神に対策されながら今日も金が実るモンスターもいないかなと思いつつモンスターを狩っています

鬼来 菊

第一章 新社員

最悪の生活の終わり方は最悪だった

 ピロリン


 ある日、世界で同時にこの音が鳴った。


 それを境にモンスターと呼ばれる謎の生命体が各地で発見され、政府はこれを対処しようとするも、モンスターの圧倒的戦力によって敗れた。


 勿論だが、民間人の住んでいるところにもモンスターは現れ、そいつを殺そうとした奴がいた。

 そしてそいつがそのモンスターを殺した時、そいつの持っていたスマホがピロリンと鳴った。


 彼はその内容を確認してこう叫んだ。


「おい!! この化け物共を倒すと金が手にはいんぞ!!」


 それを聞いた人々は次から次へとモンスター狩りに勤しんだ。

 そしてモンスターを倒すと金が手に入るという噂は瞬く間に広がり、今では知らない奴はいないレベルで広まった。


 ある日最初にモンスターを倒した奴のスマホが鳴った。

 彼はなんだと思いながら見た。そこには……


『レベルアップ!! 貴方のレベルは2になりました。 スキルポイントを「1」お送りさせて頂きます』


 というような文章が書いてあった。

 彼はこの画面をトゥウィートし、この画像は瞬く間に拡散された。


 そしてこの、「レベルアップ」があるとわかった人々達はより一層モンスター狩りに勤しんだ。


 そしてこれは、そんなゲームのような世界で、莫大な借金を抱えて、モンスター討伐会社の底辺で働いている一人の男の話である。






「だぁー、疲れたぁー」

 と言いながら、スマホを見る。


『ミナミ ユウスケさんが67円手に入れました』

「たくっ、これだけかよ」


 いくらなんでも少なすぎないか? と思いながらスマホをスマホ厳重保管場所にしまう。


「よし、ラーメンでも食いに行くか?」

 手に入った金が少なかったので好きな食べ物を食いたくなったので同僚のタナカ ユウジロウを誘う。


「あっ、いいでですね、食べにいきましょうか」

 彼はいつでも誰にでも敬語だ。本人曰くそちらの方が喋りやすいらしい。


「じゃあいつものところに行くか」

「そうしましょう!!」

 という事でいつも食いに行っているラーメン屋へと向かった。


 いつもの店に着き、扉を開ける。

「らっしゃい」

 と、無愛想な店長が言う。


「いつもの、で頼む」

 と言うと

「あいよ」

 といつもの返事が返ってくる。


「いやぁー、でも疲れたな今日のモンスターは」

「そうですねぇー」


 今日倒したモンスターはゴブリンの群れだ。

 だが、ゴブリンだからって舐めてはいけない。あいつらはバカではあるがしっかりと原始人レベルの知能はある。罠を張ったり、しっかりと狩りだってする。


 なので舐めてかかると返り討ちに遭うのだ……俺らのような底辺社員は。

 まず社員とは何かについて話そう。


 社員というのは、まあ言わずもがなどこかの会社に入社している人のことを指す。

 そしてこの会社なのだが、モンスターが現れてからすっかり変わった。

 というか経済がとんでもなく変わった。

 

 まずモンスターを倒すと金が手に入るということで仕事をやりたがる人がいなくなった。

 そこで企業はモンスターを討伐しまくったものに衣食住を提供するようにした。


 勿論この衣食住にはグレードがあり、会社内での評価が高ければ高いほど良いものが与えられる。


 よーするに、強いモンスターを倒すとグレードが上がり、良いもんが食えたり、良いとこに住めたり、良い服を着れたりする訳だ。

 さらに上に行けば行くほど会社から良い装備を与えられたりする。


 まあゲームで例えると鍋の蓋より鉄の盾の方が耐久値的なのが多い訳だが、その耐久値などが高い奴ほど上のグレードの奴に渡されると言う事だ。


 だが俺らは底辺の底辺だ。

 借金ありまくりで雑魚モンスター位しか倒せない。


 こんな所謂いわゆる人間のゴミのような奴らに支給される装備もゴミのようなものだ。


 まずはいろんなところが錆びてる銅の剣。

 そしてそこら辺の木を適当に切ってそこに取手が付けられた粗悪品にも程がある盾。

 鎧に関しては無い。普通の服でやるしか無いのだ。

 

