シークエンス2 晩御飯と少女

ユール「そろそろいいか?」


獣道の途中、オレはイリアに聞く。


イリア「ん……そっかな?」


イリアが手を離す。

山道も厳しくなってきたし、手を繋いでいる必要性ももうないし。


ある程度山道を登ると、今度は下り坂に出る。

つまり山を越えているわけだ。


山を下りるとそこには草原が広がっている。

左右には森が広がっているが、中央からかなり距離がある。


ユール「さぁて……」


オレはあたりを見回す。

何処かに美味そうな晩飯が這いずり回ってないか。

ま、いるわけないんだけどね。

この戦争で狩の回数が増えているから、ここらの動物は逃げたか食われたか・・・

そんなところだ。


イリア「う~ん……」


イリアもあたりを見回している。


イリア「この辺、流石にいないね。」


ユール「そだな……森、入ってみるか」


イリア「あいさー!」


適当な場所から森に入る。

同じような風景が続くこの森。

よく、道に迷った兵士とかが餓死してるんだよな~……

ま、そのくらい風景が似てるということで。


イリア「あ、ユールユール!」


小声でオレの服を引っ張るイリア。


イリア「イノシシ発見!」


イリアが指を刺す方向を見ると、イノシシが巣の中でごそごそしていた。


ユール「ナイス!

じゃ、よろしく」


イリア「ほいほ~い。

『предложение(プリドルジニー)』」


イリアは手を前に突き出し、呪を唱える。

足元には、赤く光る六角形の魔法陣が現れる。


イリア「『Гром Может(グロームモージェル)』」


突き出した手の前に、Гром Можетと現れる。


イリア「『отвергать(アトゥヴェレゲイツ)!』」


最後の呪を唱えると、現れた文字が砕けた。


そしてイリアは手を振り上げる。


イリア「Дождь молния(ドゥシュ モールニヤ)!」


手を振り下ろす。

そのモーションと共に、轟音が鳴り響いた。


イリア「イノシシの丸焼き、いっちょあがりぃ♪」


イノシシの巣は、ぱちぱちと音を立てて燃えている。

オレは上着を脱いで近づく。

イノシシが死んでいるかを確認し、上着で火を消す。


持ってきたナイフでイノシシの食べれそうな部分を切り取り、籠につっこむ。

残りの残骸は、見つからないように適当に隠す。


ユール「んじゃ、もどるか」


イリア「ほいほ~い」


肉が取れたらもうここには用はない。

兵士に見つかる前にとっとととんずらする。


来た道を戻り、草原に出た。


樹が覆い茂った場所にひっそりと隠れている獣道。

オレたちは元の場所にもどるため、そこに入っていった。


イリア「んじゃ、後はご飯どうするの?」


ユール「適当に果物とって帰って、市場で何か買うよ」


イリア「今晩はご馳走だね~」


ユール「何でお前が目を輝かせる!?」


イリア「ごちになりますっ!」


ユール「断る!」


イリア「何でさっ!?」


ユール「何でオレがお前に飯をくわせにゃならん!?」


イリア「え~……晩御飯作るの面倒なんだもん」


ユール「いっつもそれだな、おい」


イリアも両親は戦死。

料理の腕は両親譲りで良いが、めんどくさがってやたらオレにたかって来る。

……自分で作った方が美味かろうに。


ユール「材料費、5・5(ごーごー)だぞ?」


イリア「もちもち!」


そんな会話をしながら、いつもの場所にもどってくる。

オレは籠を下ろして、別の籠を隠し場所から取り出す。


ユール「んじゃ、適当に果物を採ってくぞ~」


イリア「あいあい~」


二人で適当に木の実を採っていく。

量は二人分以上。

まあ、市場で売るためだ。


イリア「……そういやさ~」


木の実を採りながらイリアが話しかけてくる。


ユール「ん~……?」


イリア「今朝の新聞で出てたけど、うちらの国、今有利なんだって」


ユール「……そ。」


イリア「ま、どーでも良いんだけどね。

でも、負けたら私たち国民がどうなるか……ってのがね」


ユール「まあ、そうだわな。

勝った方が良いんだろうケド、巻き込まれる人の身にもなってほしいよなぁ」


イリア「だね~」


イリアがとった一個で、籠が満タンになる。


ユール「帰るか」


イリア「うん」


二人で獣道を下る。

ちなみにイノシシの肉の籠をオレが背負い、果物の籠をオレが抱いている。

何でこいつは手伝ってくれないんだ?

……まあ、毎度のことなんだけどね。


イリア「あれ?」


ユール「ん?」


イリア「女の子が倒れてるよ?」


ユール「こんなところで?」


オレは抱きかかえている果物の籠を下ろす。

みてみると、獣道の端っこ……つまり、脇の草むらに体半分が埋もれた状態で10歳くらいの女の子が倒れていた。


肉の籠も下ろして、その子に近づく。

顔を見ると青白い。呼吸は整っていない。


ユール「やばい、めっさ衰弱してる!」


イリア「じゃあ、私が抱えて先行くから、ユールはちゃんと荷物持ってきてね!」


ユール「ん……了解したくないけど了解!」


まあ、こんなとこに食料置いてて、万が一みつかったら持って行かれるし……

肉もあるから、もしかしたら誰がやったのか捜索される可能性もある。

オレは籠を担ぎなおして、すぐにイリアの後を追いかけた。

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