第2話

数秒固まったあとすぐに首を横に振りこう言い返す。

「そんな俺に徳がないなんて嘘だろ!? 俺は今までいろんな世界の人々を助けてきたのに徳がないわけが……」

「正確にはおそらく足りていないじゃが」

「え? どういうことだよ」

「天秤の中央にモニターがあるじゃろ。そこ見てみぃ」

俺はエリルに言われ天秤の真ん中の方を見てみると、そこには測定不能の四文字が表示されていた。

「測定不能?」

「書いてある通りじゃ。おぬしの徳を調べた結果正確に徳を計ることはできなかったのじゃ」

「じゃあなんでさっき徳が足りないって言ったんだよ」

「測定不能とは書いてあるが、コインを乗せたほうの皿は上昇したのじゃ。もし転生できる値に到達していたら、コインの乗った皿は沈んでおるはずじゃからな」

「つまり天秤の重さ的には徳が足りてないけど、天秤の数値的にはわからないと」

「そういうことじゃな。今までこんなことなかったからわたしも初めてじゃが」

「この場合俺はどうなるんだ?」

「うーん……正直難しいのじゃ。見た目では確実におぬしは冥界行き。じゃが内部数値はエラーを起こしておるから、この挙動も正確なものがわからんのじゃ」


両手を組み考え込むように難しい顔をするエリル。


「ってことは何? 俺の徳はこの不思議なコインや天秤ですら測定できないくらい、よくわかんないものってことなのか!?」

「残念じゃがそうなるのじゃ」

「え? 俺ただでさえ生きてる時ですら大した人生送ってなかったのに。死んでまでよくわかんないやべー奴認定されんの? 普通に泣きそうなんですけど……」

「まぁまぁ落ち着くのじゃ。ほら飴ちゃんあげるのじゃ」

「いやそれ最初の方に俺が言ったセリフ!! 女神ならもうちょいマシな物くれよ!」

「いちご味は嫌いじゃったか。ならメロン味ならどうじゃ?」

「飴の味じゃない! さっきまで俺がエリルに色々言ってたのに、ここぞとばかりに立場逆転させようとしないでくれない!」


俺の前で何本もの飴を出しながら笑みを浮かべるエリルに、落ち込んでいたのも忘れ俺は叫んでいた。



「とりあえず落ち着いたかの?」

「お前が変なこと言わなければもうちょいスマートに落ち着けたと思うぞ」

「どちらにせよ落ち着けたから問題ないじゃろ」

「まぁそうだけど。それで俺は結局転生はできないのか? 冥界とかいう得たいもしれない世界で生きていかなければならないのか?」

「冥界に行った場合死んだままじゃから、生きていくというのはちょっと違うと思うのじゃが。

まぁ今回は前例のない話。とりあえず転生神様に聞いてみるしかないのじゃ」

「転生神? なんだそのまんますぎるネーミングの奴は」

「言葉を慎むのじゃ! わたしら選択の女神を束ねる転生界の神様なのじゃ」

「やっぱそのまんまの存在じゃないか」

「ええい今から交信するから静かに待っているのじゃ!」


そう言うとエリルは両手を耳の上あたりに当てながら目を閉じた。



「あれからどれだけの月日が流れただろうか……。最初の内は俺もエリルを待っていたが、ただ待つのに飽きてしまい勝手に異世界へ転生した結果。

そこは俺の夢にまでに見た絵に描いたような異世界だった。そこで俺は静かな森に住み地元の住民と細々と暮らしながら、可愛い嫁と結婚して。

なんの不自由もなく幸せに暮らしましたとさ。おしまい」

「わたしがおぬしのために交信しとるというのに、勝手にナレーションつけて話を終わらせようとするんじゃないのじゃ!!」

「あぁ交信終わってたのか。あまりに暇すぎて妄想に耽っちゃってたよ」

「静かに待っておれと言ったのに、交信中もちらちらおぬしの声が聞こえてきて鬱陶しかったのじゃ」

「結構ボリュームおとしてたつもりだったんだけどなぁ」

「丸聞こえだったのじゃ! おかげで転生神様からも心配されてしまったのじゃ!」

「まぁそれはさておいて、転生神様は何て言ってたんだ?」

「わたしに迷惑かけたあげく勝手に話を変えるとは、おぬしむちゃくちゃすぎるのじゃ……」

「やった! 褒められた」

「褒めてないのじゃ!!」


ずっと頬膨らまして怒っていたエリルだったが、一つ小さく呼吸をしてコホンっと話と心を切り替えるかのように話し始めた。


「転生神様からの伝言じゃ。綾川瞬おぬしの転生を特別に許すそうじゃ」

「マジで!?」

「イレギュラーな事態じゃからな。その代わり条件がある」

「条件?」

「一つ目。おぬしは今から転生するわけじゃが、本来転生できぬはずじゃったわけじゃから新しい命の枠が存在しないのじゃ。

よっておぬしは転生に際し今のままの姿、年齢で転生するのじゃ」

「今のままで……か。転生というより転移に近い感じか」

「便宜上は転生という形じゃ。現に転移とは違いおぬしは死んでここにいるのじゃからな」

