シークエンス5 再会

鐘の音が聞こえてくる。

つまり、朝になったということだ。


ユール「んん……ん~~……」


ベッドの上で大きな伸び。

本当ならもうしばらく寝ときたいけど、客人が二人もいるんだ……

朝食の準備をしないとね。


服を着替えて、外に出ようとドアの取っ手に手をかけたところで


イリア「ぅおっはよ~~~う!!」


ユール「へぶぐぼっ!?」


ドアに攻撃された!?


イリア「ありゃ?」


二回バウンド、地面に着地。

あれ?何かデジャビュ?


イリア「いや~……ははは……

ごめん、起きてたんだ!」


ユール「お、お前は何でこういつもタイミングよく……!!」


イリア「うん、ワザとじゃないんだよ!?

マジだよ!」


ユール「昨日のはワザとだっただろ……」


イリア「朝ごはん出来てるよ~」


ユール「話題そらすな!

ってかマジかよ!?」


イリア「マジマジ~」


ユール「ニーナは?」


イリア「疲れてるみたい。

まだ寝てるよ~」


ユール「起こすのも可哀想だな……

先食べるか」


イリア「そだねっ」


ユール「上手く誤魔化された気がするんだけど?」


イリア「ごはんっごはんっ!」


ユール「……はぁ~~…………」


まあ、イリアがああなのはいつもの事だし気にしない。

オレは下に降りる。


ユール「何じゃこの豪華なのは!?」


朝から何のフルコースですか!?


イリア「何か気合入っちゃって~」


ここでオレは不安を覚えて、食料保管庫を開けてみる。

ものの見事に空っぽだ!!


ユール「……イリア」


イリア「な~に~」


ユール「オレがため置きしておいた食糧が無いんだけど?」


イリア「やだな~

ここにあるじゃん~」


にこにこ

そんな擬音が聞こえてくるくらい満面の笑みで机の上の料理を指差す。

あ~はいはい、そうですか~


ユール「お前、ちょっと買い出し行って来い」


イリア「やだ!」


ユール「じゃあ手伝え」


イリア「仕方ないなぁ~

手伝ってあげよう」


ユール「踏ん反り返るなバカヤロウ!」


イリア「そんな口をきいていいのかい~だだだだだだだだ!!」


ユール「ほ~う……

このまま引き千切ってやろうか!?」


イリア「いひゃいいひゃい!!

ごえんなひゃい!!手伝いまひゅ!!」


ユール「…………とりあえず、この量は多いな……

可哀想だけどニーナを起こすか……」


イリア「い、いひゃはっひゃよ~……」


自業自得だボケ。



………………………

………………

………



ニーナ「うわぁ…………」


ニーナを起こして身支度を済ませるのを待ち、下りて来ての第一声。

そりゃそうだ。


イリア「どうどう?すっごいでしょ!?」


ニーナ「え……!?

あ、え~っと……

はい、すごいです……(量が……)」


ユール「このバカが作りすぎたんだ……

とりあえず食べるの手伝ってくれ……」


ニーナ「……は、はい……

頑張ります……」


イリア「さあさあ食べようじゃないか!」


ユール「…………いただきます……」


ニーナ「……い、いただきます……」


まあ量はすごいけど、こいつの場合味はものすごくいい。


ニーナ「あ、美味しい」


イリア「でしょでしょ!」


ユール「今度は量も加減しろ」


イリア「なははははは……

ちょいと張り切りすぎましたなぁ~」


ユール「……はぁ~…………」


こいつに説教するのも説得するのもいつもどおり無駄だ。

諦めて少しでも目の前の料理を片付けようと頬張る。


どんどんどんどん


ユール「ん……?」


ニーナ「……扉の音……ですか?」


イリア「誰か来たのかな?」


ユール「こんな時間に誰だろ?」


イリア「大抵の人は学校とか仕事に行ってるのにね~」


とりあえず扉を開けてみる。


ルキス「うい~っす」


ユール「お前か。

おはよーさん。

学校は?」


ルキス「おはよーさん。

授与式があるからないよ。

だから来た。」


ユール「な~るなる」


ルキス「邪魔していいか?」


ユール「ああ、良いよ。

ついでだから飯食うの手伝え」


ルキス「……今度は何やらかした?」


ユール「保管庫の中身全部だよ……」


ルキス「あ~……

まあ、手伝ってやるよ……」


ユール「出来ればこの後の買出しも……」


ルキス「ま、しゃーねーか」


ユール「恩に着る……」


ルキスをつれてテーブルに戻る。


ルキス「ああ、この子がお前の言ってた……」


ユール「おう。

ニーナって言うんだって。

で、ニーナ、こっちはオレの友人のルキス」


ルキス「ルキス・テーナ。

よろしくな、ニーナちゃん」


ニーナ「あ、はい!

