13 ねぇ、笑って(1)
あれから10年が経った。
アタシは先生の一番最初の弟子で、それから何年かは二人三脚だった。
もちろんヴァルも居て、アタシの面倒は見てもらったけど。
アタシが魔術を学ぶのも、先生が魔術を教えるのも初めてのことだったから、二人とも手探りで、ほとんどの時間をアタシは先生と過ごした。
10年も毎日のように見ていると、流石に見飽きるかと思ったけれど、今でも時々、先生のかっこよさに見惚れる事がある。
そして10年も一緒にいると、嫌でも解ってくる。
この人は周りの人間との間に壁を持っている。
笑う顔も呆れる顔ももちろん見るけれど、心が動くほど本気で笑うことはそれほどない。
ほとんどの笑顔が、ほとんどの日常が、この人にとっては“自分とは違う外の世界の話”なんだ。
楽しく話しているのに。
二人で話しているのに。
先生の笑顔は空虚だ。
綺麗な天使の像みたい。
違う世界にいるみたい。
それを時々、悲しく思う。
ずっと、不思議だった。
あんなに顔も良くて、魔術も出来て、国の中でも有数の名家に生まれて。
なんでそんなに空虚なのか。
それは、『メモアーレン』をすることで少し理解できた。
乙女ゲーム『メモアーレン』の攻略対象として扱われているシエロルートは、まだ作られていない。
けど、『メモアーレン』の王子様ルートには、兄弟弟子としてシエロが登場する。
12歳の頃のシエロ。
ゲームの最初の頃は、周りの人間が全て人形か何かでもあるように、なんの興味も持たない子供だった。
見せる笑顔も、からかうような、嘲るような笑み。
空気でわかった。言葉の端々でわかった。
理由ははっきりしなかったけど、先生は、自分の家の中でも、一人ぼっちだった。
大魔術師の弟子として王城にいる間も、家族とは疎遠で、家に帰ることもなかった。
嬉しそうな笑顔を見せたのは、物語のずっと後半。
兄弟子であるジークに突っかかって行って、何度も勝負をして、それから。
やっと、先生が笑った。
それを見て、心の中の、何かが弾けたんだ。
“見ていてかっこいい”だけじゃなくて、“自慢の師匠”だけじゃなくて。
それからすぐにジークが死んでしまって、心をまた空っぽにしてしまった先生から、目が離せなくなった。
やっと心を開いた人が死んでしまって、どれだけ心を痛めただろう。
もっと。
もっと楽しい話がしたくなった。
笑わせてみたくなった。
一緒に居たいと思うようになった。
心の中に、扱いきれない気持ちが、生まれたみたいだった。
アタシは、先生にずっと笑って欲しいと思っている。
本気で笑っていることももちろんあるけど。
もっと。
ずっと。
いつだって。
生きていて楽しいと思って欲しい。
そしてそれが、他でもないアタシがそう思わせることができたなら。
どれほど幸せなことだろう。
◇◇◇◇◇
ちょうど10年一緒に居たこの二人。シエロくんからすれば、4歳から14歳まで見守ってきて、今まで恋愛相手として見たことがないのは仕方ないことでもありますね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます