第3話

合言葉のようなセリフをエリルが言うと、目の前に3メートルほどの門が出現した。

「うわすげぇ!! こんなのゲームの中でしか見たことねぇよ」

「今までも散々不思議なことあったじゃろ。ここまでのことを全部なかったことにしようするんじゃないのじゃ」

「そういえばさっきの条件的にこの服装で転生していいのか?あっちがファンタジーみたいな世界だったら、この見た目だと怪しまれそうだけど」

俺は自分の身体を差し言った。

死ぬ直前俺はほとんど部屋から外に出なかったから、白のTシャツに黒色のスボンを履いたままだった。

「たしかにその通りじゃな。よしその世界にふさわしい格好にしてやるのじゃ」

エリルが両手を俺にかざすと、俺の服装は別のものに変わっていた。

上着は布でできた薄茶色。

スボンは紐で縛っただけでゴムも入ってない上に所々汚れている。

「もっとマシな服なかったのか?」

「贅沢を言うななのじゃ。あとで自分で立派な物を手に入れればいいじゃろ」

「まぁ高級そうな服を着て、盗賊にでも襲われたら大変だしな」

「おぬしのような変人を襲うようなやつおらんじゃろ。あーそれと言い忘れておったのじゃが。

おぬしの今の綾川瞬という名前も、あっちの世界では使えん。じゃから不自然のないような新しい名前を、今の内に考えておいた方がいいのじゃ」

「名前かぁ。だったら俺の憧れの原点にもなった、ゲームキャラのバルト・アーカスって名前にするかな」

「ほぅその者はどんな人物だったのじゃ?」

「パーティーで唯一マイペースで自由な生き方をしてる男で、夢は世界一大きな空中農園を作ることだったかな」

「おぬしのその掴みどころのない性格は、そのゲームキャラの影響じゃったか」

「え、なに?気になる?」

「遠慮しておくのじゃ」


一通り転生への準備が整った俺は、転生の扉の前に立っていた。


「とうとう俺も旅立ちの時か……思えば長かったなぁ」

「まるで勇者が初めて村を旅立つ時みたいな心境やめるのじゃ。ここに来て大したことしてないじゃろ」

「そういや結局俺はどんな世界に行くんだ? まさか荒くれ者共が闊歩する世紀末世界でヒャッハー! されるんじゃ……」

「安心せい。おぬしの希望通り魔王も侵略者もいない、平和ボケが染み付いた魔法とかもある夢ような世界しといたからのぅ」

「エリルちゃんやっさしぃー」

「だからちゃん付けで呼ぶななのじゃ。はよ行け! おぬしと話しておるとこっちが疲れてくるのじゃ」

「もうエリルちゃんはツンデレだなぁ」

「とっとと行くのじゃああああぁぁ!!!」

「うわああああああ」


俺の悪ふざけにキレたエリルは、俺の背中を思いっきり蹴り俺をゲートの中に無理やり押し込んだ。


…… …… ……


「これが扉の中かぁ。転生するまでに意外に時間あるんだなぁ」

俺はエリルに蹴り飛ばされたあと、しばらく周りが青白い空間を浮いていた。

周りでは急速に移動してるみたいに、いろんな世界の景色が薄っすらと現れては消えていた。

そんな不思議空間の中でも俺は、これから行く異世界に思いを馳せていた。

「どんなところなんだろうなぁ。エリルはかなり平和な世界とか言ってたし、あんまり心配しなくてもよさそうだな」

そう言って俺は腕を頭の後ろで組み、不思議空間の中で寝そべりゆっくり転生の時を待つ。


すると急に俺の手を何者かが引っ張った。


「いだだだだだだ! なになになに!? 誰!?」

俺は引っ張られる方を見たが、そこには白い手のようなものが俺を掴んでいた。

白い手の先には眩しいくらいの白い光しか見えない。

「何なのこれ!? 転生ってこういう感じで連れていかれるようなものなの!?」

俺は一人で叫んでいるが、誰もそれを教えてくれる者はいない。

白い手の力は強く、俺は引っ張れるまま光の中に飲み込まれていった。


「う……うーん。あれ? ここは?」

俺が気がつくと周りは、草が生い茂る草原だった。

そよ風が肌をくすぐり草木がそれに呼応して葉を揺らす。

どうやら俺は無事転生に成功したようだった。

俺は立ち上がり背中についた草や土を払う。


「とりあえずこの世界のことを知る必要があるな。スローライフを送るにしても、ここがどんな世界かくらいはわからないと何も始まらないし。

どこかに情報を聞ける場所があればいいけど」

そう思い俺が周辺を歩いていると、少し遠くに小さな村が見えた。

「お! 最初の村発見! 人がいる所にいけば何か情報があるかも」

俺は心躍らせその村に向かって歩き出した。


村に着くとそこは、遠くで見た時よりも小さく寂れているように見える。

村の中を歩いている人も見あたらないし、本当に人がいるんだろうか?

そう思いつつ村の中を歩いていると、ある家の軒先に一人の老人が腰掛けているのが見えた。

年齢は70~80といったところだろうか、椅子に座り軽く空を見上げている。

「人がいた! あの人に事情を聞いてみるか」

俺は老人に近づき話しかける。

「こんにちは」

老人は俺の言葉に気づいたのか、ゆっくり俺のほうを向くとこういった。

「あぁ……こんにちは。おや? 初めて見る顔だけど、どこのどなたかな?」

「俺の名前はバルト・アーカスです。町で生活にうまく馴染めず、自然豊かなこの地で人生をやり直してみようかと思いやってきた次第です」

「なるほどこんな状況で町の方からわざわざ、このポッコロ村にいらしたのですか」

「ええそれにしてもいい所ですね。森も近いし辺りは一面、草原で風の通りもいいしすごく住みやすいでしょう」

「まぁわたしも生まれてからずっとここに住んでますが、とてもよいところですよ。ただ……」

「ただ?」

「もう少し早くいらしていればよかったんですけどね……」

「何かあったんですか?」

「はい。少し前までは村人もたくさん住んでいたのですが、日々減ってゆくマナ。それに伴って凶暴化してしまった魔物達……。

そしてつい一ヶ月ほど前に判明した、世界滅亡の危機。そういったことが重なり現在、村人は残り20名ほどしかいません」

「え? おじいさん? 今何て?」

「はい少し前までは」

「いやそこまで戻らなくていいですから。聞き間違いじゃなければ世界が滅亡の危機って言ったよね」

「そうです。もうこの世界はあと3日で滅んでしまうんです」

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