ニーナです!!」


ユール「自己紹介終わったら食おうぜ…………

食い終わる気がしない…………」


イリア「も、もう無理……」


ユール「無理言うな!食え!!」


イリア「ふええぇぇぇぇぇ…………」



………………………

………………

………



ルキス「あ~…………

もう、しばらく食べ物見たくない……」


ユール「同感だ……」


イリア「…………………………」


ニーナ「うきゅ~~~~~~…………」


何とか冷蔵庫に収まる分まで減らせたけど、胃へのダメージは壮絶だ。


ユール「ああ……

この後の買出しが憂鬱だぜ……」


ルキス「……まあ、手伝ってやるから……

さすがに同情出来るぜ……」


ユール「いやマジ助かる……」


イリア「ご、ごめん……うぷっ……私パス」


ユール「お前が一番行くんだよ!!」


イリア「ふえええぇぇぇぇぇ…………」


ニーナ「あぅ……わ、私もお手伝いします……」


ユール「いや、ニーナは休んでていいよ。

手伝ってもらって助かった。

ありがとな」


イリア「ニーナちゃんにだけ優しいのはおかしい!

差別だ!!ロリコンだ!!」


ユール「うっせーよ!

差別じゃなくて区別だ!

やらかした本人は責任もって働け!」


ルキス「まあ、とりあえず休憩しようぜ。

このままじゃ動くに動けん」


ユール「……それはものすごく同感だ……」



………………………

………………

………



ユール「届きそう?」


ニーナ「あ、はい!

ここなら大丈夫です」


例の秘密基地で、オレとニーナは木の実を採っている。

ちなみにイリアとルキスは肉担当。違法だけどね。

後、イリアに魔力をしこたま持っていかれて、ただいま魔力はゼロに近いです……


ユール「んじゃ、またこんなもんで売りに行こうか……」


ニーナ「はい~」


既に3往復してるこの作業。

せっかくの木の実が、だいぶ減ってしまった。


ニーナ「……ユールさんとイリアさんって、本当に仲がいいですよね」


町に戻る道中、ニーナがそんな事を言う。


ユール「まあ、仲がいいって言うか、昨日も言ったとおり腐れ縁だけどな」


ニーナ「イリアさんとはどう知り合ったんですか?」


ユール「まあ、初めは家が横だったんだよ。

だから小さい頃からの付き合いなわけ」


ニーナ「なるほど……

って、あれ?

じゃあ、今も横なんですか?」


ユール「いや、違うね~……

あいつの親って、かなり腕のいい医者でさ。

王宮に仕えるために引っ越していったんだよ。」


ニーナ「あ、そうだったんですか」


ユール「まあ……それで戦争に出て行って戦死したのは、オレの親と同じなんだけどね。

だからあいつも戦争反対組なんだよ」


ニーナ「そうだったんですか……

あ、でも、家が王宮の近くって事は、大変なんじゃないですか?」


ユール「まあ、あいつの場合、よくオレの家にいるし、

オレの義理姉が理由知ってるしね。

まあ、あいつの親の手柄もあって、何とか見逃されてる感じだな……」


ニーナ「手柄?」


ユール「あいつの母親が異能型魔導師だったんだよ。」


ニーナ「異能型……それで……」


ユール「存在するものを〝転移〟する魔法でさ。

傷とかを消す……まあ、性格には他の場所に移してなかったことにしてたからなぁ」


ニーナ「え?

でも、別のところに移したからって、なかったことにはなりませんよ?」


ユール「移す場所ってのは、何処でもよかったみたい。

例えば大地。例えば草木。例えば敵軍。」


ニーナ「なるほど……」


ユール「ちなみに親父さんは土の魔導師で、半端なく強かったよ。

断層弄くって、山割った事もあったなぁ……」


ニーナ「あはははははは…………」


ニーナ「あ、じゃあルキスさんは?」


ユール「ああ、あいつは単純に殺し合いに興味がないだけ。」


ニーナ「え゛?」


ユール「面白いだろ?

それだけでこんな国のお荷物な奴の場所にいるんだぜ」


ニーナ「えぇっ!?

ユールさんがお荷物な訳ないじゃないですか!」


ユール「お上から見たらお荷物だろうよ。

戦争に出ない、学校に行かない、働かない。」


ニーナ「……でも……って、あれ?

ユールさんってどんな魔法使うんですか?」


ユール「オレ?

