第7章|六本木の超高級カラオケ店 <7>先輩保健師との会話
<7>
「―――――っていうことが、ありまして……」
昼下がりの『株式会社E・M・A』のオフィス。
今日はたまたま、福島さんと持野さんがオフィスに残っていたので、保健師3人で話している。
福島さんは、子犬系の笑顔が可愛い、明るいキャラの先輩男性保健師。持野さんは、ちょいギャル風の美人で、いつもテキパキ仕事が早い、女性の先輩保健師だ。入社してから2人には、保健師の仕事について、色々とご指導頂いている。
「うーん。里菜ちゃんさぁ、それ、帰らせてもらえて、良かったんじゃない? 普通に考えて、イシダとかいう国会議員男からの提案、『パパ活』のお誘いだったんじゃない?」福島さんが言う。
「あたしもそう思うよ~。その“契約”にOKしたら、部屋を見せろとか言われて、自宅で無理やり押し倒されて、犯されてたと思うなぁ」持野さんも同意した。
私、危なかったんだ。3万円のお金に釣られて “等身大・江戸からくり茶運び人形”みたいなイシダさんに部屋に上がりこまれてしまうかもしれないなんて、あの場ではまったく想像できていなかった。
もしイシダさんと連絡先を交換していたら、脂ギトギトの茶運び人形に襲われる悪夢を、毎晩繰り返し、見るハメになっていたかもしれない。
「しかも、サブスク、ってのが罠じゃない? 例えばお茶して話すだけだとしても、月に何回呼び出されるかわからないからコワイよね」
福島さんに言われて、気付く。確かにその通りだ。
「…………」
「まぁまぁ里菜ちゃん。そんなに落ち込まないで。それだけ里菜ちゃんが、魅力的だった、ってことなのかもしれないし」福島さんが慰めてくれた。
「ありがとうございます……。これからは気を付けます。それで……、なんかそのイシダ議員、『東都カレンダー』って、言ってたんです。福島さん、持野さん、何のことかわかりますか?」
「あ~、それは、これでしょ。雑誌の名前だよ」
福島さんが、スマホの画面を見せてくれた。
『東都カレンダー』とGoogle検索した画面には、超有名な旬の女優さんが、表紙を飾っている写真がずらっと並んでいた。
お寿司屋さんのカウンターのようなところで、一緒にお酒を飲みながら食事していると、自慢の彼女が笑ってこっちを見てくれた……みたいな写真ばかりだ。
「あたしも『東都カレンダー』時々、雑誌読み放題アプリで見るよぉ。高級だけど美味しい東京のご飯屋さんが沢山載ってる楽しい雑誌だよね。でも、系列の『都カレデートApp』は、パパ活の温床になってるって、噂で聞いたことあるかな」
「なるほど……勉強になります。あと……、タカさんって、荒巻先生のお友達なんでしょうか」
「うん、多分この人でしょ。『株式会社
持野さんがPC画面をずらして見せてくれる。
「あ!! 本当だ。この人。この人です!」
会社のHPに掲載された南野さんは、確かに私が見た“タカさん”だった。
「あたしも毎月、荒巻先生に同行して訪問してる会社ね。何度か社員と会社が揉めたことがあって、荒巻先生が入って力技で解決したの。新しくできた会社って、事業がうまくいって急拡大するときに、人事制度の整備が追いついてなくて、労務トラブルになっちゃうケースが、けっこうあるから」
「そうなんですね……。鈴木先生との同行では、今のところ、そういう経験はないような……」
「んー。それは多分さ、ウチの会社の契約先って、産業医によって担当先の傾向がハッキリしてるからだと思うよ」
福島さんが椅子の上で伸びをしながら言う。
「黒木先生と僕が担当してるところは、小規模でのんびりした社風のところが多いし、鈴木先生は、設立から年数の経った、大きめでお堅い社風の会社が多いんだ。荒巻先生は、ITベンチャーとか、経営者がワンマンで存在感あるところばっかり。産業医と会社にも、相性があるんだと思う」
「うんうん。わかる。あと荒巻先生って、毎晩のよーに『六本木・歌舞伎町・銀座』のローテで飲み歩いてて、仲良くなった経営者から産業医契約獲ってくるからさ、そういう会社が増えがちなんだよね~。あたしまで時々、高級クラブとか連れていかれるよ」持野さんが言う。
「え、そうなんですか?」
「そう。荒巻先生、夜遊び大ッ好きなの。しかも実は荒巻先生、美容系のクリニックも経営してて。クラブのホステスさんを、美容クリニックのお客さんとして誘ったりもするから、一石三鳥、夜の営業活動状態」
「そうだったんですね……」
いつもスーツ姿で、黒髪・銀縁眼鏡・お堅いサラリーマン風な鈴木先生と、柄物のシャツや革パンツを着ていて、染めたパーマヘア、ゴツいアクセサリーも身に着けていたりする荒巻先生は、かなり雰囲気が違うなぁ、と、前から思っていた。
社風も色々、産業医も色々、らしい。
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