第2章|株式会社E・M・A <4>実力主義の世界!?
<4>
「緒方社長、大丈夫でしたか」
高根さんが尋ねると、部屋から遅れて出てきた緒方先生が言った。
「ええ。契約終了に対して、彼としては納得できない部分があったようだけれど、仕方ないわ。中村先生は、うちの事務所が求めるレベルに達していなかったんだもの。うちは完全な能力主義よ。顧客からの評判が悪いメンバーを在籍させておくことは、あり得ない」
私の存在に気付いた緒方先生に、会釈をする。「あ、足立さん」と、こちらを見て先生が笑った。その微笑みは優しかった。でも、今私が聞いた言葉は、けっこう厳しかったような……。
「ええ、その通りですね。……というわけで、足立さん、弊社は質の高いサービスを提供することを使命にしておりますので、採用時だけでなく、勤務開始後も、厳しいセレクションをかけているんです。ただ専門的な資格を保有しているという事だけでは不十分で、毎回、対応後には顧客から評価をフィードバックしてもらい、質を担保しています。顧客満足度が下がった場合や、必要なご提案が出来なかったり、業務遂行能力が低いとみなされたメンバーには、速やかにご退場頂くことにしております。コネクション・縁故での手加減はいたしません」
高根さんの説明を意に介さない様子で、緒方先生が言った。
「さて……足立さんは、保健師として完全に未経験者なのよね?ってことは、無限大の伸びしろがあるってことよね。足立さん、活躍を期待してるわよ」
「あ、は、はい……」
私は、やっぱりとんでもないところに来てしまったのではないか、という気持ちで、自信なくうなずいた。
「そうそう、今日を指定して来てもらったのはね、今日、月一回の例会の日で、うちの主要なメンバーが集まるのよ。噂をすれば、あ、来た来た。鈴木先生!」
緒方先生の視線の先には、先ほどエントランスホールで私に睨みをきかせていた、スマホ2台使いのビジネスマンが、立っていた。
「あ……さっきの……エリートサラリーマンのひと……」
彼がこちらを向いた。目が合った。
「あなたは……。うちの会社にご用事だったんですか。はじめまして。産業医の
―――産業医の、鈴木風寿先生。
この人が、これから私の、重要なパートナーとなっていくことを……。
このとき、私はまだ、知らなかった。
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