖気づきそうになったが、なんとかこらえ二人に向かって言う。

「お取り込み中のところすみません。俺は今日この村に来たバルト・アーカスと言います。

先ほどあちらのアシッドさんから詳しい事情は聞きました。みなさんとても困ってる様子、しかし大事な時こそ落ち着いて話し合わないと何も事が進みません」

「うるさい! こんな状況で落ち着いて話が出来るか!! それとも何かお前が荒らされた畑を元に戻したりできんか!?」

男は俺が水を差したことが気に入らないのか、俺に詰め寄ろうとする。

「ちょっとおい! 関係のない人に当たるのはやめろって! 君も無闇に人の揉め事に口を出さない方がいいよ」

対面していた男の人が俺に近寄ろうとする男を止めながら俺に言う。


俺は二人から少し距離を取りこういった。


「もちろん俺は畑を元に戻すことはできません。ですがそれに近いことはできます!」

「なんだと!?」

俺は男達や他の村人が注目する中、ポケットからもらった種を取り出す。

「ここに取り出したるは、先ほどアシッドさんからもらった野菜の種です。これをまず地面に落とします」

そういうと俺は種を手から地面に落とす。

「そしてこの種に今から俺が、不思議な水を出しこの種をすぐに食べられる野菜に成長させて見せましょう!」

俺は自信満々に言った。

「おいおい、いいかげんにしろよ! そんなこと無理に決まってるだろ!」

俺の一見頭のおかしいような言動に男も再び怒り出す。

しかしもう片方の男は。

「いや待てもしかしてあの人、魔術が使えるんじゃないか?」

「はぁ?あんな奴がか?」

「魔術を使えるものに見かけは関係ない。魔力を持つものの血を受け継いでいるか、その素質さえさえ持っていれば誰でも使えるからな」

男の言葉でずっと怒鳴っていた男も俺の方を興味深そうに見始めた。

よしみんなの興味が俺に移った。

このまま種に水をかけて成長させられれば、スキルの効果も確認できて徳も積める。

俺は両手を種の落ちた場所に向けてかざし水が出るように祈る。

(水よ出ろ、水よ出ろ、水よ出ろ、水よ出ろ!)

そう祈っていると両手に何か熱いものを感じた。

何かくる俺はそう直感した。

次の瞬間。

両手から小便のような少量の水が地面に向かって流れていった。

そして種はその水を浴びてもびくともしない。

水も止まり俺は両手を見たが、両手は少し水で濡れているだけでほとんど変わらない。

興味深そうに見ていた村人も目を見開いたまま固まっていた。

あきらかに失敗まさか俺のスキルが、ここまでしょぼいものとは思わなかった。

俺は冷や汗を流しながらこのあとの自分の置かれる状況に恐怖した。

まずいどうしよう。

その言葉だけが俺の頭でぐるぐるまわっていた。

その時だった。

水がかかってもびくともしなかった地面の種達が突然光を帯びた。

「な、なんだ!?」

それは真っ白に輝き辺りを光が包み込んでゆく。

周りで見ていた人も俺もあまりの眩しさに目を閉じてしまった。

すると今まで聞いたこともないような、ギュルルルルルルというすさまじい轟音と共に俺の両足が浮いたかと思うと、種が置かれていたあたりから

とてつもない量と太さの蔓が四方八方に向けて高速で伸びだしていた。

「なんじゃこりゃああああああああ!!」

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