働く人々の健康を守る! ようこそ労働者の保健室へ

 苦しむ人の心の声が聞こえる看護師・足立里菜は、失敗続きで勤めていた病院を解雇されてしまう。電車内で急病人を助けたことがきっかけで、企業に医師を派遣する医療サービス会社『E・M・A』からスカウトされた里菜は、産業保健師として新たな道を歩みだす。

 産業保健師とは、企業を巡回し労働者の健康指導や衛生管理を行う看護師のこと。医師免許を持つ産業医とペアで働く人々の健康を守るお仕事です。

 しかしペアを組む産業医の鈴木風寿は、若くてイケメンのエリート医師ですが、自分にも他人にも厳しい堅物で、素人の里菜をパートナーとして認めない。それでも患者の心の声を聞き、労働者の味方になって企業に立ち向かい、必死に成長していく姿が微笑ましいのです。

 里菜たちだけでなく働く人々にもドラマがあります。見た目は精力的に働いているようでも、家族のため、同僚のために身体の不調を隠してしまう人がいる。辛くても誰かのために働く人々の健気な姿に胸を締め付けられます。

 最初は堅物で冷たい印象だった鈴木先生も、実は気配り上手で優しい一面も見えてくる。知識も経験も未熟だが、患者に親身に寄り添う里菜の姿に鈴木先生の評価も変わってくる。お互いに信頼で結ばれていく鈴木先生と里菜の関係にも注目です。

 働く人の健康だけでなく、現代の社会の労働問題を描いた本格社会派小説です。


(「命を紡ぐ医療小説」4選/文=愛咲優詩)

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