抜剣少女は魔術教師に恋をする
みこ
1 もし、好きだって言ったら
「ねえ、先生。もし、アタシが、先生のこと好きだって言ったら、どうする?」
それは、とても明るい青い空が窓から覗く、長閑な午後のことだった。
季節はすっかり春で、紅茶をアイスにするかホットにするか、少し悩んでしまうくらい暖かな日。
食堂で、偶然二人になった。
そこでの雑談の中で、チュチュはつい、シエロに向かって口にしてしまったのだ。
言ってしまった……。
シエロが怪訝な顔をする。
「もちろん、弟子が師匠を慕うのは当たり前だけど?」
一呼吸おいて、シエロは言葉を続ける。
「それは……、恋愛対象として?」
そうだよ。
「そうそう!もしもの話だよ?」
努めて、明るい声を出す。
せめて冗談として受け止めてもらえるように。
大きなテーブルの斜め向かいに座るシエロは、いつもと同じように、にっこりと笑顔を作る。
二人の目の前にあるミルクティーの表面に光が落ちる。
シエロの金色の髪が揺らいで、青空のような青い瞳が深く輝く。
いつもと同じ、天使みたいな綺麗な笑顔。
そして、シエロはこう言った。
「どうにもならないね」
どうにも、ならない…………。
「だって、僕と君じゃ、違いすぎるだろう?君が僕をどう思ってようと、好きだろうと嫌いだろうと、今と何も変わらないよ。僕が君を恋愛対象として見ることはないからね」
当たり前だ。
学園の先生と生徒という関係。
幼い頃から師匠と弟子の関係。
近付くことはない14歳差の年齢。
言っちゃいけないことは気付いてたはずなのに。
言ってもどうにもならないことは気付いてたはずなのに。
どうしてこんなこと言ってしまったんだろう。
それでも、現実を突きつけられるのは、……きつい。
そんな現実を前に、アタシは笑うしかできなかった。
「そりゃ、そうだよね〜」
アハハって笑う。
バレないように。
バレないように。
頭の奥を真っ白にしながら。
泣かないように、息をして。
笑って。
この関係が壊れないように。
「こんなかわいい美少女に目がいかないなんて、先生は見る目がないなぁ〜」
面白そうに見えるように笑いながら、チュチュは立ち上がった。
薄い茶色のふわふわツインテールが揺れる。
「そろそろ行くね」
にこっとシエロに笑いかけると、ひらひらと手を振った。
シエロも、いつもの優しい顔で手を振り返す。
そのまま、いつもの足取りで、食堂から廊下に出ると、パタンと小気味よい音をさせて扉を閉めた。
こんなことで、泣かない。
こんな分かりきってた事で。
目をウルウルさせながら、顔を上げると、
「え?」
そこにはメンテが居た。
「チュチュ……」
メンテは、チュチュのエメラルドのような深い浅葱色の瞳が揺らぐのを見て、小さく呟いた。
けれど、その顔は見なかったことにしたかのように、そのまますれ違う。
チュチュも、そのまま目を逸らし、階段へと歩を進めた。
◇◇◇◇◇
さて、昨日ぶりの新連載!
本編の方は読んでくださったでしょうか?
読んだ人は、ここまで付いてきてくれてありがとう!
読んでない人は、興味があったら読んでほしいな!
この物語は『転生少女は過去の英雄に恋をする』の続編です。
番外編的な位置づけで、あくまで本編は『転生少女』の方。
今回は、本編直後からの物語。
本編主役エマとヴァルの隣にいた、チュチュとシエロくんが主役です。
どうぞよろしくね!
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