第50章| プリーズ・トラスト・ミー <11>名刺共有ソフト

<11>



・・・・・・、というキーワードにぴくりと反応してしまう私である。

先輩たちの会話に耳をそばだてた。



「なんや~、二人ともニヤニヤしてえらい楽しそうやなぁ」荒巻先生が声をかけた。


「プーッ、クスクス・・・・・・いやちょっと、面白いことがあったんで」福島さんが答える。


「なになに? 面白い話なら教えてよ~」持野さんが突っ込んだ。


「えっ・・・・・・これ言っちゃっていいのかな? どう思います? 」福島さんが黒木先生を見る。


「まぁいいんじゃない? だって鈴木先生本人が、自ら公開しちゃってる情報なわけだし・・・・・・」


「鈴木セブンがどうしたん? 」


「実は・・・・・・ウチの会社、名刺共有ソフトを使ってるじゃないですか。それを見てたら鈴木先生がを共有していたんですけど・・・・・・」


「何? 見てみよ~っと」

持野さんが『株式会社E・M・A』で使っている名刺共有ソフトを開いた。



「これよ、これ~」黒木先生がそれを見て笑うので、私も一緒に覗き込んだ。


そこには一枚の名刺が取り込まれていた。



表面

----------------------------------------


 XXX物産株式会社


 受付事務

    増田ますだ 沙世梨さより


-----------------------------------------



裏面

----------------------------------------


 ゴハン行きませんか?

 よかったら、連絡ください

  TEL:080-XXXX-XXXX

  LIME ID: XXXX▽XXX


-----------------------------------------



「ぎょえ~~!! これ、名刺ナンパやんか! 」荒巻先生が楽しそうに両手を上げた。


「そうなんですよ。この明らかにナンパ目的で渡された名刺を、会社の名刺管理ソフトに共有してしまうってどうなのかと・・・・・・ふはははは」福島さんはおかしくてたまらないという様子で笑い転げている。


「こんなん100%、ウチのビジネスに関係ないやろ。ホンマに鈴木セブンは、けったいな男やわ~」



「里菜ちゃん、このXXX物産株式会社って知ってる? 」持野さんに言われた。


「あ・・・・・・はい。わりと大きな会社で、制服着た綺麗な受付嬢さんが数名、受付カウンターに常駐しているようなところです。でも私が同行しているときには普通に受付をしただけでしたけど・・・・・・」


「そりゃまぁ、女性社員が同行しているときには、こういうのは渡さんわな~。受付嬢のサヨリちゃんも、なかなかやるなぁ~」




――――――――あ、そうか。私がいた時にはこういうのなかったけど、鈴木先生、仕事中にけっこうナンパとかされてるのかも・・・・・・・・・・・・。



そう思ったとき、またお腹に差し込むような痛みが走った。




――――――――うっ。まずい。ト、トイレ・・・・・・・・・!!!



「すっ、すみません!! 私、お手洗いに行ってきます!! 」急いで席を立ちあがった。





――――――――・・・・・・――――――――・・・―――・



足立里菜が出ていったあとの室内。



「あれ、里菜ちゃん。ショック受けちゃったかなぁ」福島が言う。


「あの二人はなんもないみたいやで。里菜ちゃんがうちのチームに来たばっかりの時にカマかけたんやけど、あの反応は『シロ』。男女関係ではないな」荒巻が肩をすくめた。


「でもペア組んでた時、仲の良い雰囲気だったわよ〜。お互いに憎からず思ってるってことは、なくはないんじゃないの? 」黒木が言う。



「うふふ。どうでしょうね。ところで私、思うんですけど・・・・・・」

持野が言った。

「最近、鈴木セブンの出現頻度が上がっているんですよね。この部屋で見かけることが増えました」



「なんで? オフィスに怪獣でも出とるんか? 」



「あ~。なるほどね! 」黒木が言った。


「僕もピンときた。本来、鈴木先生は直行直帰が多かったけど・・・・・・。もしかして、んじゃない? ・・・・・・里菜ちゃんの」



福島の言葉に、荒巻が吹き出して爆笑した。


「カーーーーッッ!! 隣のクラスの子が気になるからって、何かと用事作って教室を覗きに行く中学生かいな!! あいつら年いくつや!!! ぶわっは~!! 」



「まぁまぁ、ほんのりと初々しくて、可愛いじゃないですか~。いわゆる『師弟愛』みたいなやつかもしれませんし」



「師弟愛てそんなアホな~。弟子になんからんわぁ~」



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