第50章| プリーズ・トラスト・ミー <6>風邪が流行りまくっている件

<6>



木須社長が言う。


「実は新しくウチの会社で始めたネイルサロンなんだけど。前は個人でやってた腕のいいネイリストを店長として引き抜いて、サロン自体はかなり評判になってて。店構えは小さいけど有名芸能人なんかも来てくれてる。ただ最近・・・・・・」



「どうされたんですか? 」持野さんが訊いた。



「・・・・・・最近、店でやたらと風邪が流行ってるんだ」



――――――――風邪!!? 



木須社長が言葉を継いだ。

「お客さんの予約がパンパンに入ってるのに、ネイリストが交替で風邪になる。でもこっちも客商売だからゴホゴホ咳をしているネイリストに接客もさせられないじゃん・・・・・・。それで休ませると治って、休んでたほうが出勤するけど、別の者がまた風邪で休むから参っちゃって・・・・・・これ、どうにかならない? 高い空気清浄機でも買えばいいのかな? 儲かってる店だから、投資してもいいとは思うんだけど~・・・・・・」



「うーーーーーーーーーーーーーん・・・・・・その拠点は、実は契約範囲外なんやけど、他ならぬ木須社長の頼みやったら、なんとかして差し上げたいしなぁ・・・・・・」荒巻先生が腕組みをして考える。


そして荒巻先生がパッと目を開けた。


「よし! じゃあ足立さんに現地調査に行ってもらおう! 」


「えっ、私・・・・・・ですか!? 」


荒巻先生がガハハと大きな口を開けて笑い、さっと立ち上がって私の両肩に後ろから手を載せて言った。


「この子はウチのエースなんですわ~~! どうです!! 貫禄があるでしょう!! 」



「えっ、えっ・・・・・・エース!? 」



前フリもなくいきなり過大な宣伝をされてしまって、私は戸惑うばかりだった。


木須社長も不思議そうな顔をしている。


荒巻先生が続ける。

「この子はですね、業界80団体が作った『ベスト保健師コンテスト』で最優秀新人賞を取ったあと、異例のスピード出世を果たしまして。外郭団体からもお墨付きを得た、凄腕シゴデキの新人保健師ですわ~。もう、人気で引っ張りだこ! 各方面から『足立さんに救われた』という、喜びのお手紙が届くほどなんですわ~」


荒巻先生が私の手をタコのように四方八方に引っ張った。



それを見て、最初は怪訝な目で見ていた木須社長の姿勢が変わった。


「えっ・・・・・・そうだったんですか。なんかそう言われると、凄い人に見えてきたナァ。じゃあお願いしちゃおうかな。足立さん、よろしくお願いします」



(ちょっ、ちょっと荒巻先生~~!! )



振り返って荒巻先生に目で抗議したけれど、荒巻先生はニヤリと笑うだけだった。



――――――――・・・・・・――――――――・・・―――・



荒巻先生と木須社長が去った後、持野さんと部屋に残る。



「持野さ~んっ。いきなり無茶ぶりですよぅ・・・・・・」


「まぁまぁ。荒巻先生もいきなり里菜ちゃんをからかいすぎだと思うけど・・・・・・まぁ、まずは現地に行って、様子見てきたらどう? わからないことがあればサポートするし、多分荒巻先生が予想していたように、換気の問題なんじゃない? 」



荒巻先生は先ほど、『? 』とだけ言って帰ってしまった。



「おっと。社長からの相談が入ったから残り時間が少なくなっちゃった。今日は健康診断結果用紙はオフィスに持ち帰らせてもらって、『要精密検査』のやつだけ荒巻先生に見てもらうことにしよっか」


「あ、は、はいっ」

持野さんに言われて、個人情報に関する書類を一時的にお借りする場合に使う、手続き書類のファイルを開いた。



「で、私は今日このあと別の会社で保健指導が入ってるから、ネイルサロンの件よろしくね。夕方オフィスで会いましょ」



「ふぁ、ふぁい・・・・・・」



自信ないなぁ。そう思いながらもうなずいた。

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