14 ねぇ、笑って(2)
いつも通りだった。
いつも通り、朝起きて、朝食を食べて、授業を受けた。
「チュチュ、午後は実習室でいいね」
「はーい」
いつも通り話しかけられる。
先生だから、当たり前なんだけど。
その当たり前が、少し腹立たしい。
「次に学びたい資料があったら持ってきて」
「はーい!……ないけど」
「ないなら、昨日届いた角度の計算の本を持っていくよ」
「え、何?計算?」
「そうなんだ。面白い計算式を見つけたんだ。魔法陣に落とし込んでみたら面白いんじゃないかと思ってね」
「え……、アタシの魔法陣は実験台じゃないんだけど?」
「実験じゃないよ。ただ、試してみたいと思ってね」
「それを実験て言うの!」
本当に、いつも通り。
それからチュチュは、エマにおすすめの資料を聞いて、図書室から2冊ほど持ち、実習室へ向かった。
ガチャ。
「せんせ、エマのおすすめなんだけど…………え」
チュチュが実習室へ入った時、シエロが床に倒れていた。
寝息が聞こえていて、正確には仰向けになって寝ているだけのようだった。
「せんせ……?」
近付いても、起きる気配がない。
目の前で、パタパタと手を振ってみたけれど、寝息は聞こえ続けている。
……綺麗な顔して寝てくれちゃって。
けど、こんな風に間近でこの綺麗な顔を眺められるのはそう悪くない。
座り込み、じっと見ていると、シエロの睫毛が震え、目蓋が開いた。
「…………」
ふっとシエロの空の色をした瞳が、チュチュを捉える。
「チュチュ、来てたのか」
「……おはよ」
むくり、と起き上がり、シエロが微笑みながら、実習の準備をする。
普通の顔。
アタシだけが、ドキドキして、何か起こるんじゃないかって緊張して。
でも……、本当に何もないんだ。
少し寂しくなりながらも、チュチュは笑った。
実習の終わり、実習室を片付け、図書室に本を片付ける。
本があった場所を探し、背表紙を確認して、2冊の本を背伸びしながら、なんとか本棚に押し入れる。
図書室の重い扉を閉めて、階段を上がる。
階段の途中で、シエロと出会した。
窓の光で、金色の髪がキラキラと輝く。
あの綺麗な人の心を、アタシが揺さぶれたらいいのに。
少しでも、あの表情を崩せたらいいのに。
このままもう、何も起こらないとしても、心に何か残せればいいのに。
その顔を、笑わせてあげられればいいのに。
シエロの瞳が、階段の下にいるチュチュの方を向いた。
「やあ、チュチュ」
にっこりと笑うシエロの顔。
こっちを向いてくれることが嬉しくて、「へへっ」と笑った。
「先生」
チュチュとシエロが、すれ違う。
「ねえ、先生」
「ん?」
振り向いたシエロの顔が、チュチュの視線の下に来る。
階段の段差で、頭の高さが近づく。
「先生、……アタシ、先生のこと」
チュチュが、精一杯笑った。
「大好き」
◇◇◇◇◇
前途多難なチュチュの恋模様ですが、まだまだここから!!
これからも見守ってくださいね!
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