第7章|六本木の超高級カラオケ店 <6>思わぬところで荒巻先生
<6>
おええええええ。
結局我慢できなくて、お手洗いで吐いてしまった。
和牛が……カラスミがぁ……。
心の中で、高級食材とシェフに謝った。
しばらく休んで、少し回復したのでトイレを出ると……、
廊下に、IT社長のタカさんが立っていた。
「リナちゃん。落ち着いた?」タカさんが、壁にもたれかかりながら聞いてきた。
「あ……はい。大丈夫です」
「飲みすぎたの? ワイン苦手だった?」
「そうです……ね。お酒、弱くって。ごめんなさい」
――――――――“メンヘラちゃん”。
先ほどのカラスさんの言葉が耳に残っていたので、タカさんの前では、ただ酔っただけのフリをしようと思った。
「ま、いいけど。でさ、キミ、イシダ先生から、なんか誘われてたよね」
「はい。サブスクがなんとか……。でも、なんか変じゃないですか?」
「そう? 別に変じゃないよ。月3万。悪い話じゃないと思うよ。契約したらいいじゃん。席戻ったら、連絡先、交換しなよ」
「でも、私、普通に働いてますし、“貧困女子”じゃないですから」
「ふーん……。どこの会社で働いてんの?」
タカさんは無表情で尋ねる。私に好意があるから、ではなさそうだった。
「赤坂にある、『株式会社E・M・A』っていう会社です」
私の言葉を聞いて、タカさんの顔色が変わった。
「え……マジ? それマジ?」
「本当ですけど……」
突然動揺しはじめたタカさんに疑問を感じながら答えた。
「やべぇな。それって荒巻先生のいる会社っしょ?」
「あ、はい。荒巻勝利先生ですよね?」
それを聞いて、……んだよ。荒巻先生の会社かよ、マジか。と呟いて、タカさんはスマホを取り出して、せわしなく画面を弄りはじめた。
「あのー。荒巻先生がどうかしたんですか?」
「俺の会社、荒巻先生には日頃から世話になってるし、飲み友でもあるからさ。荒巻先生の会社の子だったら、やめとくわ、さすがに」
やめとくわ、さすがに、の意味がわからない、と思う。何か後ろめたいことでもあるんだろうか?
「今、別の女の子、呼んだから。“体調悪くなった”って言って、このまま帰りな。あと、カラスから連絡あっても、絶対金出すなよ。あいつ、“ポンジ”だから」
「ポンジって、なんですか」
「いいから、とにかく、『カラスには金出すな』って覚えとけ。これ、タクシー代」
突然タカさんに差し出された万札に、私が戸惑っていると、トモコの声がした。
「里菜~! 大丈夫? しばらく戻ってこないから、心配になっちゃったよ」
トモコは、私のことを心配して、様子を見に来てくれたみたいだ。少し胸がギュッとした。
「ごめんね。せっかくいい雰囲気だったのに。私、ぶち壊して……」
「里菜、そんなこと気にしないで。……って、あれ、もしかして、逆にあたし、お邪魔だったかな?」トモコが、タカさんと私を交互に見る。
「別に邪魔じゃねぇよ。俺達は話してただけ。もう二人とも帰っていいよ。これタクシー代だから、取っとけ、ホラ」
タカさんが冷たく言い、再度万札を出した。万札×2枚。2万円。
「え……? あ……どうも」トモコがお札を受け取った。
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