2 学園の生活
自室の鏡でじっくりと自分の顔を見た。
「…………」
変な顔になっていなかったらいいけど。
もし傷ついた顔なんて見せたら、きっと先生にアタシの気持ちがバレてしまう。
鏡を覗き込む瞬間にも、部屋のあちらこちらにある『メモアーレン』のシエログッズが目に入る。
……かわいい。
こんな時にも、『メモアーレン』のシエロくんが癒しになるなんて。
同じ人なのに。
金髪碧眼。白の魔術師のマント。背より大きな赤い宝玉の付いた杖。
今の先生よりずっとずっと幼いけれど、この12歳のシエロくんは、今、先生をしているシエロと同じ人だ。
けど、こんな時でさえ、『メモアーレン』のシエロくんの存在に元気付けられる。
変なの。
鏡の前でしっかりと笑顔を作って、チュチュは夕食のために食堂へ向かった。
食堂には、シエロ以外の全員が揃っていた。
シエロは、食事時は、みんなよりも遅く来る。
今日も、例に漏れずそうらしい。
キッチンには、双子がまだ食事の準備で楽しそうにお茶を入れたりしている。
テーブルでは、ヴァルとエマがカトラリーの準備をしていた。
今日の食事に気に入ったものがあったようで、エマはご機嫌だ。
「最近双子のご飯、美味しくなったよね」
今日の夕食当番は、双子が担当している。
「気が合うからかな。調理に慣れてきてから、手際もいいし、美味しいよね」
言いながら、チュチュはエマを手伝い始める。
それを聞いて、メンテもリナリも嬉しそうだ。
そこへ、食事の準備がすっかり終わった頃、シエロがやってきた。
「美味しそうだね」
シエロが、テーブルを覗き込んで言う。
すぐ、斜め前に座る。
ショックがまだ続いているかもしれないと思ったけれど、案外、チュチュは冷静だ。
「スープが美味しそうだよね」
にこにこと、シエロに相槌を打つ。
どこかで、ショックを受けたままの自分が、心の中に潜んでいることも気付いている。
けど、そんなことを顔に出したら、きっとこの関係も崩れてしまう。
何事もなかったように振る舞う。
それだけが、アタシに出来る、先生を好きでいていい方法だ。
それからも、いつもと同じように、6人で食事をした。
グラタンに、サラダに、野菜のスープ。パン。
そして、リナリが作ったプリンが付いて、全員がお喋りをしながら、満足そうに食事をした。
その当たり前が、あんなことを言ったのにどうして崩れないんだろうと、少しだけ不満に思う自分もいる。
けど、そんなことを顔に出すだけでも、アタシの生活は破綻する。
食事が終わると、エマとヴァルが、そのまま食堂を出て行ってしまう。
チュチュもそれに続いて、そそくさと食堂を出た。
廊下に出て、階段まで歩く。やっとひとつ、ため息を吐く。
外はもう暗くて、一番星が輝いている。
「チュチュ」
後ろから声をかけられて、一瞬ビクッとする。
ヒヤヒヤと後ろを振り向くと、そこに居たのはメンテだった。
「どっ、どしたの、メンテ」
チュチュを見て、メンテがふふっと笑う。
「全然表情隠れてないね」
「な……!?え……?」
混乱していると、メンテがにっこりと紳士な表情をした。
「リナリが、相談に乗って欲しいって。あとでリナリの部屋ね」
予想外の話に、チュチュはきょとん、とした。
「う?うん」
そして、気を取り直したチュチュは、にっこりと笑った。
「わかった」
◇◇◇◇◇
チュチュは夏生まれ、シエロくんは冬生まれです。
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