Episode② 港区ラプソディ
第7章|六本木の超高級カラオケ店 <1>これって合コン!? 【Episode②はじまり】
<1>
「ちょ、ちょっとトモコ~、この店、本当にカラオケなの??」
六本木駅すぐ近くの路上で、店に入ろうとするトモコを、私はいったん引き止めた。時間はもうすぐ18時。でもまだ外は明るい。
「うん、そうだよ。Miekoさんからのメッセージで指定されたの、ココのお店で間違いないよ」スマホを見ながらトモコが答えた。
Miekoさんというのは、トモコがSNS『イースタグラム』を通して仲良くなったという女性だ。私も今日来る前に、Miekoさんの『イースタ』を見せてもらったんだけど、めちゃくちゃ美人でスタイルがいい女性だった。
“――――港区界隈でインフルエンサーしてます。年齢非公表♥”
……って、書いてあった。
トモコはMiekoさんと仲良くなるうちに“知り合いのメンズも一緒に誘うので、みんなでカラオケ行きませんか?”って、提案されたという。それで、トモコが私にも声をかけてくれた。
「え~……なんか、カラオケっていうか、これ高級レストランみたいだし……めっちゃ高そう。不安だよぉ」
「コラ、足立里菜ぁ。先月から“東京都民”になったんでしょ!? 都民のくせに、貧乏くさいこと言わないで。今日の支払いは、メンズがしてくれるって聞いてるから、きっと大丈夫だよ。さ、入ろう!」
「う、うん……」
……友人のトモコに“カラオケに行こう”と誘われて、当初私が想像していたのは、地元の日高にあるカラオケのチェーン店みたいなやつだった。
でも、今まさに入ろうとしているお店は、全然それとは違う感じだ。
『ネズミ―ランド』のビックサンダーマウンテンみたいに、わざわざビルの一部を小さな洞窟風に作り替えてある。
けれど大人の好奇心を掻き立てられる雰囲気でありながら、エントランス脇に置かれたのっぺらぼうのモダンアートが“ここは敷居が高いんですよ、気軽にはお入りいただけませんヨ”と、無言でアピールしているようだった。
都会の洞窟の入り口はガラス張りで、間接照明に照らされた黒塗りの分厚い自動ドアが付いている。
そして自動ドアのさらに奥に、もう一つドアが設置されているため、外からは中の様子が窺えない。
普通にこの店の前を通っても、カラオケ屋だと思う人はいないと思う。
「トモコ。そもそも、このお店でカラオケするメンズ……って、どんな人達なの?」
「うーん。それは聞いてないけど、Miekoさんの知り合いで、多分、お金持ち??」
「ねぇ、これって合コン? トモコ、彼氏いるよね?」
「合コンじゃないよ。“人脈づくり”だよ。あ、でも色々と聞かれたら面倒だから、今日はあたしに彼氏がいること、黙っててね。頼むわ」
トモコが顔の前で両手を合わせて、上目遣いでこちらを見た。
「……わかった」小声で私も答えた。
************************
店に入ると、こぢんまりとしたカウンターに、ソムリエ風の男性が立っていた。
「Mieko様のお連れの方ですね。お待ちしておりました」しっとりとした声で挨拶し、丁重に迎え入れてくれる。
店員に案内されて、トモコと一緒にやや薄暗い長廊下を過ぎると、店の奥はバーカウンターになっていた。
カウンターの後ろには、ピカピカに磨かれたワイングラスとお酒のボトルが整然と並んでいて、壁の一方には、青白い光で内側から照らされたワインセラーも設置されていた。微かにジャズのバックグラウンドミュージックが流れている。
「本日は個室でのご予約です。まだ他の方は到着されておりませんが、ご案内致します。おくつろぎ下さい」
通された部屋は、これまたホテルのスイートルームのような?? とにかく、ラグジュアリーなインテリアが並んだ部屋だった。
「里菜、ここ、凄くない!?」
「カラオケ……には見えないよね。あ、でもカラオケの機械あるよ」
誰もメンバーが来ていないのを良いことに、私とトモコは部屋を探索した。
中央に置かれた低いテーブル、それを囲むように低くてベッドみたいに広いソファ。床には真っ赤なフカフカの絨毯が敷かれている。
壁の一面は飾り棚になっていて、洋書や高そうなお皿が、間隔を空けて飾られている。反対側には大きな液晶画面。多分ここにカラオケの画面が映されるんだろう。
“消毒済み”と書いた袋に丁寧に入れられたカラオケマイクの傍には、小さな箱があった。
そっと開けてみた。
「おぅ……なにこれ」思わず声が出た。
箱の中に入っていた、ピンクと白の小さな直方体の積み木には……
“服を一枚脱ぐ”とか、“正面の人にキスをする”とか書かれている。
「んー。これって、合コン用ジェンガかなぁ。王様ゲームみたいに使うのかもね。なーんか、エッチな雰囲気になりそ」ピンクの積み木をつまんで眺めながら、トモコが言った。
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