 だが普通の装備で挑むと返り討ちに遭うのは分かっているので自分らで工夫している。

 

 例えば装備の下に廃車になった車から拝借した鉄を仕込ませたりしている。

 これで多少は大丈夫になる。

 頭の兜なんかはそこら辺で拾ったヘルメットだ。


 だがヘルメットは案外馬鹿にならなくて色んな攻撃から頭を守ってくれた必需品だ。


 お陰でかなり傷が付いているがこの傷は俺の頭を守ってくれた傷なので結構大事にしている品だ。


「お待ちどう」

 そう言って店主がラーメンをテーブルに置く。

「ありがと」


 そう言って置かれたラーメンをずるずると吸う。

「かぁー!! やっぱここのラーメンは美味いなぁ!!」

「そうですね、麺と出汁がしっかりしてて美味しいです」

「だよなぁ!!」

 

 そのような会話をしてまたラーメンをずるずると吸う。

 ここのラーメンは所謂知られざる名店ってやつだ。

 何故こんなにも店の中はガラガラなのか不思議なくらい美味い。


 まあガラガラな理由は単純で今の人はわざわざ店まで足を運んだりしなからだ。

 だって会社から勝手食事が支給されるのだ。余程のことがない限り行かないだろう。


 まあ俺らはその余程の事が起きているからこうしてラーメン屋に来ているわけなのだが。


 その理由は俺らに支給される食事が余りにも酷いからである。

 その食事の内容は


 まず、確実に賞味期限が切れており、所々に変なものがついている野菜。

 次にちょっと変な臭いがする魚。

 などという明らかに普通は食べちゃいけない食事が支給されるのだ。

 

 ちなみに先程野菜に変なものが付いていると言ったが、その変なものを食べた奴は病気になった。

 そして薬がないのでそのまま死んだ。

 

 なので俺らの間ではその変なものを食ってはいけないという事になっている。


 これ程までに酷い食事なのだ。

 なので今こうしてラーメンを食べている。


「美味かったな!!」

 汁まで完璧に無くなった丼どんぶりを見てそう言った。


「そうですねぇ、とても美味しかったですね」

「よし、それじゃあ帰るとしよう。店ちょーう、会計だ!!」


 そう大声で言うと

「……あいよ」

 といつも通りの無愛想な返事が返ってきた。


 帰り道、今日倒したモンスターは話をしながらとぼとぼと歩いていると


「おい見ろよ、底辺共だ」

 と言われた。

 それを聞いてそいつの取り巻きのような奴らもクスクスと笑う。


 今、目の前にいるこいつらは俺らのグレードよりも四つ上の奴らだ。

 ここで反抗したりするとどんな目に遭うか分からない。


 この世はグレードなのだ。

 よってグレードが低い奴が差別を受けるのが当たり前になってしまった。


「あ、あはは……」

 とタナカが苦笑いをする。


「あ? 笑ってんじゃねぇよゴミ。とっとと失せろ」

 と言われて唾を吐かれた。


 相当ムカつくがここで殴ったりでもしたらとんでもなく酷い目に遭うのが分かるので黙る。


「ハッ、せいぜい邪魔にならないところで死ね」

 と言って去っていった。



「あのクソ野郎共が……」

 そう言って壁に向かって拳を叩きつける。


「ミナミさん、仕方ないですよ、事実ではあるじゃないですか。まあ確かに彼らは言い過ぎだと思いますけれど、僕達だって殆ど人間のゴミじゃないですか」

「お前それ自分で言ってて悲しくならないか?」

「いや、でも事実ですから」


 そう、こいつは嫌な事ですら事実だと言って全て受け止めてしまう癖がある。

 どうにかして辞めさせたいのだがやり方が分からない。

「……帰るか」

 そう言って帰り道を歩くのだった。


 

