第50章| プリーズ・トラスト・ミー <10>凄腕シゴデキの新人保健師!? その4 信じさせる技術
<10>
「じゃあ “業界80団体が作った『ベスト保健師コンテスト』で最優秀新人賞” って・・・・・・」
「あれはなぁ。リトル荒巻その1、リトル荒巻その2、リトル荒巻その3、その4・・・・・・からの~、 “リトル荒巻その80” までの80名の業界関係者が集まって作った団体で開催したコンテストやで~。なお、開催場所は俺の心の中」
「エエっ!??・・・・・・・・・・・・!! 」
とんでもないヘリクツだ。
「それなら “異例のスピード出世を果たして、外郭団体からもお墨付きを得た” という触れ込みは一体、どういうことですか?? 」
「うーん。それも、『リトル荒巻リーグ・格付けランキング』でZクラスからBクラスに急浮上した件? “外郭団体” は、俺の身体の右腕の・・・・・・おそらくこのへんにある団体かな?? 」荒巻先生が自分の右肩の上のほう、空中を指さした。
「意味不明ですっ!! やっぱり、それ全部、荒巻先生の創作・・・・・・嘘、ってことですよね? 」
「そうかい?? でも案外、世の中そんなものかもしれへんよ?? 」
荒巻先生は開き直ってすっとぼけている。とんでもない話だ。
「荒巻先生が、むちゃくちゃですよ~! 」
助けを求めるように持野さんを見ると、持野さんが言った。
「まぁでも、わりとよくあるかも~。『ナントカコンテストで金賞XX回』、『クチコミランキング 堂々の第1位』『有名インフルエンサーが愛用している●●』・・・・・・そういう、実態はよく分からないけどなんか凄そう! って思ってしまう謳い文句。冷静に考えると、ああいうのってどこまで信じて良いのかわからないよね」
「あるある。そこらじゅうにあるわ。『バンドワゴン効果』、『ハロー効果』っちゅーのがあってな。人間は、みんなが選んでいる人気アイテム、行列のできる店、権威ある誰かが推薦したモノなんかを良いと思い込んでしまうんやな。その心理的特性を利用した宣伝ワザやね。だからあの時、俺も咄嗟に、里菜ちゃんを格上げしようと思ったんや~」
「でも、嘘の宣伝で格上げしても、あまり意味ないですよぅ」
「ふふふ。里菜ちゃん、 “Fake it, until you make it” ・・・・・・って、知ってる?? 」持野さんが言う。
「『うまくいくまでは、うまくいっているふりをしておけ』・・・・・・英語のことわざや。
誰でも最初から、成功者やベテランにはなれへん。でもそういう振る舞いをしていたら、そのうちいつか、真実になるのかもしれん、という」
荒巻先生が立ち上がって、事務所のホワイトボードに大きな円を描いた。
「これまた『メラビアンの法則』っちゅーのもあってな。この法則、よく誤解されているんやけど “人は見た目が9割” 的な意味ではないんや。正しくは『言語・聴覚・視覚の情報が矛盾する状況』で、人間はどの情報を重み付けして判断するか、という研究から導かれた法則。そしてその重み付けの割合は・・・・・・」
荒巻先生が円を三分割して字を書き入れた。
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言語情報(Verbal)7%
聴覚情報(Vocal)38%
視覚情報(Visual)55%
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「つまり、いかにも新人っぽい若々しい里菜ちゃんが、言語情報で “私は凄腕保健師の足立です” という、疑わしげな自己紹介をした場合でも、その時に相手が受け取る視覚情報・・・・・・服装や姿勢、それから聴覚情報・・・・・・声の調子や喋り方など、これらがシゴデキっぽければ、けっこう信じて貰える確率は、上がるってことやな~」
「え~と、今のお話を前向きに考えれば・・・・・・。
行列ができる引っ張りだこ保健師だとか(バンドワゴン効果)、権威ある賞を受賞して認められている保健師である(ハロー効果)、という宣伝をしつつ、まるで『凄腕シゴデキ保健師』であるかのような見た目、表情、自信のありそうな声色などでそれらしく振る舞っていたら(メラビアンの法則)、最初はフェイクでも、いつの間にか現実もそれに近くなっていくかもしれない( “Fake it, until you make it” )、・・・・・・ってことでしょうか?? 」
「ん。ま、そういう売り出し方もあるっちゅーことや。それに加えて前に教えた褒めの技術、ミラーリング、バーナム効果なんかを使いこなして、さらに上級編の『たとえ話』、『心を動かすような感動的な
「むぅ・・・・・・理屈はわかりました。が、私は、欺して自分の意図通りに人を誘導するようなことは、したくないですッ・・・・・・」
「そうかいな? 人に信じさせる技術は、悪用すれば『騙しの手口』にもなる。けれども裏を返せば
ちなみに木須社長とはプライベートでも仲良くさせてもろとるからな。今回のシゴデキ保健師の件は、あとで俺からネタバラシしとく。欺すことにはならんから、安心してや」
「確かに、産業保健職たるもの、心理テクニックの悪用は厳禁だよね。『信じてもらう技術』は、いい方向にだけ、活用しないとねっ♪ 」持野さんが苦笑いで付け加えた。
・・・・・・そんな話をしていたら、部屋に女性産業医の黒木先生と、先輩保健師の福島さんがヒソヒソ話をしながら入ってきた。
二人ともニヤニヤして、意味ありげに笑っている。
「ねー。もうっ、
黒木先生が小さい声でそう言うのが聞こえた。
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