第50章| プリーズ・トラスト・ミー <3>どこまで本気でいいんかい その2

<3>


 会社の中に入ると、灰青色の髪をした女性社員が出迎えてくれた。美容系だから服装や髪の毛のカラーはきっと自由なのだろう。


案内された部屋には若い人を中心に、数名の社員が集まっていた。

社員達が一斉にこちらを見て口々に挨拶をしてくれる。


いい関係が築かれているみたいだな、と直感的に思った。

小さな会議室のスクリーンには安全衛生委員会の議事が投影されている。



席に着くと言われた。


「今日の産業医講話テーマはなんでしょうね? 」

「楽しみですね~!! うふふ」


すでにかなり、場があったまっているみたいだ。



荒巻先生が言う。

「え~。先月は「~常識に欠ける上司、気にかける! ~『職場のハラスメント対策』」というテーマでお話しさせていただいたんですが。今月は『健康診断の二次検査』の話をしたいと思ってます」



スクリーンに産業医講話のスライドが映された。



「~要精密検査で陽性見つけんさ! ~『健康診断の二次検査を受けよう』」



声には出さなかったけれども気が付いた。



――――――――あっ・・・・・・。『株式会社E・M・A』が今月の講話用として配布しているスライドが、微妙にオモロ系に改変されているッッ・・・・・・・・・!!!(汗)





――――――――・・・・・・――――――――・・・―――・

―――――――・・・―――・


・・・――――・・・



・・・・・・場がドッカンドッカンと笑いに包まれる産業医講話を中心コンテンツとして、安全衛生委員会が終わった。社員さん達はニコニコ顔で挨拶して部屋を出て行く。



私と荒巻先生、持野さんだけが残った会議室で、こっそり話した。


「なんだか・・・・・・皆さん、とても集中して聞いておられましたね! 」



「うん、今日もウケてたみたいね~」

言いながら持野さんがノートPCの画面を見せてくれた。

「荒巻先生の産業医講話、過去アーカイブはこんな感じだよ」



フォルダには、過去の安全衛生委員会講話で使ったファイルの名前が一覧で並んでいた。


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「~常識に欠ける上司、気にかける! ~『職場のハラスメント対策』」

「~寝息大きいね~『睡眠時無呼吸症候群』」

「~夏まで待つな~『熱中症対策』」

「~いくつもの死、痛みを見た医師の持つ悔い~『メタボリックシンドローム』」

「~来ていたんだ・・・油断大敵! ~『花粉症』」

「~うっ、食ったら吐いた! 胃が痛い・・・腹立つ苦痛! ~『ノロウイルス』」

「~無期限激務~『長時間労働』」

「~意識調査する意思、貴重さ~『ストレスチェック』」


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「毎月、テーマの前に言葉が付け足されていますね・・・・・・。『』はダジャレですね。『寝息大きいね』は、イビキが睡眠時無呼吸症候群のサイン、っていう意味で、『夏まで待つな』は、熱中症対策には暑くなる前から暑熱しょねつ順化じゅんかや経口補水液の準備など、早めの備えが必要、という意味でしょうか。ん? これは・・・・・・? 」


私はーー『いくつもの死、痛みを見た医師の持つ悔い』ーーというところを指した。ヒーロードクターが患者を救うドラマの、エピソードタイトルみたいな文章である。



「ダジャレじゃないのは全部、回文になってるんだよ」持野さんが言う。


「?? いくつも、の・・・・・・し、いたみを、みた、い、し、の・・・・・・もつ、くい? 」


指折りしながら、頭の中でひらがなにして考えたけどすぐには分からなかった。

ノートに書いてみて、確かに回文になっていることが分かってハラオチした。


「わ、ほんとだ!! じゃあもしかして、花粉症の『ていたんだだんたいてき! 』や、ノロウイルスの『うっ、ったらいた! いたい、腹立はらた苦痛くつう! 』も回文ですか・・・・・・!!? それによく見ると、『寝息ねいきおおきいね』や『無期限激務むきげんげきむ』も回文!! うわぁ・・・・・・面白いです。ノートにメモしてもいいですか? 」



「もちろんやで」

感嘆の声を上げる私に、荒巻先生が言った。



「ふふ、荒巻先生の狙い通り」持野さんが笑う。

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