あ~~…………オレは……」


ニーナ「あ、あの……言い難かったらいいですよ?」


ユール「なはは……やさしいな、お前は。

人が多くなってきたから言い難いけど、まあ、お前と同じ魔導師だよ」


ニーナ「あ、って言う事は……」


ユール「そういう事。

さてと……さっさと売るか~」


ニーナ「あ、はい!」



………………………

………………

………



適当にござを広げて、木の実を並べる。

結構レアな奴もあるので、呼び込まなくても人は集まってくる。


ユール「ありがとうございました~」


さっきまで出来ていた列の、最後の独りが終わった。


ユール「ニーナ、後どのくらいある?」


ニーナ「半分より、ちょっと少ないです」


ユール「んじゃ、もうちょっとか」


空を見上げると、太陽が真上より少し西に向いていた。

午後2時くらいかなぁ~


ニーナ「あれ?」


ユール「ん?」


ユミナ「あ!!」


ニーナ「お姉ちゃん!?」


ユミナ「ニーナ!!」


ニーナが通りかかった女の子に抱きつく。

探してた子ってこの子なのか。


ユミナ「大丈夫だった?

辛い思いさせてごめんね?」


ニーナ「うん、最初は辛かったけど、ロリコンお兄ちゃんたちが優しくしてくれたから平気だよ!」


失われる言葉。

止まる時間。

つかまれる服。


ユミナ「あんた……こんな小さい子に何してるの!?」


ユール「いや待て誤解だ!!

それでなければイリアの陰謀だ!!」


ユミナ「何訳のわからない事いってるのよ!!」


ユミナ「歯を食いしばりなさい!!」


ユール「いやだから――!!」


ばちいぃぃぃん


ああ……

今日も空が青いなぁ……



………………………

………………

………




ユール「……で、何で同じ事聞くの?」


ユミナ「あなたが真実を言わないからでしょ?」


ユール「いや、さっきから言ってるじゃん……

こいつが倒れてたから、助けただけだって……」


ニーナ「そ、そうだよお姉ちゃん!

何回言っても変わらないよ……」


ユミナ「ニーナ、こいつをかばっちゃダメよ!」


ニーナ「か、かばってないよ……」


何故か完全にオレが悪役になってる……

って言うか、こいつはどれだけオレを悪者にしたら気が済むんだ?


ユール「いや、あのな――」


イリア「ゆ~る~」


ルキス「……何正座してるんだ、お前?」


何度目かの返答をしようとしていると、イリアとルキスが帰って来た。


ユール「あ、お前らちょうどいいところに……」


ルキス「ナンパでもして失敗して叱られてるのか?」


ユール「叱られてるのは事実だが、元凶はお前の横に立ってる。」


ルキス「イリアのことか?」


ユール「そいつ以外に誰がいる」


ルキス「ご愁傷様。

で、何したんだお前は?」


イリア「身に覚えがございません」


ユール「ニーナにロリコンって言う言葉教えただろ?」


イリア「うん。で?」


ユール「ニーナが言ったさっきの台詞」


ニーナ「え、えっと……」


ユール「『最初は辛かったけど、ロリコンお兄ちゃんたちが優しくしてくれたから平気だよ』

だとよ」


ルキス「………………」


イリア「あっはははははははははははははははははははははは!!!!」


ルキスは同情のため息を、イリアは大爆笑。

メッチャ腹立つんですが……


ルキス「あ~……名も知らぬ女子よ……」


ルキス「ユール……こいつは、マジで何もしてないぞ?」


ユミナ「あなたがグルになって嘘をついてる可能性は?」


ルキス「さぁな。あるかも知れんが、とりあえずニーナちゃんの意見とこのバカの意見も聞いてやればどうだ?」


ユミナ「はぁ……まあいいわ。

貴方もごめんなさいね。

少し気が立ってたわ。」


丁寧に頭を下げてくる暴力女。

その素直さに少し驚く。


ユール「そうだな…………二度目は勘弁してくれよ」


ユミナ「…………」


ユミナ「ニーナ、行きましょ」


ニーナ「え?えと…………あの……」


ユール「オレらにかまう事はない。

いけよ」


ニーナ「えっと……で、でも……」


ユミナ「ニーナ?」


少し先に進んでいた女が振り返る。


ユール「まあ、いつでも遊びに来ればいいさ。

場所は分かるだろ?」


ニーナ「あ、はい!

で、ではまた」


そう言ってニーナは走っていった。


ユール「さて……続きするか」


ルキス「そうだな」


イリア「え~……もうだるい~」


ぼかっ!


イリア「ほぎゃあ!?」


………………………

………………

………


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