第38章|娘のハーフ成人バースデー<8>不審な電話(砂見礼子の視点)

<8>



「もし、もし・・・・・・・・・」


「あ。やっと出た。これ、砂見さんの電話ですよねー? 」

受話器から軽薄な男の声が聞こえた。向こうの背景音は静かだ。



「あ。はい・・・・・・砂見、・・・・・・ですが・・・・・・」


「あ。よかったー。電話、繋がった。オレよ。オレオレ」



(なんかこの人、変なんだけど? )

声には出さずに、眉をしかめて隣にいる夫に違和感をアピールした。



「もしもーし。砂見さん? 返事してくださーい。こちら『ー。聞こえてますかーーー?? 」



「灰原課長!!? 」


「そうだよ。砂見さん、この前まで一緒に営業行ってたのに、もう俺の声忘れたの? 」


「紛らわしい言い方しないでくださいッ! オレオレ詐欺かと思いました!

で、何の用件ですか? 今、私、ちょっと仕事どころじゃないんで・・・・・・」



「うん。知ってる」

灰原さんが続けた。

「お宅のみちるちゃんが、いま会社に来ちゃってるのよ。至急、迎えに来てくれる? 」



「えっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・??? 」




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――――――今日は山ほど仕事が残ってるんだ。俺、まだしばらく会社にいるから娘さんみておくよ。




灰原課長からの電話を切って、夫婦で『ブルーテイル商運株式会社』に向かった。


いつもと違ってがら空きの通勤電車にもう一度乗る。私たちは沈黙していた。




鏡のように自分を映す京浜東北線の窓ガラスを見ながら、ぼんやりと考えた。




――――――1993年。平成の米騒動。私はあのとき、今のみちると同じくらいの年頃だった。


――――――『マンガばっかり読んでるとバカになるよ』と、よく親から言われていたっけ。


――――――スーパーの本屋には漫画雑誌が山積みだった。少女誌は、付録がとびきり可愛かったなぁ。



――――――なんかあの頃は、今よりもずっと、子供がたくさんいたんだよなぁ・・・・・・



――――――あの時、私、何を考えて生きていたんだっけ。何も考えていなかったような気もする。



――――――あの頃は、ドル円のレートって、どのくらいだったかなぁ・・・・・・




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