「言われればたしかに」

「そして二つ目。おぬしは徳があるか分からん状態で転生するのじゃから、転生先で普通の人よりも徳を積むことじゃ」

「普通の人よりって具体的にどのくらいなんだ?」

「感覚的にわかるものではないのじゃ。徳を積んだ状況や大きさいろんなものが影響して徳とになる。とりあえずできる限り多くの徳を積むことじゃ」

「大事そうに言うわりに結構アバウトなんだな」

「続けるのじゃ。徳を多く積めず転生先で死んだ場合、おぬしは次の転生で人間以下に転生することになる」

「えぇ!? なんでさ!」

「さっきも言ったとおりこの転生は特別に行われるのじゃ。それ相応のリスクはあって当然じゃろ。それに人の命の枠は他の生物に比べ多くない。

人間以外の動物や最悪の場合虫にすら転生することも、頭に入れておくのじゃ」

「最悪の場合、虫!? そんなの絶対に嫌だよ!」

「なら少しでも徳を積んでから死ぬことじゃな。最後におぬしの存在は転生先ではイレギュラーな存在。

絶対にその世界の人々に、転生者だとばれてはならんのじゃ」

「聞きたくないけどもしばれたらどうなるんだ?」

「転生神様によって裁きが下り、ここに強制送還され永久に冥界へ幽閉されるのじゃ」

「今までで一番嫌なんだけど!!」

「当たり前じゃ! 本来おぬしのような危険な存在を転生すること事態ありえないことなのじゃ。

問題を起こしたら二度と現世で生きることができないようになると、肝に銘じて置くのじゃ。これで転生神様からの伝言はおしまいじゃ」

「条件がきつすぎて冥界に行った方がマシとさえ思えてきた……」

「そこまで言うなら今から冥界に送ってもいいのじゃぞ」

ニヤニヤと笑いながらエリルが俺に向けて手をかざす。

「すみませんでした! 喜んで転生させていただきます」


即座に土下座でお願いする俺に心底呆れため息をつくエリルだった。


「さてさっそく転生をさせるわけじゃが。おぬしには転生するにあたって一つ能力を授けようと思うのじゃ。

おぬしの好きなゲームで言えばスキルといったほうがわかりやすいじゃろう」

「スキルか! 異世界に行くなら持っておきたいよね」

俺がわくわくしていると、エリルは服のポケットから小さな飴を取り出す。

「では自分のほしいスキルを具体的に口に出してから、この飴を噛み砕くのじゃ」

「え!? その飴ってふざけるために出してた飴じゃなかったのか!?」

「当たり前じゃ!! わたしが意味もなく飴を持ち歩いてるわけなかろう!!」

「いや容姿的にありえそうだったから」

「見た目の話はもうやめるのじゃ!」


俺は怒るエリルから飴を受け取るとしばし考えた。


そして俺は昔から異世界に行くならこれだって決めていたスキルを思い出した。

「よし決まった」

「そうかならそれを口に出して、飴を思い切り噛み砕くのじゃ」

俺は大きく息を吸い込みこう言った。

「あらゆる植物をすぐに成長させることができる水を生み出す能力!!」

そして手に持っていた飴を口に放り込み思いっきり噛み砕いた。


その様子をぽかーんとした表情で見つめるエリル。


「どうかしたか?」

「いやもっとめちゃくちゃなスキルを言うのかと思っていたから、呆気に取られてしまったんじゃ」

「え?よくない? このスキルいつでもどこでも植物がすぐに育って、実がなったり花が咲いたりマイナスイオンが出たり。

何でも対応できそうだしスローライフ送るには十分だと思ったんだが」

「そう言われれば便利なスキルかもじゃが、その世界のあらゆる魔法を覚えられるスキルとか、相手の能力を奪って自らの物とするスキルとかあるじゃろ」

「そういうのはほらその世界の人が使えたりするだろうし。そもそも争ったり戦ったりする予定じゃないからさ」

「戦乱の真っ只中の世界に行ったらどうするのじゃ!」

「まぁそこらへんは女神であるエリルが、うまく平和な世界を選んでくれると信じてるよ」

「今まで散々弄ばれたのに、急に友好的にならないでほしいのじゃ!」

「えー! いいじゃんそれくらい。条件がきついんだしせめて世界くらい楽なところにしてよ」

「おぬし自分が特別に転生させてもらってるってこと忘れとるじゃろ」

「特別に転生できるならそこらへんも特別待遇にしてほしいです」

「あまりにも図々しすぎるじゃろ。しょうがない転生神様にも条件さえ守れば、あとは好きにしてあげろと言われておるしのぅ」

「そうなの!? 転生神様天使じゃん」

「いや神じゃからな。じゃあ転生するためのゲートを出すからわたしの前に立つのじゃ」

そう言われ俺はエリルの前に立つと、エリルは俺に背を向けこういった。


「大いなる転生神の名の下に、彼の者を導く扉よ現れよ!!」

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