7 追跡(2)
話し声はしない。
独り言もない。
あってる、よね?
ちょっと不安になりながらも、布に包まったまま、顔を出すことも出来ずにじっとしていた。
そのまま、どれだけの時間が過ぎただろう。
馬の嘶きが聞こえて、馬車はゆったりと止まった。
「…………」
外は、沢山の人の声がする。何処かの町の中みたいだった。
馬車に乗っていた誰かが、馬車から降りて行く気配がした。
居なくなった気配がしても、暫くそこでじっとしたけれど、誰も戻ってくる気配がない。
チュチュはそっと、頭を持ち上げて見た。
そこは、知らない町だった。
町の中を歩くために、馬車を停めて行ってしまったのだろう。
「…………」
様子を窺いつつ、チュチュはそっと馬車から降りる。
大丈夫。近くを少し覗くだけ。
馬車を停めるための町の裏側から、賑わっている方へ足を向ける。
そこは、思った以上に大きな町だった。
想像以上の大きな通りには、馬車が行き交う。
その道路を挟んで、大きな建物が建ち並ぶ。
1階はどこもお店になっていて、カフェや雑貨屋、仕立て屋、本屋、花屋など多種多様に華やかな店が並んでいた。
買い物だけなら、学園近くの町でも済むはずなのに。
自然と、あの金髪を探してしまう。
シエロの金髪はこんな街中だとなかなか目立つ色をしている。
それに、魔術師のマントが汚れひとつない白色だ。
大きな魔術師の杖まで持って。
いくら騎士や魔術師が多い街の中でも、あの姿は見つけられる気がする。
そして案の定。
近くのカフェで、間違いなくシエロだと言える後ろ姿を見つけた。
「嘘……」
カフェの窓の中。
誰かと一緒で。
それも……ドレス姿の……。
誰?
本当に、婚約者の……。
だって本当に、婚約者が居ても、おかしくないんだから。
けど。
こんなのは、やだ。
そこから逃げるように、チュチュは踵を返す。
人混みの中へ、一目散に駆け出した。
明るい街の中を歩く。
沢山の笑顔の人達。
見知らぬ土地で、一人ぼっちで。
おかしいな。
なんでアタシ、こんなにショック受けてるんだろう。
こんな賑わったところで、デートしてる先生なんて想像したこともなかったから?
先生なら大丈夫って、どこかで思ってた。
恋人なんて作らないで、結婚もしないで、ずっと先生としてそこに居てくれるって。
そんなわけないのに。
「…………」
そうだ。
こんなところでショック受けてる場合じゃない。
馬車へ戻らないと。
馬車に乗り損ねると学園へ戻れなくなってしまう。
くるりと馬車の方角へ向いた、その時だった。
「店を出たところを捕まえろ」
通りを歩く人間の誰かが、そう言ったのを聞いた。
え?
こんな明るい街中にそぐわない、暗い声。
◇◇◇◇◇
シエロくんは別にコミュ障ではないです。やろうと思えばシエロくんだって、デートくらいこなしてくれるでしょう。
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