何も無かった(2022年書き納めSS)

「――――」


 晴明は一人、輝く月を眺めていた。憂いを帯びた表情が、ぼんやりと月光に照らされている。


「おや晴明くぅん、黄昏たそがれちゃって一体何かあったんですかぁ?」


「やぁ、君か……いいや、なんでもないよ」


 背後からかけられた声に振り向けば、そこには友人の姿。心配そうに眉根を寄せながら、糸目をこちらへと向けていた。

 晴明は静かに首を振ると、フッといつもの様なおどけた笑みを見せる。


「なんでもないんだ……なんにも」


 揺れる紫紺の瞳は月を映していた。

 綺麗な、綺麗な満月を。


「今年も、なんにも無かったんだ……」


 晴明は一人、静かに呟いた。

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