第二十話 部活

GWが終わり、学校生活が再度始まろうとしていた。

俺はいつも通りに起きて、支度を始める。

普通の高校生はGWが終わり、阿鼻叫喚するのだろうか。

俺は幸い学校生活が楽しみにしている。理由は簡単。友がいるから!

友がいなかったら、きっと不登校になっていただろう。

そんな俺は朝の支度を終え、着替えを済ませる。玄関の鍵を締め、学校に向かう。

今日は五月初の授業だ。だとしても何かが変わる訳ではないが。

しいて言うなら、今月は早速テストがあるぐらい。ちゃんとテスト勉強しなければ。

学校に着くと、とんでもない光景が広がる。

「バスケ部どうですかー!」

「サッカー部良いよ!!」

「アビマ部に入りませんかー!」

俺達の先輩方が勧誘を行っている。どうやら部活の勧誘のようだ。

そういえば野見中がそんな事言ってたな。

生徒手帳を確認すると、今月からは一年の部活動が解禁されるらしい。

まさかこんな朝っぱらから勧誘を行っているとは思わなかった。

蒼橋良高等学校は能力者専門学校でもあり、部活の強豪校でもある。

サッカー部も全国十位ぐらいには入ってたし、何人かオリンピック選手も出していたはずだ。競技中は能力は使用しない。能力なしの素の体力でちゃんと勝負している。

俺は人と人の間を縫うように移動し、無事昇降口に抜け出す。

周りの一年もこの騒動に朝から疲れ切っているようだ。

手元には数枚のチラシを持っている。

(部活はどうするんだ?)

(適当な文化部に入る)

(部活に入るのか?)

(まあ入ったほうが楽しそうだし)

(我は戦いを望む)

(悪いが運動部はバイトで無理だ)

運動部入りたいのも分かる。

一度はサッカー部のようなキラキラした部活にも憧れた。

だがそんな俺にはサッカー部たちにある物がない。

そうコミュ力である。それに加え、生まれながらに持つあの陽キャ度。

真似することも出来やしない。

まあ現実の話をすれば、バイトとかで運動部は出来ないだけなんだが……。

俺は教室に入る。中ではやはり部活の話で持ち切りだ。

「おはよう……。真空」

「広斗も朝から疲れたか」

「GW明けにあれは……先輩方に脱毛だよ」

「脱帽だろ?何剥げさせてんだよ!」

普通より早いスピードで息を吐き、汗を流す広斗。

手には数枚のチラシを持っている。それに何故か先輩方の毛を毟ろうとしている。

なんだが面白そうだが、先輩方が可愛そうだ。

コンコン

広斗が締めた扉からノック音がする。俺はちょっとだけ警戒しながらも、扉を開く

「お、おはよう……赫賀谷……君」

「…………」

俺は口を開けたまま、唖然としてしまう。

野見中の手には天井に届くほどのチラシがある。

重さにして多分十kgはしてるだろう。俺は能力を使い、チラシの大半を持つ。

「どうやったらこんなにチラシ積めるんだ?」

「いやー、先輩方が無理やり上にね……」

「限度ってものがあるでしょ!」

俺はチラシを野見中の机の上に半分に分けて置く。半分に分けても相当な高さだ。

黒板が見えねえ。広斗もこの様子には目を丸くしている。

「何でこんなに勧誘が来るの?」

「ん〜分かんない!気付いたらこうなってた」

「俺一枚も貰わなかったよ……(泣)」

「元気だしなよ、真空」

俺は涙を拭いた後、チラシに目を向ける。

何ということだろうか、殆どがマネージャーを募集している運動部のチラシだ。

欲望を表に出しすぎちゃいますか?

「こうしてみると色んな部活があるんだな」

「今日から部活動見学もあるし、どうせなら一緒に回る?」

「いやいや野見中さんのお手を煩わせる訳にはいけませんよー」

ありがたい申し出だが俺はそこまでじっくり考えて部活を選びたいわけじゃない。

文化部であり、ちゃんと活動してて怪しくないやつなら何でも良い。

「広斗はもう決まってんだろ?」

「能力科学研究部です。メガネクイ、キラーン」

「コ○ン君やないか。おい、髪型セットしようとすな!」

だんだん広斗がボケ要因になってきてないか?

出来ればマトモ枠でいてほしいんだが。

ガララ

扉が開く。

廊下から死んだ目をして、絶望の表情を浮かべた奈加河先生が入ってきた。

「……お前達席につけ。HRを始めるぞ」

そう言われ、毎度のごとく席につく。

「お前達はGWどうだった?ちなみに俺は休日なのに学校に来てたぜ。何だよ日直って……少しぐらい休ませろよ。ああこの仕事やめようかな」

あ、重度の五月病だ。死んだ目をしてたのも納得。

「てことで本当は滅茶苦茶休みたいけど、朝のHRをやっていく。まず朝のあれでみんな分かったと思うが部活動が本格的に始まる。基本入るのは自由だが、入ったほうが青春できるぞ。そして今月末には中間テストがある。勉強ちゃんとしろよ。成績悪かったら俺が怒られるんだからな」

「部活に関してだが、放課後・昼休みに見学が出来るところもあるから各自やってくれ。以上解散。俺は寝てくる」

風のように教室を飛び出して、職員室に向かった奈加河先生。

そしてあまりの出来事に静寂と化する教室。

GW明けも前も奈加河先生は奈加河先生だった。











昼休み

俺は野見中がもらった文化部のチラシを眺めながら弁当をモグモグしている

(他のチラシは教室の片隅でタワーと化している)

調理部・手芸部・園芸部・軽音部・極西魔法夜寝結社…………極西魔法夜寝結社!?なんだそのパクろうとしたけどパクっちゃいけないから、名前を変えた部活は。

普通に失礼だろう!……ったく、俺の闇に抱かれて消えろ!