 色々あったが家に着いた。

「あ゛ぁー疲れたぁー」

 と言いながら鍵も付いていない扉を開ける。


「「ただいまぁー」」

 と言いながら床に倒れ込む。


「おぅ、お帰り。どうだった? いくら稼げた?」

 と、同じグレードのタカハシ ジュンだ。


「ああ、68円だった」

「68!? おいおい何かの冗談だろ? 確かゴブリンの群れだろ? 流石にそんな安くないだろ」

「ゴブリンの群れを倒しても68円しか稼げねぇのが現実だよ、タカハシ」


 まあ流石に安すぎるとは思うが仕方ない。神がそう言っているのだ。

 

 ここで言う神というのはこのスマホに獲得した金額などを教える通知を送ってくる存在だ。


 そしてこの存在を神だ神だと祀っている宗教も出てきている。

 それ程世界は変わったって事だ。


「そうだ、見てくれよこれ!!」

 そう言ってタカハシは奥から段ボール箱を取り出す。

「なにそれ?」


 そう言うとタカハシは自慢げに

「これさ!! 俺がずっと欲しかった武器なんだよね!! よーやく買えたよ!!」

「おぉ!! おめでとぉ!!」


 まず装備を買うということについて説明しよう。

 会社から支給される装備。入手先は一体何処なのかというと、スマホのアプリからだ。

 

 だがただのアプリじゃない。

 これは先程言った神・と呼ばれる存在が作ったアプリだ。

 

 さて、そのアプリの内容はモンスターを討伐した時に貰えるお金で様々なものを買うことができるというものだ。


 これを使って会社内では武器の支給が賄われている。

 つまり会社の社長や副社長、秘書さん達が毎日モンスターを倒しまくり衣食住を支給しまくっているのだ。


 ここまで聞くと普通にいいやつに聞こえるが俺らにこんな生活をさせているのだ。感謝等は特に無い。


「で? 中身はなんだよ?」

 とタカハシに聞くと

「ふっふっふっ、聞いて驚くなかれ!!」

 

 そう言って段ボールを開けて中からよく分からない棒を足りだす。

「……それ……つかか?」


 タカハシはコクコクと頷く。

 どうやら合っているらしい。

「で? 刃の部分はどこ行った?」


 そう言うと彼はニヤッと笑って

「見とけよー」

 と言ってどこかについているらしいスイッチをカチッと押した。


 するの柄の部分からいきなり刃が出てきた。


「おぉ!! いったいどっから出てるんだ?」

 柄の部分よりも長い刃はとても鋭そうだった。


 因みに名前の最初にライトがついてその後にセーバーがつく剣と何だか似てるなんて思ってはダメだ。


「俺にも分からないが、性能は凄い良いぞ」

「へぇ、俺らの持ってるこの剣よりは強いのか?」

「当たり前だろぉハハハ!!」


 さて、性能という単語が出てきたわけだが、勿論これは斬れ味や耐久値だけの意味じゃ無い。

 

 そう、この世界はまさにゲームのようになっているのだ。

 属性というのも勿論ある。


 そして属性は主に七種類だ。

 と言っても、大体聞いたことがあるだろう。


 火、水、土、風、闇、光。

 そして無だ。


 属性の相性とかは分かると思うが一応説明しておこう。


 水は火に強く、風は水に強く、土は風に強い。

 闇と光はお互いが弱点だ。

 そして無は全てに弱点を持たない代わりに、全てに美点びてんが無い。


 そして今彼が手にしている剣は「無」属性だ。

 だが素の斬れ味、攻撃力が高いので普通に良い一品だ。

 

