第5話

まさかこんなに深刻な状況とは……。

「それはどうにかならないものなんですか? 」

「はい今のところはどうすることもできない状況です。残念ですが」

嘘だろ……俺はこの世界で夢の異世界スローライフをして、コツコツと徳を積んでのんびり過ごそうと思ってたのに。

来て早々何もすることもなく、世界とともに滅びるっていうのか。

俺の脳裏には女神エリルの言ったあの言葉が浮かぶ。

『もし徳を多く積めなかったら、次の転生で人間以下。最悪の場合虫にすらなることも……』

このまま何せずに死んだら虫!

それだけは嫌だ!!

でも俺だけの力でどうやってこの世界を救えばいいっていうんだ……。


俺がそうやって途方にくれていると、レティーナが話し始める。


「たしかに今のままだとどうすることもできません。しかし今日ここにあなたが来られたということは、何かしら意味があるように感じます。

ちょうど一ヶ月前、世界が滅亡するビジョンを見てから、私は占いをすることが怖くなってしまいました。

それから毎日、刻一刻と滅び行く世界に何もでぎず、ただただ諦めてその日を迎えるしかないのだと思っていました。

しかし数日前、私の頭の中に私のところを訪れる誰かの姿がビジョンに映りました。

もうすぐ世界が終わるというのに、わざわざ私の元をおとずれる見知らぬ人。

これは何かこの状況を打開することができる人なのかもと私は思いました。

ですから私には詳しくはわかりませんが、あなた自身がこの世界を救う何かを持っていると、私は思いあなたに尋ねようと思ったのです。

どこか心あたりはありませんか?」


レティーナが俺に尋ねる。

「え? 何か言いました?」

「もしかして私の話、聞かれてなかったんですか?」

「いやぁ、ちょっと考え事してたもので。あはははっ」

俺は虫に転生するかもという恐怖で頭がいっぱいになり、レティーナの話をまったく聞いてなかった。

「はぁ……。あなたが本当に何かしらの力を持ってる気がしていたんですが、気のせいだったのかもしれません」

「え? 何がですか?」

レティーナはカーテン越しで表情はわからないが、深いため息つきながら俺に対して呆れているような感じだ。

俺は何も話がわかってないので、その理由がわからない。

「仕方がありませんね。また聞いてなくても困るので、簡単に言いますよ。

私はあなたにこの世界を救う鍵になっているのではないかとおもっています」

「俺が!? この世界を救う? そんなことできますかね?」

「できるかは、わかりません。ですが、私にはそんな予感がするんです」

「そんなこと言われてもなぁ。俺もどうしたらいいのかわかってないし」


俺がこの世界を救う鍵とか言われ世界滅亡回避の方法を考えていると、突然ドアが開き一人の男が駆け込んできた。


「レティーナちゃんは、いる!?」

「その声はアシッドさん。そんなに慌ててどうかしたんですか?」

「それが大変なんだ!! さっき畑に行ったら魔物に畑を荒らされてしまったんだ」

「え、お怪我とか大丈夫ですか?」

「あぁ怪我とかはしてないんだけど、村の連中が魔物の住む森を焼いてしまおうなんていいだして」

「え!? あの森を!?」

「あぁ森がなくなったらただでさえ深刻になってるマナ不足が進行するし、村も危険になるかもしれないからやめといたほうがいいって言ったんだけどね。

どうせ3日後には世界が滅ぶのだからどっちにしろ変わらないとか言って、俺の話を聞いてくれないんだ。だからレティーナちゃんにも説得するのを手伝ってもらえないかと思ってきたんだけど」

「わかりました。私でよければすぐに行きます!」

「ところでさっきからそこにいる人は誰なんだい?ここらへんであまり見かけないけど」

村の住人であろうアシッドさんは、一通り用件を言うと見知らぬ存在の俺を見て聞いてきた。

「そういやまだ自己紹介をしていませんでしたね。俺の名前はバルト・アーカスっていいます。元々町に住んでいたのですが理由があってこの地へやってきました」

「そうだったんですか。こんな状況で何のおもてなしもできなくてすみません」

「いえいえ俺もさっき事情を聞きましたから無理もないです。ところでさっきの話ですけど、俺も説得に協力させてもらえませんか? 」

「申し出はありがたいんですけど村の問題ですので、よその方に迷惑をかけるわけには」

「大丈夫です!こう見えても俺は、人を説得することに関しては右に出るものがいないほど達人級なんで」

「そ、そうなんですか?」

「はい任せてください」

俺が胸を叩いて自信満々に言うと、後ろからレティーナがこう言った。

「すみません。こんなことに巻き込んでしまって……」

「気にしないでください。俺がビシッと説得見せますから」



俺は心の内でいろんなことを思いながら、村へと向かうことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る