4 泣きたい時は

 リナリが元気になったところで、メンテとチュチュは、一緒に部屋を出た。


「チュチュは?」

 扉を閉めたメンテが、後ろから声をかけてくる。

 静かな声。

「アタシももちろん、リナリがいないと寂しいよ。ずっと一緒に居たし」


「じゃなくて」

 静かに、メンテが言った。

「それもあるけど」


 メンテが、優しくチュチュの顔を見た。

「泣きたいこと、あるんじゃない?」


 その言葉を聞いて、チュチュが少し面食らった顔をした。

 チュチュが泣いているとき、メンテはそのまま行ってしまったから、もう無かったことになったのかと思っていた。


 忘れててくれていいのに。


 けど、嘘なんてつけなくて。

 嘘をつく理由も見当たらなくて、チュチュはただ、「……うん」とだけ言葉を発した。


「聞こうか」


 そんな言葉に乗せられて、それからすぐ、二人はチュチュの部屋でお茶を飲むことになった。

 小さなテーブルの上に、2杯のアイスティー。

 けれど、チュチュは、氷が溶けるのも構わず、ベッドに寄りかかって膝を抱えた。


「笑わないで欲しいんだけど」

「あ〜……、笑わないと思うよ」

「あのね、アタシ……、先生が好きなんだ」


「…………」


 メンテが沈黙してしまったので、チュチュががばっと顔を上げる。

 メンテと、目が合った。


「あ〜……、うん。なるほどね」


 メンテが、何と返答しようか少し悩んだ末、出てきたのが、そんな曖昧な言葉。


「驚かないの?」

「気付かなかったからびっくりはしたけど、どっちかっていうと、この部屋に、かな」


「あはは」と乾いた笑いを見せながら、メンテが部屋を見回した。

 チュチュもそれに、「あはは」なんていうちょっと変な笑いを返す。


 チュチュの部屋は、隙間なく、シエロのポスターやグッズで埋められている。

 それはもちろん、『メモアーレン』という乙女ゲームの攻略対象、12歳のシエロくんなわけだけど、それにしたって、この学園で教師をやっているシエロとは同一人物だ。


 壁には所狭しとポスターが貼り付けてあり、その隙間には所々にキーホルダーがかかっている。棚の上にはシエロのアクリルスタンド。ベッドの上には抱き枕。床の上にクッション。

 出されている背の高いグラスも、片方にはシエロが描かれている。

 ちなみにもう片方のメンテの前に置かれているものは、今しがた引っ張り出してきたジークのイラストだ。


「……ゲームのキャラクターとしてじゃなく、先生本人が好きなんだね」

「そう」

 チュチュが、躊躇いもなく返事をする。


「アタシはね、男の人として、先生が好きなんだ」


「ふーん」

 と、静かに、メンテはそれだけを返した。



◇◇◇◇◇



さてさて、今度のラブストーリーはハッピーエンドに収まるのでしょうか!?

お楽しみに!!

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