 因みに他にも装備には色々な効果があったりするのだが、それはまた別の機会に説明するとしよう。



「で? どうよそれ」

 その剣の感想を聞く。

「うんとね、普通に握り心地は良くて軽いよ。これからの討伐が楽になりそうだ」


 そう言っている彼の顔は満面の笑みだ。よほど嬉しかったのだろう。


「それなら心強い、明日討伐するモンスターは……えーと……なんだっけ?」

「確か、ベビードラゴンの群れを討伐するんじゃなかったっけ?」

「あーそんなんだったな」


 ベビードラゴンは名前通り赤ん坊のように小さいドラゴンの事だ。

 しかしこいつも舐めてかかっちゃいけない。

 こいつらは自身の体が小さいのを利用し素早く動き、一気に獲物を焼き尽くすモンスターだ。


 しかもこいつらタカハシがさっき言った通り群れで行動するのだ。しかも結構大きめのやつ。

 そして一体一体が地味に強いと来た。

 なので相当頭を使う事になりそうだ。

 

 まあ他にも厄介な点があるのだが……そこは気合いで何とかなるだろう。


「んじゃあ俺は今日疲れたしそろそろ寝るよ」

 そう言ってベットへ向かい、そのまま倒れ込んだ。



「ん、ん゛〜」

 伸びをしながらベットを出る。

 そして窓を見た。

 

 とても良い景色だ。

 空は晴れ渡り、鳥が飛び、その鳥を蛙のようなモンスターが食べ、それを蛇のようなモンスターが食べた。


 起きて早々弱肉強食を学べる景色が観れるとは思わなかった。

「ん〜、良い景色だ」

 と言っていつもと同じ椅子に座って朝飯を食べる。


 朝飯は日に日によって作るやつが変わる。

 どうやら今日はタナカのようだ。


 さて、今日の朝ごはんのメニューは

 そこらへんで取った食べられる雑草(食べられるというだけで全くもって美味しくない)


 そして………………水!!

 

 これだけである。

 そりゃそうだ。支給される食べ物がゴミなのだからゴミよりマシなものを食わないと行けない。

 だがゴミよりもマシなものが少ないのだ、仕方ない。

 


「ぐぅ〜」

 食べ終わってすぐお腹から今の音が出た。


「やっぱお腹空いてますよね〜」

 とタナカが言った。

「いやいや、無いよりは全然マシさ」


 そう言って立ち上がり、腕をブンブンと振る。

「うし、じゃあ行くか?」

 タナカとタカハシを見て言う。

「行きましょうか」

「行くか!」

 そうしてベビードラゴンの群れがいる所へと向かうのであった。



「さて、と。ここがベビードラゴンの群れの棲家か?」

 そう言って目の前にある小さな洞窟を見ながら言う。


「ええ、どうやらそこらしいです」

 とタナカが言う。

 最近のベビードラゴンは洞窟に住むのかと思いつつ罠を張る。


 ベビードラゴンの大好物を設置し、そこに上からかごを被せて奇襲する感じだ。


 ベビードラゴンの狩りの主流の方法だ。

 とはいえ、洞窟の前に餌を置いたので匂いを洞窟の奥に行かせなければならない。

 

 こういう時に風属性の武器とか装備なんかがあれば便利なのだが無いものは無い。

 なので究極奥義をやる事にする。

「よし!! やるぞ!!」

 その究極奥義と言うのは……


 団扇うちわでパタパタである。


「なあ、これちゃんと匂い届いてるのかな?」

「恐らく届いてますよ」


 少し心配しながらもひたすらパタパタし続ける。

 すると


「……なんか足音聞こえね?」

「えっそう?」

「いや、多分来てますよこれ」

「だよな!! よし、早く上に登るぞ」

「はっ、はい!!」


 ということで木の上に登る。

 因みにこの木は何故かよく分からないが無傷でここに立っていた。


 このモンスターが跋扈ばっこするこの世界では無傷の木というのは非常に珍しい物だ。

(なぁんでこんなモンスターの巣の目の前に……)

 と思いつつ登る。


 大人三人が木の上でジッとしているのはとてもシュールな光景だろう。

 きっと近くに親子がいたら

「ママ見て!! 変な人たちがいる!!

