第18話

 シェルドとの通話を終えて、私は顔を洗った。涙で目が腫れてしまったのを、水で冷やしてどうにかしようと思ったが、顔を洗うくらいではどうにもならなかった。放置しているアミのことも心配なので、目の腫れは諦めてアミのもとへ戻った。

 アミはまだ寝ていた。心地よさそうに寝息をたてているが、流石にそろそろご飯を食べないといけない時間で、かわいそうだが起こさなければならなかった。

「アミ、起きて。そろそろご飯を食べよう。」

 声をかけると、アミはうっすら目を開けた。前まではこのくらいの声掛けでは起きなかったことを考えると、最近は眠りが浅くなっているのかもしれない。

「んぅ……。」

 まだまだ眠たそうにしている。また眠ってしまいそうだったので、何度も声をかけた。

「……ケイド、おはよう。」

 やっと応えてくれたが、目はほとんど開いていないうえに、声もくたくただった。

「今はもう、おはようなんて時間じゃないよ。」

 笑いながら言うと「そうなの?」と少し目を大きくして言った。


 長いこと寝ていたせいで、のどが乾ききっていたのだろう。アミは枕元に置いてある吸い飲みにしゃぶりついた。

 アミが栄養剤に口を付けたのを見届けて、私も栄養剤を飲んだ。栄養剤以外食べることができないアミの前で、他のものを食べる気になれなかった。

「ケイドはちゃんとしたご飯食べてもいいんだよ。飽きてきたでしょう?」

 アミがまだ眠たそうな顔で言った。

「大丈夫だよ。昔からご飯を作ることを面倒くさがって、栄養剤ばかり飲んでいたから、このくらい平気だよ。」

 強がりなどではなく、本当のことだった。アミにもそれが伝わったのか、呆れたように笑っていた。

「怪我が治ったら、おいしいごはんを食べような。」

 アミは表情を曇らせた。

「無理だよ……。調理場は階段を下りた一階にある。私、もう階段が怖くて下りられる気がしないの。怪我が治っても、私は階段への恐怖を克服しない限り、栄養剤生活が続く……。」

「それに、本当に治るかどうかも分からないじゃない……。」

 絶望すらも感じられるほど、声に力がなかった。

「大丈夫だよ。僕がアミの塔に行く。アミが治るまで介抱するし、僕の塔にある栄養補助食品も持っていく、僕がアミの怪我を必ず治すよ。」

 アミがぽかんと口を開けて驚いた。咥えかけていた栄養剤の飲み口が落ちた。

「何を言っているの?私の塔に来る?」

「うん、アミのところに行くよ。大丈夫、徒歩でも数日あればつく距離だから。」

「え?本気?」

「本気だよ。シェルドにも協力してもらっている。エディゴさんも……きっと協力してくれる。」

「外の世界に出るってことでしょ?そんなの危険だよ。ケイドが死んじゃうかもしれないじゃない。」

「大丈夫、必ず生きてアミのもとへ行くから。」

 アミの顔が歪み始めた。目に涙がたまっている。

「そんなことしなくていいよ。」

「させてくれよ。」

「どうしてそこまでしてくれるの?」

 そんなこと考えたことがなかった。しばらく考えてみても、しっくりくる答えが浮かばなかった。

「どうしてだろうね。でも、このままアミが弱っていくのを黙って見ていることしかできないのは、僕もつらいんだ。」

 アミの目から大粒の涙がこぼれはじめた。

「……死んだら嫌だからね。」

「わかってるよ。」

 ほほえむと、アミは布団に潜り込んで嗚咽をもらした。布団がかすかにふるえているのを見て、私は必ず生きてアミのもとへ行かなければならないと、心に誓った。

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