第6話 お嬢様、これも暗殺者冗談でございます。
「ですが旦那様。旦那様はじめ、アリーレン家の皆様のお嬢様への態度は、あまりに酷く冷たく、
灰色短髪に銀のラウンドピアスをした、アリーレン家筆頭執事、デセオ・バーリッシュは嘘泣きでも涙を流し、それを指で拭った。
「殺意を覚えるとは! 瞬間的に感じるからそう言うんじゃないのか!」
顔を真っ赤にし、激昂し続けているピノ・アリーレンの父親、カパル・アリーレンは唾を飛ばしながら叫んだ。
「ええ、ですから。旦那様方の顔を見た瞬間、殺意を覚える。故に、殺意を覚え続けているんでございます。間違ったことは申しておりませんでしょう?」
「正しい使い方だったな! さすが首席卒業者!」
「
デセオは
「いざ! お仕えしてみれば! お嬢様はただの一度もお食事の時に笑ってくださらない! ただの一度も!」
デセオは顔を両手で覆い、天を仰いだ。
「それというのも!」
「ひっ……」
デセオは指を少し開き、鋭い眼光でカパルを睨んだ。
「旦那様が料理長に指示をし! お嬢様のお食事だけ質素な食材! しかも! 量は半分以下! これがアリーレン家のやり方か! と、
「もう狂っているよな、色々と……」
「さらには! それぐらいの量を食べてもお太りにはならないと! 寧ろ、食べない方が健康的にも良くないと! 何度も
「笑いが込み上げたんだな!」
「
「もっと怖いな! そしてグロテスクだな!」
「そして己の
「だから! お前が言うと笑えないんだよ!」
「ええ、ですから、
「何がですからなんだ!」
「笑えない冗談、それを、
「なるほどな! ……少しもなるほどじゃないな! 初めて聞いたぞ!」
「そうでございましょうね。先程、
「お前が考えたのか! げっほっごほっ!」
カパルは、
「旦那様? あまり声を荒げますと、血圧が上がってしまいます。それ以上、血圧が上がりますと、お薬を飲まなくいけなくなりますよ?」
「お前のせいだろ! というか! 俺が高血圧予備軍なのを何故知っている!」
「
「ううっ……」と、デセオは悲しげに目を手で覆った。
「ですので、主治医から言われていたのでございます。旦那様にあまりストレスを与えず、塩分の少ない、あっさりした料理を召し上がってもらえと」
「そ、そうだったのか……。それは、すまなか——」
「ですが、お嬢様へ酷い態度をなさる旦那様など、
デセオは晴々とした爽やかな笑みを見せた。
「通りでな! 最近っ胃もたればかりするわけだ! あーもういい! もうわかった! ピノ!」
「はっ、はい!」
怒鳴り声で呼ばれ、ピノは姿勢を正した。
「お前がいるとそこの執事が調子に乗る! だからこの家から! 領地から出て行け!」
「え……」
「痩せて令嬢らしい体型に戻り、あのグロンド様よりも素晴らしい婚約者を見つけるまで帰ってくるな!」
「——……」
ピノは、何か言おうと口を開いたが、言葉を飲み込み、口をきゅっと結んだ。そして、小さく、だけど、しっかり頷いた。
「わかり、ました……」
ピノの目元に涙が浮かんでいたが、流すまいと、また彼女は口を結んだ。
「…………」
それを、デセオは爽やかな笑みのまま横目で見ていた。
「ああ、そこの貧民執事」
「はい?」
「お前はここに残っていいぞ。
「ありがとうございます」
デセオは胸に手を当て、紳士的な笑みで傅き、体を戻すと、
「
爽やか且つ満面の意味で言った。
「支離滅裂だな! 全く言葉が繋がっていないじゃないか! 少しもありがとうじゃないだろう!」
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