「しっ、見ちゃいけません!!」

 というような会話が生まれるに違いない。


 そして待つこと二十秒弱、遂にそいつが姿を現した。

「きっ、来ましたよ」

「ああ、来たな」

 俺らの目線の先には……


 全長約50cmでピンク色で短足でつぶらな瞳をしていて尻尾をフリフリさせながらまるで笑顔のような口でモグモグと大好物のキャンディなどのお菓子類を食べているドラゴンがいた。


「くっ……」

 タカハシが下唇を噛んでいる。


 そう、確かにこいつらはすばしっこく、一匹一匹が強くて群れをなす倒すのが面倒くさいドラゴンなのだが、もう一つ倒しにくいところがある。

 それが


             


 という事だ。

 そう、まるでペットのような感じの可愛さがあるのだ。

 殺せない、可愛すぎて殺せない。

 対人間に特化しまくったドラゴンなんじゃないだろうか?

 そう思えるほど可愛いのだ。


 だが、殺さなくてはならない。殺さないと俺らの住む家が無くなる。

 それだけは避けなければ。


「や、殺るか……」

「えっ、やっ、殺るんですか?」

 タナカが少し戸惑った声で言う。


「今やらなくていつやるんだよ。あぁーほら、ゾロゾロと奥から出てきてるじゃないか」


 そう言って既に五匹くらいになったベビードラゴンを指さす。

「でっ、でも……」

「殺るぞ!!」

 そう言ってタカハシを見てコクリと頷いた後、籠を落とした。


「ピギィー!!」

 そう叫んでベビードラゴンが籠の中で暴れ回る。

 しかし籠はかなり重くしたため体当たり程度では抜け出すことは出来ない。


「よし、今のうちに仕留めるぞ」

 そう言って木から降りる。

「まっ、待ってくださいよぉ!!」

 タナカもそう言いながら降りてきた。

 そしてタカハシは何も言わずに降りてきた。


「さて、今日の晩飯だ、コイツらは」

 そう心に言い聞かせないとコイツらを食うことなんてできないし、ましてや殺す事も出来ない。

 

 彼らもそれを分かってか

「そっ、そうだな!! そいつらは晩飯だな!!」

「えっ、ええ、そうですね」

 と、自分の心にそう言い聞かせていた。


 覚悟を決めて刃を籠の隙間から突き刺す。


「ピギャ!!」

 

