6 追跡(1)

「そう、なのかな?」

 まじまじと、メンテの顔を見る。

「……ぼくに聞かれたって」

 と、メンテは冷めた返事をした。


 好きな人?

 恋人?

 婚約者?


 そんなこと、聞いたところで教えてもらえるわけもない。

 けど、気になり出すと、気になって仕方なくなってしまった。


 それから数日後のことだ。


 食堂で朝食を食べていると、シエロが入ってきた。

「今日は、予定が入ってしまってね。授業はヴァルに頼んであるから。午後からは用事で出かけてくるよ」


 用事。

 仕事じゃなくて、用事?

 いったいどんな用事なんだろう。


「んー」

 と、ヴァルが素っ気ない返事をした。


 その日の授業前。

 チュチュが教室に入ると、授業準備をしているヴァルが、教壇に立っていた。

 今日は、魔術体系の授業らしい。

 黒板には、魔術体系の図が貼ってある。


 チュチュは自分の席に着くと、

「ヴァルヴァルヴァル」

 と話しかけた。


「どうした?」

 顔も上げずにそっけない返事。

「先生、ってさ。恋人とかいるのかな」

 そう聞くと、ヴァルがふいっと顔を上げた。

「シエロにか?」

「そう。婚約者とか」

「あー、婚約者……」


 その瞬間、背中に冷たいものが走る。


 今のヴァルの顔。

 何かを思いついたみたいな顔だった。


「俺からそういう話はできないな」

 結局そんな返事で、その話は終わってしまった。


 いる、のかな。


 授業の後、食堂へ下りると、たまたままだシエロがそこにいた。

「先生」

「やあ、チュチュ」

 長めの金髪が、揺らぐ。


「先生、おまんじゅうあるけど、おやつに持っていく?」

 ひょっこりとおまんじゅうを差し出す。

「ああ、いいの?ありがとう」

 いつもと同じ、綺麗な笑顔。


 アタシから聞くわけには、いかない。


 じゃあどうしよう、と思った時、本当に、つまらないことを思いついた。

 こっそりと馬車に乗って、付いて行ってしまえばいい。

 きっと、小さい方の馬車で出かけて行くから。


 エマとリナリと3人で食べる予定の小さなおまんじゅうを掴んで部屋へ戻ると、また部屋の外へ出た。


 そんなこと、できるわけない。


 けれど、その思考とは裏腹に、チュチュは早足で階段を下りる。


 バレたらきっと怒られる。


 怖い。


 けど。


 チュチュは、厩舎へ向かった。

 学園の馬が、2頭まだそこに居る。


 まだ、行ってない。


 いっそ、行ってしまっていれば諦めがつくのに。


 急いで荷物を包むための大きな布を馬車へ載せる。

 きっと、先生はちょっと雑なところがあるから、荷物用の布があっても気にせずそのままにするだろう。


「よっ」


 馬車に乗り込み、急いで布に包まる。外から見えないように、頭からすっぽりと。


 そのまま静かにしていると、すぐに誰かがやってきた気配がして、そのまま馬車は動き出した。



◇◇◇◇◇



この続編では、シエロくんの話が書ければいいなと思っております。

短い番外編程度のつもりだったけど、思ったよりも長くなりそうです。

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