シークエンス1 イリアとオレと秘密基地

遠くの方で鐘が鳴っている音が聞こえる。

この鐘の音は王宮……城から聞こえてくるものだ。


仕事をする者は起きて仕事に行け。

勉学をする者は起きて学び舎に行け。


それを告げる鐘だ。


だがオレはもぞもぞと布団にもぐりこむ。

冬ももう終わって春になってきた時期の今。

まだ寒さが残っているのに何で布団から出ないといけないのか。


布団を直して、その中に潜る。

これでうるさい音は聞こえない。


オレの意識は再び心地よい闇の中に落ちていった。



………………………

………………

………



また遠くの方で鐘の音が聞こえる。

昼ごはんの時間……か。


ユール「くぁ~~~~……」


大きな欠伸を一つ、オレは起き上がる。


のそのそと服を着替え、下の階に降りる。

誰もいないリビング。

親は戦死し、義姉は嫁いで行った。

つまり、この家にはオレしかいない。


コップに水を入れ、一気に飲み干す。

それを流しに下げて、フライパンを取り出す。


ユール「ま、この時間だし……」


学校に行くより、昼飯だろ?


オレの空腹はピーク直前。

朝飯兼昼飯を作る用意をする。


ユール「~~~♪」


適当に卵を落とし、サニーサイドアップ。

ま、いわゆる目玉焼きって奴ね。


トーストをトースターに突っ込んでタイマーをまわす。


目玉焼きとトースターが焼きあがるのはほぼ同時。

飛び出したパンを皿に乗せて、その上に目玉焼きを乗っけて出来上がり。


横に育てているプチトマトを添えて朝ごはん完成。


ユール「さーて……」


オレはパンに噛り付きながら考える。

今から学校いっても完全遅刻だ。


午後の授業は出ることはできる。

が、おそらくお説教つきだろう。


……サボるか。


食べ終えた皿を流しに置き、オレは玄関に向かう。

することないなら今から晩飯の調達でもしとけば自由時間が増える。

うん、なんて優雅な一日なんだ。


靴を履き、外に出る。


快晴。

冬の冷たさが残った風が吹き抜けるが、晴れた空から降ってくる暖かな日差し。

その温度差が心地いい。


ユール「ん~~~~~……」


軽く伸びをし、山に向かって歩き出す。


仕事で市場と河、山を行き来している人がそこそこいる。

そんな中、オレは山に向かっている訳だが……


イリア「ゆぅるうううううぅぅぅぅぅ!!」


ユール「ん――ごばぶっ!?」


呼ばれた気がして振り向きかけた頬に、

何かものっそい硬いものが激突する。


ユール「ごぶっ!がへっ!おごごごごごごご!!」


二回バウンド、三回目にスライディング。

ものっそい痛い。

そして口からありえない声が出た。


ユール「ってーな!誰だ!?」


オレが何かが飛んできた方をみると


イリア「ふふん!」


にやけ面の幼馴染、イリア・フルランが仁王立ちしていた。


ユール「お前か!何しやがんだ!!」


イリア「おはよ、ユール!

起こしに来たよ!」


ユール「起こしにくるには遅すぎるわ!

しかも起きてるのに何で痛めつけられにゃいかんのだ!?」


イリア「さあ?なんとなく?」


ユール「なんとなくで人を吹っ飛ばすなよ……

つーか、何したんだよ?」


イリア「蹴りいれた」


ユール「……ああ、そうかい

じゃ、オレは晩飯調達しに行くから」


イリア「ちょいちょい!!

学校はどうすんのさ!?」


ユール「あ、そうだそうだ。

お前なんで学校に行ってないんだよ?

この時間は学校だろ?」


イリア「お前が言うな!

私は自主休校だ!」


ユール「威張るなバカヤロウ!

……とか言いつつ、オレもそれなんだけどな」


イリア「だよね~

じゃ、いこっか」


ユール「へいへい」


オレとイリアが学校をサボるのはいつものこと。

学校側は、行けば説教をするが、もうほぼ諦めている。


まあ、状況が悪化したら強硬手段に出るだろうが……


空を見上げる。

雲ひとつない青空。

このきれいな空の下で人間は殺し合いをしている。


理由はとてもくだらない。


この辺りは王国が2つある。

それの権力争いだ。

方やが方やを取り込もうとしている。


ただそれだけ。


戦える若者はみんな戦争に駆り出されている。


で、戦争に駆り出すには若い奴らは、そういった学校で訓練を受けさせられている。

まあ、オレたちはサボってるんだけどね。


イリア「……で、ユール」


ユール「ん~?」


イリア「今晩、何にする?」


ユール「出来れば肉食いたいなぁ」


イリア「なははは……またかぁ~」


肉は戦争に駆り出されていく人達に献上するのが原則だ。

店以外では、基本魚や野菜が主食。

ま、無視してるんだけどね。

バレなければそれは合法っつー訳で。


そうこうしているうちに、オレたちの秘密の穴場に着く。

子供の頃、探検とか言ってはしゃぎ回っていたときに見つけた小さな広場。


そこに果物の種などを持ち込んで埋めていたら、いつの間にか芽が出て樹になり果実を実らせた。

山の奥の奥で、人里からは見えない。

オレたちが何度も何度も、何年も何年も通い続けているので、獣道がひっそり出来ている。

それでもなかなか見つけられない、オレたちの秘密基地。


イリア「じゃあ、はい!」


そういって手を差し出すイリア。


ユール「……ま、しゃーねな」


オレはその手を握る。

開いている片方の手で、その場所に隠してある籠を担いだ。


イリア「じゃ、いこっか!」


そういってイリアがウインク一つ、オレとイリアは更に山奥へ続く獣道へ入っていった。

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