第18話 お嬢様、このクソガキ様、どういたしましょう?

「え!?」


 突然の事に、肩までのウェーブがかった焦茶の髪をしているピノ・アリーレンは身動きが出来なかった。

 だが、灰色の短髪に銀のラウンドピアスをした変態執事デセオ・バーリッシュは、何事もなかったかのように、自分の体に刺さる寸前で矢らしきものを手で掴んだ。

 デセオ・バーリッシュという男は色々と吹っ飛んでいるが、元暗殺者アサシン。動体視力、反射神経など、運動神経が一般男性より遥かに優っている。

 この変態だが優秀な執事がいなければ、今頃、ピノの喉元に刺さり、彼女は亡くなっていたかもしれない。


「これは暗殺者アサシンが使う初歩的な武器、ミニボーガン、ミーガンでございます。矢に毒を塗り、たとえ避けられても少しでも擦れば、動きを止められるようにできているのです」


「え、大丈夫なんですか!?」


「ご心配には及びません。大丈夫でございます。わたくしは致死量の毒じゃないと死なないよう、ありとあらゆる毒で暗殺者アサシンとして私は訓練されましたので」


 紳士的な笑みを浮かべると、デセオはミーガンの矢をバキリと折った。


「このミーガンを使う目的は、大抵は相手の動きを封じるため、なので、子供でも使えるような仕組みになっているんですよ」


 そして、ミーガンの矢を地面に叩きつけると、踏みつけた。


 そんな様子を、


「おい! あいつヤベーぞ!」


「ただの執事じゃねーのかよ!」


「あんな奴がいるなんて聞いてねーぞ!」


「でも矢を掴んだからもう少しで!」


 草むらから誰かが見ていた。そして、聞こえていたのは幼い声。


「……お嬢様、少々この場を離れます。ここから動かないでください」


「え、あ、うん、はい」


 まだ事態を飲み込めていないピノが頷くと、デセオは静かに歩き出した。


(すごいデセオさん! 足音がしない!)


 デセオは元暗殺者アサシン。暗殺というものは、相手に気づかれずにやれてこそ。

 遠くから離れ、投げナイフや矢のような武器で全て事をなせればいいが、そうもいかない。

 確実に、暗殺する、一番手っ取り早い方法は、相手に気づかれずに近づくこと。


 歩き方や、歩幅など、暗殺者ならではのものがあるのかもしれない。

 だが、彼が成せるのは、鍛え上げられた足の筋肉だ。


 そんなデセオにしかできない歩き方で、彼は草むらに近づいていく。

 足音がしない、ということは、


「どーすんだよ!」


「逃げるか!?」


「逃げても奴らに見つかれば殺されちまうよ!」


「じゃあどーすんだよ!」


 草むらの主は、ヤバい人が近づいている事に気づいていない。

 よって、


「うわぁ! お前いつ近づいた!」


「離せ! 離せよー!」


 ヤバい執事にあっさり確保されてしまった。


 草むらにいたのは、


「え……、子供?」


 汚れて破れボロボロな服を着た、少年たちだった。


 少年たちは、俵を持つようにデセオにがっしりと掴まれ持ち上げられ、足をジタバタさせている。


「お嬢様、このクソガキ様、どういたしましょう?」


 悔しそうな、泣きそうな表情の少年たちとは裏腹に、デセオは意気揚々と晴々した笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る