 その鳴き声が聞こえた後、刃の先にあるベビードラゴンはぐったりとした。


 途轍とてつもなく心が痛い。

 流石に可愛い物を殺すと精神的ダメージが凄い。


「ぐっ、ぐおぉ……」

 コイツは間違い無い、強敵だ。

 だが俺らの家が懸かっているのだ。殺るしかない。


「うっ、うおぉぉぉ!!!」

 そう叫んで目を瞑り、無闇矢鱈むやみやたらに刺す。

 タナカとタカハシもいつの間にかそうしていた。


 剣が何かを突き刺した感触が手に伝わってくる。

 だがそれを無視してひたすらに刺し続けた。


 そして鳴き声が一切しなくなって目を開けた。

 籠の中には見るも無惨なベビードラゴンの死骸が転がっていた。


 流石に毎日このような死体は見てるから吐きそうとかは無いが、いつもに比べて間違いなく心のダメージはでかい。


「まだ狩りは終わってねぇのにすげぇ辛ぇ」

 そう言って地面に座る。

 アスファルトの破片が尻に食い込んで少し痛い。


「でも……も倒さないと、家、無くなっちゃいますよ?」

 タナカがそう言った。


 そうだ、これがないと家が無くなる。こんなモンスターが跋扈してる世界で野宿なんてのは不可能だ。自殺に近い。


「仕方ない、行くか」

 覚悟を決める。

 家を失わない為に洞窟に一歩踏み出す。



 一時間後


 俺たちは今、絶賛逃走中だ。


 まず後ろをチラッと見てみよう。

 ベビードラゴンが目視できる限りで間違いなく100匹いる。

 うん、無理だ、勝てねぇ。


 しかも本当に驚くべき事にベビードラゴンの群れの一番最後にいる奴は……


 

 

 ベビーなんて生優しいもんじゃない。あいつらはデカいしとんでもない射程の炎を吹くし非常に獰猛どうもうだ。


 逃げない訳にはいかない。死ぬからだ。


「うおぉぉぉぉ!!!!」

 そう叫んで必死に走る。

 止まってはいけない、転んでもいけない。

 さすれば死ぬ。


 どうにかして逃げ切りたいが難しいだろう。

 何せあいつらは鼻が良いのだ、すぐに見つかって死んでしまう気がする。


 だが俺はこうも思っていた。

(ドラゴン倒せれば結構金手に入るしチャンスじゃね?)


 ドラゴンは結構強い為、かなりの大金が手に入る筈だ。


「なあ!! こいつらどうにかして倒そうぜ!!」

 そう叫ぶ。

「はぁ!? 何言ってるんだ!! やばいって絶対!!」

「でもさ!! もし倒せたらかなりの金が手に入るしチャンスじゃね!?」

「それはまあ確かにそうだけど……」

「じゃあ殺ろうぜ!!」

 

 しかし今の状態では倒すこともできずに返り討ちに遭うであろう。

 その為、まずはタカハシが買った剣のスキルについて知る事にした。


 まず、装備のスキルについて説明しよう。


 スキルというのはその装備に付いている何かしらの技や、特性の事だ。


 タカハシ曰く、このライトセー…………刃収納剣(仮)の性能は以下の通りだ。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


       刃収納剣(仮)




       攻撃力:110


       耐久値:561


       重さ:軽量級


       属性:無



      スキル名:逃走



         効果


 刃を出していない間、この剣の持ち主の移動速度と防御力が20%上がる。


➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖➖


 という感じらしい。

 因みに俺らの剣にはスキルはない。

 何故かというと、アプリで購入したやつじゃないからだ。


 購入してないやつはスキルが無いのだ。

 何故付与されていないのかは分からない。


 だが今、この状況で倒すならば、この刃収納剣(仮)が討伐の鍵となるだろう。


 

 そしてすぐ、作戦を説明する。

「えぇ、まじかよ!!」

「わっ、分かりました!!」


 二人が納得した事により、作戦が開始した。



 まず三手に分かれる。

 勿論だがドラゴンは誰かを追う。

 ベビードラゴン達も誰かを追うだろう。


 さて、ここからだ。まずはドラゴンが誰を追うかだ。

「おっ、俺か!!」

 と、タカハシが言う。

 そして彼には刀収納剣(仮)がある。


 その剣のスキルのおかげで彼の移動速度は常時20%アップ中だ。


 そしてベビードラゴン達は……

「ぼっ、僕ですか!!」

 タナカに行ったようだ。


「タカハシ!! タナカ!! 頑張ってくれよ!!」


 そう叫んで、残された者の大事な作戦の一部を遂行する為、彼らの先へ行く。


 そう、残された者の仕事は……彼らの補助である。

 実はこれが一番大変だったりする。

 理由は単純で、一つのことに集中ではなく、三つのことに集中して走らないといかないからだ。


 まず一つ目はドラゴンに追われている人をいつでも助けられるようにする。

 二つ目はベビードラゴンに追われている人をいつでも助けられるようにする。

 三つ目はしっかりと自分の安全も守らないといけない。


 この三つを同時にやらなければならないのだ。

 だから一番大変なのだ。

 

