第37章|高ストレス者の面談報告書<4>砂見さんからの質問(足立里菜の視点)
<4>
――――――鈴木先生の言っていること、途中、難しくて完全にはよくわからない部分もあったけど。
――――――でも、先生が社員さんの悩みをできるだけちゃんと聞きたいって思っていることは、私にもわかった。
砂見さんの諦めたような顔を思い出した。
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高ストレス者の面談をしてくれた、あの産業医の男の先生・・・・・・鈴木先生、でしたっけ?
あの人にはきっと、言ったら嫌がられると思ったから、私、最初から言わなかったの。
理解してもらうのは難しいだろうなって。
だって結局、妊娠、出産、子育てで振り回されるのって、圧倒的に女のほうだもの。
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――――――砂見さん、そんなことないですよ。
男の人だからわかってくれない、っていうのはきっと誤解です!
あなたの気持ちを理解したいって思ってくれる人は、性別に関係なく、ちゃんといるはずですよ!
次に砂見さんにお会いすることがあったら、伝えたいな。そう思った。
「・・・・・・ということで、足立さん、無事卒業ですね」
「えっ? 」
「面談記録、よくまとまっていましたよ。お疲れ様でした」
「あ・・・・・・は、はい」
そっか。砂見さんの面談記録は、私が鈴木先生とのペアを解消するにあたっての、卒業課題のようなものだった。無事に合格をもらえたんだ・・・・・・。良かった。
(――――――ってことは。鈴木先生をお疲れ様会に誘わないと・・・・・・・・・ちょうど今、二人きりだし、言い出すには絶好のチャンスなのでは。里菜、誘える?・・・・・・)
急に胸がドキドキして顔が熱くなるのがわかった。
トモコから伝授された技を思い出す。
“ちょい甘めな雰囲気で、さりげないボディタッチをしながら~・・・・・・”
(えーと、えーと。さりげないボディタッチどころか、今、ソーシャルディスタンスをきっちり1メートル以上保った状態なのに、ここからどうやって手の届く距離まで接近する!!??
あ~、やっぱり心の準備が足りないよっ。もうちょっと具体的なイメトレ、しておけばよかったぁぁぁ~ッ)
「ああ。そうだ・・・・・・、そういえばさっきの話ですが」
内心あたふたしている私に、鈴木先生が言った。
「ひゃっ? あ、はい? 」応答が挙動不審になってしまった。
「足立さんが、砂見さんから最後にご質問を受けたことって、どんな内容だったんですか? 」
「あ。そ、それは・・・・・・。
『ストレスチェック集団分析の結果を中間管理職の人たちに生かしてもらうために』というテーマで開催された、株式会社E・M・Aの勉強会で、緒方先生が話していた内容についてでした」
私は手元のファイルに挟んでいた資料を急いで取り出し、鈴木先生に見せて読み上げた。
「この資料の箇所です。
“中間管理職の仕事は多岐にわたる。
『経営戦略の現場レベルへの落とし込み』
『部署の意思決定と部署間調整』
『部下の育成と評価』など・・・・・・・・・・・・
しかし【中間管理職に求められる、最も大切な役割とは、
砂見さんから訊かれたのは、この『エンパワーメント』という単語の意味が難しくてよくわからない、という内容でした」
「ふむ。なるほど」鈴木先生が笑った。「それで足立さんはなんと答えたのですか? 」
「えーっと・・・・・・それが、私もよくわからなくて・・・・・・。とりあえずその場でスマホを使って調べたところ『
しどろもどろになった。実はこのあたり、私にはよく分かっていない。
「『エンパワーメント』・・・・・・。確かに難しい言葉ですね。是非その答えは、緒方社長に直接尋ねてみてください。足立さんの卒業課題、ひとつ追加にしましょう」
「あ、はい・・・・・・・・・わ、わかりました! 」
(なんか、結局お疲れ様会には誘えなかったけど、卒業課題が追加になったから、今日のところはまぁいいか・・・・・・汗)
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