第十九話 楽しい時間
『GAME OVER』
画面に文字が表示される。また、まただ。俺は全部のゲームドヘタ説が立証された。先程俺達は「ドラムの達人」をやめ、このゲームをしていた。
名を「ヴェ〜オハザ〜ド」。
少し訛りのある主人公がゾンビたちが蔓延る世界を生き残るというストーリーの普通のゲーセンにあるシューティングゲームである。
手元にある先から光線を出す銃を持ち、画面に打つ。ただそれだけ。
でも俺の場合、そう単純にはいかない。
迫りくるゾンビたちに打ったつもりが、全く違う所を打っていたらしい。
すっかりライフがなくなり、無事ゲームオーバー。
「俺って、ゲーム下手くそだな」
「……想像以上にね」
「赫賀谷君は、ゲーム上手いと思ったんだけどね……」
「なんかごめんなさい」
あまりの下手さに二人も苦笑いをする始末。穴があったら入りたい……。
「次は何する?」
「俺は何でも良いぜ。結果は火を見るより明らかだからな!ははははっ!」
「もう笑っちゃてるじゃん!」
もうどうでも良くなっていた。ぶっちゃけもうゲームをしたくない。
これ以上恥を晒したくないのである。すると野見中が素晴らしい提案をする。
「折角ゲーセンに来たんだし、プリ取らない?」
「「聞いたことあるかも!」」
「流石に聞いたことあるよね!?」
正式名称・プリント倶楽部。略してプリクラ。更に略してプリ。
陽キャのみが立ち入れる
俺のような陰キャにとっては縁のない場所だった。
聞いたこともあったかも分からないが……それでも一度で良いから撮ってみたいとは思う。俺達はゲーセンの奥にあるプリクラが密集してある場所に行く。
GWだからか、女子軍団にカップルと言った俺の天敵達が勢ぞろいしていた。
だが臆することはない。我々には野見中様がおられるのだから!
(普通に場違い過ぎて怖い)
「俺やり方分からんよ」
「同じく」
「簡単だよ。お金入れて、写真撮って、デコって、写真が出てくる。それだけだよ」
「なんかゲームより簡単そうだな」
「流石に難しくはないよ!」
プリクラは簡単に可愛い写真が出来るから若者に人気になったのだろう。
最近ではスマホでプリクラみたいなのが出来るらしいが、プリクラにはプリクラなりの面白さがある……はず!
野見中がお金を入れる。俺達は中に入る。
中は思いの外広く、他に数人は入れそうだ。
「で、これからどうするんだ?」
「ん?この撮影ボタンを押して、撮影を始めるの。ポーズとかは機械が指示すると思うから、それに従えばいいと思うよ」
「上手く笑えるかな……」
「そこ心配することか?」
かくいう俺も上手く笑えるか心配だ。友達とこうやって写真を撮るのは初めてだし、どんな気持ちで笑えばいいか分からない。とりあえず口角上げとけば良いか。
「じゃ、始めるよ!」
野見中がそう言い、撮影ボタンを押す。何故か緊張してきた。
すると機械から音声が流れる。ポーズ・表情を指示され、それに従い、そのポーズを取る。ピースやら頬に指を当てるポーズなど最近の若者のポーズを何回か取られる。中にはこんなの流行ってるの!という様なポーズまであった。
とはいえ撮影は終わった。この後落書き?のやつに入るっぽい。
「赫賀谷君、笑顔がぎごちないww」
「ははっ……マジだ」
写真を見ると、俺の笑顔は滅茶苦茶に引きつっていた。
それを見ていると、笑いがこみ上げてくる。二人の笑顔は良いのに、俺だけ……。
笑っていたが恥ずかしさが後からやってきた。落書きは野見中に任せることにした。俺達じゃ何がなんだか分からないからな。