 二人のことをチラチラと見ながら走る。

「お、おい!!」

 とタカハシが叫んだ。

「どした!!」

 と返すと


「ドラゴンそっち行くかも!!」


 と、タカハシが言った。

(おいおい、ターゲット変更ってやつか? まじかよ)

 

 そう思いながらドラゴンを見る。

 確かにこちらに標的を変更しそうな雰囲気だった。


「分かった!! んじゃあその剣投げろ!!」

「あ、ああ!!」


 その会話の後剣がこちらに向かって投げられた。

 あれをキャッチ出来なければ作戦は終わる。

 超集中してキャッチする。


「よし!!」

 そう言った直後、ドラゴンが俺に向かって走ってきた。


「うぉぉ!! やべぇ!!」

 俺は足が速いからなんとかなる筈だがやはり殺気を向けられると怖い。


「タナカ!! ベビードラゴンは大丈夫か!?」

 タナカが少し心配だ。彼は結構いい歳をしている。そろそろバテてしまうかもしれない。


「なっ、何とか大丈夫です!!」

 と返ってきた。

 その言葉を信じて作戦を次に移す。


「よし、行くぞ!!」

 そう叫んでくるっと180°回転する。


 勿論だが回転した先にはドラゴンがいる。

 そしてドラゴンに向かってとある物を投げる。


 キャンディーなどのお菓子類だ。

 

 ベビードラゴンの目線の先がキャンディーになる。

 そしてそのままドラゴンに向かって走る。

 正確にはお菓子に向かってだが。


「うしきた!!」

 そのままドラゴンに向かって走る。


「タカハシ!!」

 名前を呼ぶ。

「あっ、ああ!!」

 彼も覚悟を決めたようだ。


 ドラゴンはベビードラゴンに纏まとわりつかれて身動きがとりにくそうだ。


 そして俺らはドラゴンに向かって飛んだ。

 ドラゴンはこちらを見た瞬間手でバシッと飛ばそうとしてきた。


 その時、タカハシを盾にする。

「行くぞタカハシ!!」

「おう!!」

 直後、タカハシは吹っ飛ばされた。


 だがこれも作戦の一つだ。

 そのまま吹っ飛ばされてるタカハシを踏み台にして大きく飛ぶ。


 そして刃収納剣(仮)の刃を出して、ドラゴンの脳天に突き刺した。


「ギャオオォォォォォ!!!!」

 ドラゴンはそう叫び、そのまま地面にドシンという音と共に倒れた。


「やっ、やったのか?」

 倒れたドラゴンを見てそう言う。

 その目に光は無かった。


「やったぞぉ!! ドラゴンを倒したんだ!!」

 そう言いながらキャンディーを遠くへ投げ、タカハシに駆け寄る。


「やったぞ!! タカハシ!! おいしっかりしろ!!」

 そう言って頬をペチペチと叩く。


 大丈夫だ。死んではいないし、バキバキに骨が折れているわけでも無い。


 何故か? それは剣のスキルのおかげだ。

 剣のスキルは持ち主の移動速度と防御力を20%アップさせるというもの。


 そう、剣の「持ち主」に対してこの効果を発揮するのだ。

 なので効果はずっとタカハシが受けていたのだ。

 なのでタカハシを盾にした。


 そして俺らの服には廃車となった車の鉄が仕込んである。

 

 車の表面に使われている金属の大体は鋼鉄という鉄だ。

 硬度はおよそ140HVであり、これに20%プラスされると168HVとなる。

 

 これは鋳鉄という鉄の硬度とほぼ同じである。

 そして鋼鉄は多少曲がりにくいので体にベコォっと食い込む可能性は低い。


 さらにドラゴンは足腰の方が強く、尻尾の薙なぎ払いが結構強い代わりに、上半身は殆ど体内で炎を生成する器官でできている為、手の筋力はあまり無い。


 だがドラゴンは上空に飛んでいる敵に対して手で攻撃する癖があるらしいのでそれを利用した。


 取り敢えず、勝てた、勝てたのだ。

 まだタカハシの頬をペチペチとしながらそう思う。


「タナカ!! 大丈夫か!?」

 返事が無い。


「おい!! 返事をしろタナカ!!」

 ……もしかして怪我してるのか!?

