第8章|右肩上がりの市場価値 <7>『ジュリー・マリー・キャピタル』会社の売り買い
<7>
「まず簡単に、弊社の紹介をさせて頂きます」
案内された会議室で、栗栖さんが話を切り出した。
「弊社『ジュリー・マリー・キャピタル』は、独立系投資会社として、投資を通じて社会に貢献しています。代表の私が会社を始めたのは2009年。その頃は、リーマソ・ショックの影響で世界経済が停滞しておりました。そのような中、価値あるビジネスが打撃を受け、事業継続困難となる例を数多く見て、私はファンド立ち上げを決意しました。
投資対象選定の際、特に力を入れて評価しているのは、その投資が、社会的に正しいものであるかどうか。それから、女性の活躍推進」
栗栖さんが私の方を見た。
「特に、足立さんのような、若い女性の社会での活躍を後押しすること。これは私の、人生を賭けたテーマでもあります。そのためファンドで得た利潤の一部は、女性の高等教育をサポートする組織への寄付に充てています」
「大変、素晴らしい取り組みですね」鈴木先生が答えた。
「そんな風に応援してくれている女性の先輩がいてくださると、私も心強いです! 」
「ありがとうございます。さて……今回、ご相談させて頂きたいのは、『
キャリア採用で、前職は外資系コンサルタント会社『マックエクセル・アンド・カンパニー』です」
「……キャリア採用、っていうのは、中途採用のことでしょうか」私が尋ねた。
「ええ、イメージとしては近いですね。ただ、キャリア採用の場合は、今までの職歴で身に着けたスキルを評価して採用、入社してもらっています」
栗栖さんが続けた。
「江鳩には『ハンズオン投資』として、当社の投資先である、某バイオベンチャー『X社』の経営に直接参加してもらっています。我々が投資し、経営権を買い取った『X社』を効率よく発展させるため、取締役として江鳩を派遣し、経営状態を改善するよう日々働きかけさせているのです。そのため江鳩は、普段はこちらの社内にはおらず、その某ベンチャー企業のオフィスに常駐しているのですが……」
「事前情報によると、睡眠障害のため夜間2時間ほどしか眠れない日が続いており、食欲不振による体重減少も著明、業務上のミスが目立ち、以前のご本人との違いが周囲からも指摘されている、ということですね」鈴木先生が確認した。
「ええ、仰る通りです。我々としても、投資先に派遣している社員が精神的不調を発症してしまう、というのは、ゆゆしき事態です。先方『X社』の社員に与える不安も大きく、場合によっては投資計画そのものが狂いかねません。
そろそろイグジット期限も迫っています。できるだけ早くこの事態を打開すべく、『株式会社E・M・A』にご依頼しました」
「あの……イグジット期限、というのはどういう意味ですか?」私が訊く。
「会社の売却です。つまり、“『X社』を売り、投資を回収する期限”、という意味です」
「えっ!? せっかく経営権を買った会社を、また売るんですか!?」
会社って、そんなに気軽に売り買いできるの? と、私の頭の中でヒヨコがピヨピヨ大合唱した。
「ええ。そうです。我々は最初から、長期に所有する目的ではなく、見込みのある事業を買い、育て、企業価値を高め、数年以内に第三者に売却する予定で『X社』に投資をしておりますので」
――――フリマアプリとか、オークションの“転売”みたいに、会社をまるごと売り買いしているってこと??
とんでもない話のスケールで、震えた。
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