制限時間がやってきて、画面にQRコードが現れる。
「これを読み取るのか?」
「うん!これでスマホに保存されるはずだよ」
「最近はこうなんだね」
てっきり紙で出てくるかと思ったが、今はこうやってQRを読み取るタイプらしい。俺はスマホで読み取り、写真を確認する。
「盛ってんなー……」
「えへへ〜」
あら可愛い。そんな野見中さんの反応を可愛ながら、写真を見る。
原型が分からないほどに盛られている。
俺はプリの普通を知らないので、これがヤバいのか良いのか分からない。
まあこれも思い出だ。大事にしよう。俺達はプリクラから出る。
さて本格的にやることがなくなってきた。
「この後はどうしましょうか」
「んー、ゲーセンは……うん」
「ごめんなさい」
「「……」」
明らかに俺のせいである。俺が下手すぎて誰も楽しめない。現在時刻十三時。
あれから二時間近く遊んでたらしい。
「あと遊べるのは……映画ぐらいじゃないかな」
「映画か……確かにいいな、それ」
「私も賛成!」
満場一致。早速俺達はモールの映画館に向かう。
ピークの時間帯を過ぎたからか、人は案外少なかった。
俺達はチケット売り場に向かう。
やはりこの映画館は全部機械がやってくれるらしい。店員が殆ど見えない。
広斗は今やっている映画を確認する。
「今から上映されるのは……」
「…………」
「どうした二人共?」
二人は画面を覗き、言葉を失う。どうやらジャンルが問題なようだ。
題名は「ワールド・ウォー・M」。メガネに寄生された人間がゾンビとなり、主人公たちに襲いかかる。いわゆるソンビパニック映画だ。
先程ネットで調べてみたが、ありとあらゆる曇天返し。そこでそのキャラが死ぬの?そこでゾンビが出てくるの?といった感じで結構好評であると同時に、想像以上に怖いらしい。
とりあえず三枚チケットを買おう。
「ほら受け取れ」
「「…………」」
二人は無言でチケットを受け取る。それほどまでに嫌なのだろうか。
俺は別に怖いとは思わない。ホラージャンキーであるソフィー先輩がDVDを借りてきて、俺の家で一緒に見させられた事が多々ある。
その時の俺はワクワクと恐怖を味わった。
一体どんな作品なんだろう、というワクワクと何が怖いのか分からないという恐怖。急に画面いっぱいにゾンビの顔が現れても、「……おお」と言った声しか上がらなかった。
ソフィー先輩からも「心臓動いてる?死んでんじゃない?」と心配される始末。
でも本当に怖くないのである。
俺達はチケットのコードを通行ゲートにかざし、一番スクリーンに向かう。
中には始まってもないのにも関わらず、人がいた。カップルもいる。
画面からゾンビが出てきて食われないかな。俺達は真ん中ぐらいの席に座る
(野見中→俺→広斗の順)
映画が始まるまでの間、二人は終始無言であった。
それほどまでに緊張しているのが分かる。俺はそんな中でも広告を真剣に見ていた。
(へー、agドカモ割で安くなるんだー)
(急に何だ?)
(パラサ……何話ぶりだ?)
(…………)
(すいませんでした)
(それはどれに対する謝罪なんだ?)
(いえ…何でも無いです)
(はいはい。そうですか)
(……ちなみにパラサはホラーは得意か?)
(ホラー……まあ得意なんじゃないか)
(ほうー言ったな)
(我がたかがフィクションに恐怖するとでも?)
パラサが恐怖してる姿はあまり想像できない。だって最強とか言ってるやつだよ!
怖がってたら最強じゃないじゃん!てか殺し合いを楽しんでるようなやつだし!
なおさらだよ!