 そう思いタナカを探すことにする。


 

 タナカは案外近くにいた。

 ただし、予想を裏切る形でだが。


「なあ、タナカ……なんで……お前」

 俺の目の前には……


「……裏切ったのか?」


 タナカと「竜狩隊りゅうがりたい」のリーダーのミネヤマ リュウノスケとそのメンバーがいた。



「……コイツか?」

 ミネヤマはジッと俺を見つめた後にこう言った。

「ええ、後もう一人タカハシって奴がいます」

 

 一瞬何を言っているのか理解ができなかった。

「おいタナカ!! 何してるんだ!!」

 そう叫ぶと


「うるせぇこのゴミが!! 今ミネヤマ様が喋ろうとしていただろう!!」

 と返された。


 なんだこの豹変ぶりは。

 どうやらタナカは少しやばい奴だったようだ。


 確かに今思えば俺らがドラゴンを討伐しようとしてきた時に彼が竜狩隊に通報することもできた筈だ。


 まず、竜狩隊とは何か説明しよう。

 竜狩隊とは、その前の通り、竜を狩る部隊の事である。


 では何故そんなものが存在するのか、それは竜は基本的に倒してはいけないのだ。

 理由は単純で危険だし、金がかなり手に入るし、経験値もかなり貰えるからだ。


 その為、コイツらを狩りまくるようになってしまったのでこの部隊が各会社にでき、今では竜狩隊以外は狩ってはならないことになっている。


 くそ、タナカの目的は何か分からないが今かなりのピンチだという事は分かる。

 だがここで戦うのは賢明じゃない。

 やるべきことは……


 逃げる事のみ!!


 ということで全力で彼らと反対方向に向かって走る。

「……追え」

 とミネヤマが言った瞬間、竜狩隊のメンバーがとんでも無いスピードで接近してきた。


「うわ早えぇ!!」

 呆気なく捕まり地面に押しつけられる。


「ゴミが、さっさと大人しく捕まれよ」

 その声には聞き覚えがあった。


 どうにか顔を見ると驚いた。

「おっ、お前はあの時の!!」

「ああ、俺だよ」


 そう、あの時、ラーメン屋を出た後に出会った俺らを散々馬鹿にしてきた奴である。

 そういえばあいつらが怒った対象はタナカなのに何故か唾を吐かれたのは俺だった。


「くっそ……あの時からか……」

 そう言って力無く顔をドサッと地面に落とす。


「たいちょー、コイツこんなもん持ってますぜ」

 と言って刃収納剣(仮)をミネヤマに渡す。


「……ほう」

 彼の顔は変わらず無表情だ。

 「……コイツとタカハシという奴を捕まえろ。そして牢屋にぶち込んどけ」


 そう言うと俺らから踵きびすを返し、そのまま歩いて行った。

「歩け」

 そう言われて強引に立ち上がらせられる。

 手首に縄を巻かれているので抵抗できない。


 そうして俺とタカハシは会社の牢屋の中に入れられるのだった。




 コツ、コツ、と足音が響く。

 周りはかなり薄暗く、あまり居たい所ではない。


「うーん、ここかなぁー?」

 そう言って魔法を使い牢屋の中へ入り、目の前のぐったりとした男に話しかける。


「ねぇ、君が……ミナミ ユウスケ君かな?」

 その男はゆっくりと顔を上げてこう言った。


「…………誰だお前」

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