第49章| トモコとのファミレスディナー <1>おやじギャグ?
<1>
「あっ、お待たせ!! 」
株式会社E・M・Aを出てから向かった、待ち合わせ場所のファミリーレストランのドアを開けるとすぐ、順番待ちの椅子に座っているトモコの姿が見えた。
「お疲れ~。ちょうど次に呼ばれるところだよ」
トモコがこちらに気付いて、手に持った感熱紙の番号札をひらひらさせた。
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「よし。シェア会の開始時刻には間に合いそうだね~。え~と、フリーwifiはさっき設定しておいたからっと・・・・・・」
席についたトモコが、せわしなく自分のパソコンを操作し始める。
「食事の注文は、どうする? 」
テーブルに置かれたオーダー用のタブレット端末を手に取った。
「先に注文しとこうか。あたしはカレーにするわ。あれ、今日のミーティングIDはどこだっけなぁ・・・・・・」
「うん。じゃあ私がオーダー入力しておくね。ドリンクバーもいる? 」
「ドリンクバーは、付けなくてオッケー」
今日はトモコと待ち合わせて、ファミレスで晩ご飯を食べつつ、トモコが最近ハマっている伝統医療ハーブの『オンラインシェア会』を視聴することになっている。
トモコからサンプルをもらったハーブは、普通のお店では売っていないものらしかった。
完全に口コミで、話を聞いて納得した人にだけ紹介制のネットワークで販売しているので、まずは情報を知ってもらうための入り口として『シェア会』というのが開催されているという。
そんなわけで先日、ハーブのサンプルをもらってから、トモコは何回もLIMEに『シェア会』のURLを送ってくれていたんだけど、私がうっかり忘れたり、そもそも予定が入っている日だったりして、結局シェア会には参加できないことが続いていた。
それで今日、こうして晩ご飯を一緒に食べながら二人で視聴しようかという話になったのだ。
手元のタブレットでメニューを見て、注文を済ませてから周囲の様子をうかがった。
店内は家族連れなどでそれなりに混雑している。
食事をすっかり終えておしゃべりに興じているだけのようなテーブルもあるので、私たちがオンラインミーティングに参加するために長居をしても目立つことはなさそうだった。
今日のオンラインシェア会では、ハーブの詳しい情報を教えてくれるらしい。
大事な部分はメモしておこうかなと思って自分のカバンを探ったら、いつも使っているノートが入っていなかった。
「あ・・・・・・ノート、会社に忘れてきちゃったみたい」
「ん~? まぁ大丈夫、シェア会は何度も開催されてるから、また聞く機会はいくらでもあるよ」
画面から目を離さずにトモコが言った。
カバンの中にノートがないか、もう一度あらためて探ってみると、電源を切り忘れていた仕事用の携帯電話にメッセージの着信があることに気付く。
鈴木先生からだ。
「あれ・・・・・・鈴木先生からメールが来てる」
「何よぉ~、デートのお誘い? 」トモコが冷やかすようにこちらを見る。
「・・・・・・ではない。けど・・・・・・」文章を見てくすっと笑いが漏れた。
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足立さん、産業保健に関してわからないことがあれば、
荒巻先生だけでなく僕に聞いてもらっても構いません。
済んだらフラフラ、フラダンス 鈴木
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すかさず画面を覗いて見てきたトモコが、 “ドン引き! ” と言いたげに顔をしかめて、身体を両手で包んで震えるようなリアクションをした。
「ウゲッ。最後の一文、なにこれ~。『フラフラ』と『フラダンス』を掛けたおやじギャグ!? めっちゃ寒いんだけど・・・・・・ヒュウウゥゥゥ・・・・・・」
「えっ・・・・・・少しは面白いよ。ちょっとだけ、だけどね」
「マッチングアプリでやり取りしてる相手がこんなの送ってきたら、あたしなら真っ先にプロフ詐欺を疑ってブロック検討する! 写真は20代でも中身は5、60代のおぢが入ってるんじゃないか、って」
「鈴木先生は実際に年上だから、笑いのセンスに世代間ギャップがあるのはしょうがないと思う。それより、普段はお堅い鈴木先生がダジャレを考えて送ってくれたっていうだけで、私は嬉しい気分になった」
「里菜。アナタほんとにおめでたい性格だねェ。女体に興味がないのみならず、サブい冗談でいきなり凍えさせてくる男って・・・・・・その人、本当に好きになって大丈夫な相手かね?
それとも鈴木先生は今、お酒でも飲んでるのかなぁ? せんべろ居酒屋でホッピー飲んでるおぢだって、 “フラフラ、フラダンス~” なんてギャグは、そうそう繰り出さない気がするけど」
「さっきまで一緒にオフィスにいたから、多分まだシラフのはず・・・・・・」
「あちゃー、酒なしでそれか~」トモコが
もう一度、携帯電話の画面を見た。
「『フラフラ、フラダンス』・・・・・・ふふっ」
このメッセージを鈴木先生が作ったときの姿を想像すると、ニヤニヤしちゃうのが止まらない。
ぽっと体温が上がるような感じがした。
鈴木先生が、私にジョークを言ってくれるなんて。
荒巻先生の教えてくれたコミュニケーション術は、やっぱり効果が抜群なのかもしれない・・・・・・。
「あっ。そろそろ開始時刻だ。イヤホンつけよっ!! 」
シェア会が始まるらしい。トモコに手渡されたイヤホンの片方を耳に着けて、テーブルに置いたPC画面に意識を集中することにした。
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