すると辺りの照明が一気に消える。どうやら始まるようだ。
「二人共、大丈夫?逃げるなら今のうちだぞ」
「覚悟は……できた!」
「…………なんとか」
広斗は威勢がいい。でも右隣の野見中さんは無理そうだ。
もしもの時は全力で寝かせにいこう。こう……首を締めて、グイッって。
早速映画が始まった。最初は企業ロゴとかが出てくる。
最初の方は主人公たちの日常回から始まった。でも徐々に異常性が見え始める。
主人公の娘が通う学校にメガネゾンビが出現した。ああ、娘が……。
そこに主人公到着。ギリセーフ。
映画を見ていると、自分の服に違和感を覚える。
なんと両隣から服の裾を引っ張られていた。
広斗……覚悟なんて出来てないじゃないか。
しかも野見中さんに至っては涙目になってるし。
でもな野見中……まだまだ地獄は続くぞ。
次は避難所に大量のゾンビが襲ってくるシーン。中には一際大きいゾンビも現れた。ゾロゾロと雪崩のように避難所にゾンビが入り込む。
数多の人間が続々と食われていく。
それに続き、最も好印象で死なないだろうなーって思っていたキャラが結構酷い死に方をした。
さすがのこれには俺も眉をひそめる。
それに段々とだが、野見中がこちらにどんどん近づいてる気がする。
俺の腕には詳しくは言わないが、柔らかいものが触れている。
凶悪なものを持っているな。俺は小言で野見中に囁く。
「……なあ野見中」
「な……なに?」
声が震えている。
「ちょっと近くないか?」
「…………///」
野見中は顔を赤らめ、何も言わずそっと離れる。でも服の裾は離さなかった。
可愛いですね。
それから約二時間の上映は終わった。俺個人としては滅茶苦茶面白いと思う。
こうやって大きいスクリーンで見るのは迫力があってよかったし、ストーリーも奥が深いものだった。最後のあれは……うん……素晴らしいとしか言えない。
こうやって映画館で見るのもいいな。今度からちょくちょく来てみよう。
ちなみに二人だが、だいぶげっそりしている。
「大丈夫っすか?」
「もう……僕はホラー映画はいいかな」
「二度と……見ない」
結構びっくりする演出があったからか、見る前より意気消沈してしまっている。
ビフォーアフターってやつだ。
現在時刻は一五時。結構遊んだほうなのでは無いのだろうか。
「次はどうするんだ?」
「買い物でもする?」
「暇だしね……」
とりあえずショッピングをすることになった。本当にその場凌ぎだ。
計画的にやるのは大事だな。
映画館から出て、服や靴・本や雑貨などがあるショッピングフロアに向かう。
「キラキラしてるな……」
やはりこういう所は若い娘が多い。むしろ俺達(俺と広斗)が浮いてる気がする。
野見中さんは……。
「この服可愛い〜」
ショッピングを満喫していた。普通の女の子って感じだ。
服を選んでいるようだが、野見中ならどんな服を着ても、可愛いだろう。
……あれ今俺滅茶苦茶キモい事言った?
「じゃあ僕は本屋にでも行ってるよ。帰る時は連絡して」
「お、おう」
広斗は眼鏡を光らせ、ニヤリとしながら、本屋に向かっていった。
目当ての本がきっとあるのだろう。
……………………俺はどうしたのものか。買うものも欲しいものもない。
広斗に付いていくか?いや、本は家に腐るほどあるし、邪魔したくもないし。
「あれ?黄異宮君は?」
「野見中……。えっと広斗は本屋に行ったぞ」
「赫賀谷君はどうするの?」
「…………」
「……じゃあ私の買い物に付き合って!」
「え?え!」
突然の申し出だった。でも断る理由もない。
俺は萎縮しながら、野見中の後ろを付いていく。
「ねえ、これとこれ。どっちが良いと思う?」
「…………マジ?」
「?」
とある服屋に立ち入り、野見中が服を選んでいたと思いきや、究極の二択を迫られた。こういうのって彼氏とかにするやつじゃないの?俺みたいな陰キャに……。
提示されたのは野見中の今着ている白のワンピースとは真逆の黒のワンピース。
もう一つは水色のワンピース。
ぶっちゃけどっちも似合うと思う。でもそれはこういう場では禁句。
どちらかを選択しなければいけない!
