第45章|後日談-株式会社E・M・A -<2>新しい時代の産業保健?

<2>



――――――――――都内の某所にて。



『株式会社E・M・A』副社長の高根雅人と顧問弁護士の吉田敦徳、そして数名の男たちが話している。



「以上が、弊社の『366ウェザー・AI産業保健システム』概要でございます」男の一人が言った。


「なるほどねぇ・・・・・・・・・」

吉田がパンフレットをまじまじと眺める。

「健康診断結果を見ての就労判定。ストレスチェック後の面接指導。保健指導。AIを使えば、産業医や保健師の仕事もかなりの部分が自動化、省力化できるってことですねぇ。恐ろしい時代になったものだ」


「いかがでしょうか。弊社のサービスを、ご活用いただける可能性はございますでしょうか」


「ええ・・・・・・僕はいいんじゃないかと思いますよ。これまでうちの会社は、産業医や保健師の育成に力を入れてきました。しかしライセンス職である医師や看護師は、自由に働き口を選びますからね。育てた高付加価値の人材が流出するリスクを考えると、ビジネスモデルとしては弱い部分がある。

それならば最初から産業保健職の教育などせず、会社でコントロールできるシステムのほうを充実させて、ライセンスを持った人間が対応する必要がある時にかぎり、少数精鋭の産業医・保健師に対応させればいいじゃないかと、前々から思っていたところです。

いや、正確には・・・・・・少数精鋭である必要すらないな。『名ばかり産業医』だって構わない。指示はこちらで出して、言う通りにやらせればいいんだから」


「あ、ありがとうございます! おっしゃるとおり、会社にとって一番重たいのは人件費ですからね・・・・・・。それでは、もしよろしければ、是非、緒方友里子社長に対しても、弊社サービスのご提案をする機会をいただけませんでしょうか・・・・・・? 」


「その必要はありませんね」高根が即答した。


「は、はっ。それは、なぜ、でしょうか・・・・・・」


男の質問に、吉田が答えた。

「もうすぐ緒方社長は、弊社の代表を退任される予定なのです。今後の『株式会社E・M・A』の事業方向性について、彼女はいっさいの権限を持ちません」


吉田の言葉を聞いた高根が瞬間、神経質そうに顔を歪めたが、発言を遮ることはしなかった。


「それに、あなたがたは『HOZUMA』の関係会社でしょう。あなたはご存知ないかもしれませんが、我々とHOZUMAの付き合いは前々から深いのです。本社の梅中さんという方から、よろしくとのお言付けもいただいています。お互い持ちつ持たれつ、共存共栄でやっていけばいいでしょう」吉田が鷹揚に笑った。



「しょ、承知いたしました。それでは失礼ですが、『株式会社E・M・A』の、体制がご変更となった後の決済ご担当者様は・・・・・・・・・」



「それは引き続き、私・・・・・・高根のほうで承りますよ」高根が意味ありげに笑った。


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