3 リナリの決心
リナリが食堂から戻ってくるのを見計らって、チュチュはリナリの部屋へ赴いた。
コンコン、と扉を叩く。
意外なことに、中にはリナリの他にもう一人、メンテが居た。
大人になって、昔ほど一緒に居ないと思っていたけれど、やはり、部屋を行ったり来たりはするようだ。
相変わらず仲のいい双子。
「どうしたの?」
チュチュは、ちょっとしたお菓子とお茶が載っているテーブルを挟んで、メンテとリナリの前に座った。床にひかれたラグが心地よい。
「実はね」
リナリが話し出す。
どうやら、王都の図書館に、見習いという形で暫く働かないかと話が来たそうだ。
期間はとりあえず1ヶ月ほどが目安。
けれど、それ以上になる可能性も踏まえて欲しいということだった。
リナリは、少し、不安そうな顔で下を向いた。
チュチュが、きょとんとする。
「何に悩んでるの?」
「一人で行くのは怖くて」
リナリは、声まで少し不安そうだ。
「でも、ラビラントさんと働けるってことなんでしょ?」
「そ……そう」
リナリが戸惑うような瞳を上げる。
図書館で働くのはリナリの夢だった。
そこで憧れの人と一緒にいられるなんて、悩む必要ないと思うけど。
チュチュが、その視線を受け止め、リナリの手を掴んだ。
「行くべきだと思うよ」
「……メンテだって一緒じゃないんだよ?」
リナリが泣きそうな声を出す。
そっか、メンテと離れるのが不安なんだ。
この二人は、国を越えてここへ来た時にも一緒だった。
それはつまり、二人は、生まれてから離れたことがないということだ。
成長し、常に一緒とはいかなくなってからも、お互いの存在は心の支えであるらしかった。
「メンテ連れてお仕事はできないよ。図書館、行きたいんでしょ」
「うん」
そこは揺らぎなく、行きたいとしか言わない。
「チュチュもそう言うだろ。ぼくもそう思うよ」
「メンテぇ……」
リナリの顔がふにゃっと崩れた。
ここまでめそめそするリナリを見るのは久しぶりだった。
最近、強くなったと感じていた。
でもそれだけ、メンテと離れるというのは、リナリにとって一大事なのだろう。
メンテの手が、リナリの頭を撫でる。
「ぼくだって同じだよ」
「え?」
リナリが、メンテの顔を下から眺めた。
「さみしいよ」
リナリの目が見開く。
相手も自分と離れることを、寂しがっているとは思っていなかったのだろう。
「……本当に?」
「当たり前だよ。いつだって、リナリを頼りにしてきたし、ずっとそばに居られると思ってた。一緒に居ないと、きっとずっとさみしいよ」
同じ気持ちだということに安心したのだろう。
リナリの顔が、泣きながらも元気を取り戻していく。
メンテが、リナリの顔をぐりぐりと撫で回す。
「けど、一緒に居なくても、僕らはずっと双子なんだ」
「うん」
「寂しくなったら、帰っておいで」
「うん」
チュチュがその姿を見て、ふひひっと笑った。
「メンテもリナリ大好きなんだね」
からかうと、少し拗ねたような、小さな頃みたいなちょっと照れた顔で、
「当たり前だろ」
と返された。
◇◇◇◇◇
双子は現在13歳。研修にしてもまだ早いんじゃないですかね!?
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