「俺は……!水色の方が良いと……!思うな!」
「何故そんな苦しみながら!?」
苦しませずにいられるか!
もしかすると自分のファッションセンスが間違ってるかもしれないんだぞ!
それはそれとして、俺が水色にしたのには理由がある。
今は春だがこれから夏になっていく。
水色だと夏とかは爽やかな色で良いと思ったからだ。
「分かった!じゃあこっち買うね!」
「……買うの?」
「うん!もちろん!だって赫賀谷君が選んでくれたんだし!」
野見中は曇りなき笑顔で会計に向かう。
その様子を見ている俺は一つの疑問が生まれてしまった。
なんであんな人が俺達と遊んでるんだろうと。
野見中は俺とは比べ物にならないほど格上の存在だ。
誰もが認める美少女だし、俺と比べて交流関係も多い。
なのに俺達と肩を並べて、こうやってモールで遊んでいる。
自分言うのもなんだが、俺と遊ぶよりも他の陽キャと遊んだほうが絶対に楽しいと思う。本当に俺と遊んでいて、野見中は楽しんでいるのか?
何でこんな俺といつも学校とかでいてくれるんだ?
もう一袋を携えて、野見中は俺に向かってくる。
「お待たせ!…………どうかした?」
「いや……」
こんな疑問が生まれてしまい、少々態度に出てしまったらしい。
「……話聞くよ?前みたいに」
「…………」
俺は近くにあったベンチに座る。隣に野見中も座る。
「なあ、野見中。なんでいつも俺達とつるんでるんだ?」
「楽しいからだよ?」
野見中は考えもせず即答した。
「俺達なんかよりも他の人と遊んだほうが楽しいんじゃないか?」
「別にそんな事無いけどなー」
「…………なんて言うのかな。俺と野見中じゃ、住む世界が違う気がしたんだ。俺なんかとつるんで良い人間じゃない気がしたんだ。野見中の事が嫌いってわけじゃない。でも……俺とお前とじゃ持っているものが違うからさ」
「…………」
野見中と一緒にいるのは別に嫌じゃない。でも明らかに俺という存在は場違いだ。
「……私は赫賀谷君が思ってるような陽キャでも超人でもないよ。むしろ陰キャよりだよ」
「嘘つけ」
「嘘じゃないよ。実際小学校の時は人と喋るの苦手だったし」
俺は目を丸くする。そんな事ない、嘘だと思った。
だが野見中が嘘をついてるような表情をしていない。
「でもね、ある時
「それって……」
「うん。あの時赫賀谷くんに言った言葉だよ。お前は逃げてるだけだ。自信が無いだけだって。勇気を持って話しかけてみろ!って。言われた通り、勇気出して隣の子に話しかけた。そしたらビックリ。ちゃんと会話できたんだ」
「…………」
「赫賀谷君達と遊んでる方が楽しいんだよね、実際」
「そうなのか?」
「うん。私って、自分で言うのもあれだけど、モテるんだよね。まだ入学したばっかりなのに告白ばっかされてさ」
「贅沢な悩みだな」
「そう?でさ、他の人たちと遊ぶじゃん?……どうしても邪な目で見られたりとかさ、対等に接してくれなかったりするんだよね」
「……大変だな」
「でも赫賀谷君達は違う。対等に接してくれるし、邪な目で見てこないし。だから、居心地がいいんだ」
野見中は色々抱えている。前にパラサが言っていた。
野見中にも理由があるし、悩みもある。俺は野見中をすごい人だと思ってた。
でも今ここで俺達と変わらない人間なんだなって理解できた。
俺は立ち上がる。
「さ、こんな話終わりにしよう。居心地悪くなっちまう」
「……うん!そうだね!」
俺達は再度ショッピングに向かう。もう楽しい時間も終わってしまう。
精一杯遊ぶとしよう
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