幸せな陰陽師(2023年書き初めSS)

「――――」


 晴明は一人、輝く月を眺めていた。憂いを帯びた表情が、ぼんやりと月光に照らされている。


「じーっさまっ! どうしたの?」


「――! 緋月……」


 背後からかけられた声に振り向けば、そこには可愛い孫娘の姿。彼女はキョトンとしながらこちらを見つめていた。


「おーい爺さん、よい兄さんが早く来いってよ!」


 それだけでは無い、もう一人の孫娘もひょっこり顔を出し、孫の長兄が呼んでいることを知らせてくる。今にも長兄の怒る声が聞こえてきそうだ。


「二人、とも……」


 揺れる紫紺の瞳は月ともみじを映していた。

 綺麗な、綺麗な満月と、美しいもみじを。


「……うん、今すぐに行くよ!」


 晴明はふわりと花の様に微笑むと、嬉しそうに駆け出した。

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