6話
自分のためであるとはいえ、あまり余計なことは言わない方がいいのかもしれない。
食事を終えた後、僕は物置の片づけをしていた。ちゃっかり小金澤は夕食を食べていき、僕に空き部屋を頼んだと一言だけ残して帰っていった。自由なやつだとつくづく思う。
まったく、少しは手伝うとか一言ぐらいあってもいいんじゃないだろうか。自分の1室を確保するときも大変だったが、物置にはかなりの荷物が置いてある。
適当に違う部屋に移すだけならば楽な話ではあるが、どこに何があるか分かっていないと困るのは自分なので、配置を考えながら荷物を運んでいく。
「どう進んでる?」
「何か手伝うことがあれば手伝うよ」
ありがたいことに海風と桜井が様子を見にやってきてくれた。
「ありがとう。でもこれは僕が頼まれたことだから」
そう断ろうとしたが、2人は迷わず部屋に入ってきた。
「ううん、月波くん1人に押し付けられないよ」
「そうそう、本当は翼くんが最初に住んでたのに、あしたちのために1階に移ってくれたんだから、これぐらいは協力するよ」
この2人の性格上、大丈夫と言っても手伝ってくるだろう。僕はお礼を言ってありがたく2人に手伝ってもらうことにした。
「この家も段々にぎやかになってきたね」
「もう空き部屋が1部屋しかないしね」
このアパートには、僕、桜井、海風、赤神という順番に入居した。赤神がここへ入居したのは高校1年生の夏休み辺りであるため、人数が増えるのは久しぶりのことだ。
「役割分担表も作り直さないとね」
このアパートに住む条件はいくつかある。まず前提として一定額の家賃を収めること。家賃と言っても他のアパートと比べれば全然安い。
そして、家事などは基本的に分担することを僕たちの間で決めていた。主な内容としては、料理、風呂洗い、洗濯、食器洗い、ゴミ出し、買い出しなど様々だ。
料理に関しては作れるのが桜井しかいないため、1人にお願いする代わりに他の仕事は残りのメンバーでローテンションで行っている。ただ、洗濯に関しては、男女で分けることは暗黙の了解だ。
「千尋ちゃんが料理できることも分かったし、仕事量も減りそうだね」
桜井は両手を組んで背筋を伸ばしながらそう言った。進んで引き受けてくれていたものの毎晩夕食を作るのは負担が大きかっただろう。
「いつも大変だったよね、桜井さんばかりに料理を作らせちゃって」
「ほんとね、私も作れたら良かったんだけど」
「いいの、いいの! 好きでやっていることだから。それに美味しそうに食べてくれるだけで嬉しいんだから」
桜井が作った料理をおいしいと言うといつも嬉しそうにしている。本当に料理が好きなんだなとよく分かる。
「今日の料理千尋ちゃんも作ったんだよね……私も頑張ってみようかな」
後輩の料理に触発されたのか料理を作ってみたい、そんな風な発言をしたので、僕と桜井は黙って目を合わせる。
「(止めた方がいいよね?)」
「(もちろん)」
海風の料理は食べれないことはないが、ただそれは食料としてギリギリ保っていられているレベルの話だった。
「作ってみたいなら私がいる時にしようね」
「うん、そうする!」
本人も料理が出来ないことは自覚しているだけ助かっている。味覚音痴であったならば、たぶん死期が迫ってきていただろう。
桜井が目を光らせていれば余計なことはしないはずだ。だから、作るならせめて桜井が一緒にいる時にしてほしい。
「2年生は修学旅行もあるし、同じクラスだといいな~」
話の流れを変えるべく、桜井は別の話題を提示する。それに僕も乗っかった。
「そうだね、意外と行事も多いし、知り合いが多い方が楽だろうね」
僕たちの高校では1学年に7クラスある。そして1年の時は、僕がB組、桜井がC組、海風がE組、赤神がG組と全員バラバラであった。
「でも、みんな文系だし、同じクラスになれる可能性は高いんじゃないのかな?」
2年生から基本的に文系と理系でクラスが分けられる。つまり、同じ文系である分、同じクラスになる可能性は高くなると言うわけだ。
「6月に体育祭でしょ、9月に文化祭、11月に修学旅行。今からとても楽しみだね」
2年生に行われる行事を想像しワクワクしている桜井。
「林間学校もあるけどね」
「やめて、それは聞きたくない」
「いいじゃん、結構私は好きだけどな~」
林間学校という言葉を聞くだけで嫌がる桜井。林間学校は3泊4日で行われる。全学年で合同で参加するため毎年3学期の行事の1つだ。
「いいわけないよ、だってあれ、林間学校という名の勉強合宿だもん。わざわざ学校の外まででて勉強はしたくないよ……」
一応、嵐吹高校はここらで有名な進学校であるので勉学に力を入れている。1,2年生は強制参加となっているが、3年生は希望制となっている。受験期に行事に参加できる人は少ないだろうという学校側の判断だ。
「今ここであたふたしても変わらないんだし、諦めなよ」
「ううっ……」
勉強嫌いな人にとってはあの行事は地獄だからな。先程まで元気であった桜井が落ち込みながら、部屋の片づけをしている。こんなにしゃべりながらも手は動かしてくれているから2人には感謝だな。
その後も誰かが話題を提示してはそのことについて雑談しているうちにある程度部屋が綺麗になった。
「2人ともありがとう」
1人で片付けていたら、倍以上の時間がかかっていただろう。本当に助かった。僕は素直にお礼を言った。
「ううん、話しながらやってたし楽しかったよ」
「うん、私もおしゃべり出来てよかった」
「じゃあ、残りは明日になるから、あとは僕の方でやっとくよ」
もう一度2人にお礼を言い、2人は風呂場へと向かっていった。この部屋の片づけを手伝うために風呂に入らずにいてくれたのだろう。相変わらず、優しい奴らだ。
こんなオレなんかと関わってくれているんだから……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます