12 初めて会ったその時に
先生と初めて会ったのは、4歳の時だ。
うちにやって来た大魔術師マルーとシエロを、パパが嫌な顔で出迎えた時。
チュチュはこっそりと玄関ホールを覗いていた。
マントを着た二人組。
代々騎士になる家に生まれ、それまで魔術師なんてほとんど見たことがなかったから、”変な人達がやって来た“というのが第一印象だった。
バタン、と応接室の扉が閉まるまで見守った。
「魔術師がうちに何の用だ?」
キリアンの重い声が、応接室に響いた。
警戒している声。
まず言い出しにくそうに話を始めたのが大魔術師だった。
「ワシらが魔術学園を立ち上げたのはご存知だと思うが。そこで、じゃ」
「…………」
キリアンが押し黙る。
「コンスタン侯爵、お主、娘がおるじゃろ」
「居ないが?」
キリアンは食い気味で発言する。
「チュチュリエ・コンスタンを、うちの学園に招待したい」
「居ないっつってるのに」と小さな声で呟く。
「…………」
キリアンは、腕組みをして、二人の魔術師を睨みつける。
大魔術師はいつも通りいい人ぶった顔をしているし、シエロの方は、いつも通りからかうようなニコニコ顔だ。
「お断りだ」
「…………」
大魔術師が悲しそうな顔をした。
「娘をお前達のいざこざには巻き込むわけにはいかない」
「…………」
「大事な家族なんだ。……チュチュに戦う仕事はさせられない。もし、ジークみたいなことになったら……」
それを聞いた大魔術師が、苦い顔をする。
「それは承知の上じゃ。しかし、うちの学園には、どうしてもジークヴァルトと同年代で信頼の置ける力の強い人間が要る」
「強いったって、……うちは騎士の家だ。魔術師に合う奴なんて居ないよ」
「魔術師に向いているのは、意志の強い人間だ。その点、お前さんの娘なら、申し分ないじゃろう」
「…………」
キリアンは、暗い顔で俯く。
「オレだって、ジークがまだ居てくれてよかったと思っている。けど……」
部屋の中に、沈黙が落ちた。
「今日の所は、帰ってくれないか」
静かな部屋に、厳しいキリアンの声だけが響く。
「……ああ」
魔術師二人が立ち上がり、玄関ホールへと向かう。
玄関ホールにいるチュチュと、魔術師の目が合った。
「…………」
変な人、なんかじゃない。
王子様みたいな綺麗な人。
18歳のシエロは、貴公子そのものだった。
にっこりと笑う、その笑顔。
「こ、こんにちは、チュチュリエ・コンスタンと申します」
ママに教わった挨拶を、ここぞとばかりに使ってみせた。
「ねえ、今のお話って……」
「お前、また扉の外に居たな?」
「…………!」
言ってしまってから、しまったと思った。
ところどころしか分からない会話。
けど、分かったこともある。
「アタシ、戦うお仕事、しちゃいけないの?」
「…………」
キリアンが、チュチュに向かい合い、真剣な顔を見せた。
「しちゃいけないっていうか……危ないだろ」
「でもアタシ、」
少し、言い淀む。
これはパパに言っていいことだろうか。それとも、口にしたらいけないことだろうか。
「アタシ、もう決めてるの!パパみたいに、騎士団に入る!」
「…………」
キリアンが、それを聞いて、嬉しいような、それでいて苦しいような顔をした。
「それは…………、ズルいだろ」
そこで、キリアンが気を取り直して、
「それなら、魔術師にはならないな」
と言い放つ。
「魔術師?」
「ああ、こいつらみたいに、魔術を扱う人間だよ」
そう言われ、チュチュは顔を上げた。
気の良さそうなおじいさんと、キラキラしたお兄さんの顔が目に入る。
「“弟子入り”?」
いつか、パパに申し込もうと思って、覚えた言葉を口にした。
そうすると、シエロが、綺麗な笑顔でこう言った。
「ああ、君がもし、魔術師に弟子入りすることになったら、僕が師匠になる予定なんだ」
「…………!」
そうなんだ!
この王子様みたいにかっこいい人が、アタシの師匠!?
「アタシ、魔術師になる!!」
「うおいっ!!!!」
キリアンがすかさず、チュチュにツッコミを入れた。
「許さないからな!!??」
「アタシ、立派な魔術師になって、強い騎士団長になる!!!」
「魔剣士か!!いや……オレは許さないからな!!???」
これが、アタシと先生との出会いだ。
◇◇◇◇◇
魔剣士は、魔術と剣術の両方を扱う人間です。
どちらもやろうという人間が稀なのか、現在この国に魔剣士はいません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます