第48章| 高度に発達した産業医面談は遊びと見分けがつかない <9>足立のノート(鈴木風寿の視点)

<9>



・・・・・・・・・慌ただしく足立が去って行った。



「『イカのダンス』??? 」



さっき足立が言っていたことを思い出すが、何を言っているのかよく分からない。


ふと足立がいたほうを見ると、床の上にノートが落ちていた。



(『イカ・・・・・・イカ・・・・・・』)



ノートを拾いながら、まだ先ほどの話を考えていた。

足立は「面白くないですか? 」と言っていたが、何が面白いのか? 

それとも、新作映画か音楽の題名か?


解けないパズルの答えを考える時は、脳に地味にストレス感がある。

早く答えを知ってすっきりしたかった。



足立が落としたノートを持ち上げると、最後のページが見えてしまった。

のぞき見のようで趣味が悪い、と思いつつ、書いてあるメモをちらりと目で追う。



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『言葉遣いの魔術師マジシャンを目指す』

『名前を呼ぶ。褒める。ミラーリング。物理的な距離を縮める(時と場合と相手による。ハラスメントにならないよう注意)』

『バーナム効果』

『相手に合わせた上手な褒め技術は、仕事にも恋・・・・・・』

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文字はそこまでで切れていた。



「マジシャン?? バーナム効果・・・・・・やはり、そうか」



さきほど、足立がいきなり “荒巻先生から占いを習った” 、“オーラの色が見える” などと言い出したから、おかしいと思っていた。




「・・・・・・まったく、荒巻先生は一体、足立に何を教えているんだ?? 」



呟きながらノートを机の上に戻した。



足立は性格が素直だ。よく言えば純粋、悪く言えば、いかにも騙されやすそうなタイプだ。


荒巻先生は少しエキセントリックなところがある。


新人保健師に教えるような内容ではない突飛なことを、勝手に教えているのではないだろうな・・・・・・。産業医から占いを習うなんて、聞いたこともない。



うらない、ならう・・・・・・」


少し心配に思ったところで、閃いた。



「そうか!! 『イカのダンスは済んだのかい』・・・・・・は、『いかのだん済はスンダのカイ』と同じ・・・・・・回文だ!!! 」



答えがわかった爽快感で気分が高揚した。




「そういうことか・・・・・・」




直行直帰の日もあるので、次に足立と顔を合わせるのはいつになるかわからない。


仕事用の携帯電話を取りだして、足立にメッセージを送っておいた。


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