……で、他は帰宅部に囲碁将棋部、茶道部。やはり部活強豪校。

文化部だけでも相当の数だ。

何個かリストアップしたいけど、こうも多いと迷ってしまう。

突っ込むのを忘れていたが、帰宅部は部活ではないよな?なんだこのチラシ。

『世界最速帰宅に挑戦中!帰り道の美味しいラーメン屋もピックアップ中!ぜひ帰宅部へ!』

これホントに帰宅部か?何だよ世界最速帰宅って。そんなのあるのか?

……なんか気になるな。リストに入れておくか。

「どこに行くか決めた?」

「今見学する所を決めてる」

「全部見学すればいいんじゃないか?」

「時間かかりすぎるだろ?確か見学の期間って三日間だよな?」

「三日じゃ、全部は無理か」

俺の両隣で自分の昼食を食べる野見中と広斗が言う。

「いっそのこと生徒会でも入ったら?」

「俺の柄じゃないだろ」

「意外と赫賀谷君に似合うかもよ?」

「絶対に似合わない。断言する。俺よりも適任なやつがいる」

そもそもバイトとかで忙しいし、放課後削ってまで学校に奉仕するつもりもない。

時を同じくしてゴソゴソという音が教室に響く。

どうやらスピーカーから出ているようだ。皆が不思議そうにスピーカーを見つめる。

『あれ?もうマイク入ってる?……え!マジ!?』

謎の人物はオホンと咳払いをする。

『皆さん昼食中に失礼します。生徒会長の池那 隼人いけな はやとです。この昼休みを利用し、生徒会の説明会をしたいと思います。興味がある新入生・二年生は体育館に来てください。以上生徒会からでした』

『あ〜緊張した……え?まだマイクついてる?嘘!?』

プツンとマイクが切れた。なんだ最後の茶番は。

折角真面目にやってたのにこれで俺の頭には「生徒会長はおっちょこちょい」というイメージしかなくなったぞ。

「噂をしてたらなんとやら、真空行ってみたら?」

「え〜」

「これは正しく運命だよ赫賀谷君」

「何その宗教勧誘みたいな言い方」

「神は言っている。話を聞きに行くべきだと」

「大丈夫だ。問題ない」

今日はなんだかこの二人ふざけ過ぎじゃないか?俺で遊んでる?

……生徒会。ぶっちゃけどういう仕事するのか分からないし、もし楽なら入ってもいいと思う。

楽だし成績ももらえるなら万々歳だ。

「……少し行ってみるか」

「ん?結局行くの?」

「ああ、まあな。あなた達に行ってみろと言われたら、何か行ってみたくなった」

「いってらっしゃ~い!」

俺は席を立ち、体育館に向かう。他の教室からも何人か出ていく。

俺と同じで生徒会の説明会に行くのだろうか。

「あれ?お前は……真空?」

「前山先輩!」

昇降口の所で前山先輩と偶然にも遭遇する。会うのは襲撃事件ぶりだ。

「久しぶりだな。結局生きてるみたいで安心だ」

「あの時はお騒がせしました」

「別に。そんな心配してなかったし」

「一発殴りますよ」

「最近の後輩は物騒だな」

確かに先輩とは会って、数分だがそれでも先輩だろ。人間だろ。

人の命かかってんだから心配ぐらいしてくださいよ。

「先輩はどこに?」

「生徒会の説明会」

「ん?先輩って三年生ですよね?」

「おう」

「???」

三年生は生徒会には入れないはずだ。なのに何故生徒会の説明を聞きにいくんだ?

「どうして話を聞きに行くんですか?」

「暇なのと生徒会長は俺のダチだからな」

「それだけ?」

「それぐらいの理由しかねえんだよ」

「まあ、行きましょ」

俺達は体育館に向かう。その間も俺達は会話を楽しんでいた。

「お前は生徒会に入る気なのか?」

「いえ、興味本位で聞きに行くだけです。仕事が楽ならやってもいいかな……と」

「じゃあ部活は決まって無いって訳か。どうだ?アビマ部でも入らないか?」

「いやですよ。そんなゴリゴリな体育会系」

「そこまで体育会系じゃないぞ。俺も所属してるし、顔は数回しか出してないが」

「幽霊部員じゃねえか」

それは所属していると言えるのだろうか。こりゃ見ちゃいけない先輩の背中だな。

そんなこんなしていると、体育館に着く。

中に入ると、すでに数十人が右往左往していた。

だが説明を聞くにしては人が多すぎる。

「あのー人多くないですか?」

「俺みたいなやつがいるんだろ。あいつも俺と同じでファンクラブなるものが存在するし」

「へー………………ファンクラブ!?」

「ファンクラブ」

ファンクラブがあるのは漫画とかフィクションの世界じゃないのか。

現実でもこんなことがあるのか。羨ましいやら、羨ましくないやら。

するとコツコツと生徒会長と思われる人物の足音が体育館に響く。

壇上に上がり、マイクをセットする。オホンという咳払いが聞こえる。

『皆様どうもこんにちは。蒼橋良高等学校の生徒会長、池那隼人です。この度はこの説明会に来ていただきありがとうございます。早速ですが、初めて行きたいと思います。生徒会の仕事は学校の行事の運営、部活や備品の予算の管理、ボランティア活動等になっております。私達が求める人事は熱意ある者。この仕事にやる気があり、なおかつ生徒のためにこの学校のために尽くせる人。ここでの経験はきっと将来に役に立つ。ぜひ生徒会に入ってください。それでは応募を開始します。会計1名、書紀1名、副委員長1名。それぞれ面接での審査にします。応募用紙は職員室の方で先生方に言えばもらえます(奈加河先生意外)。以上で生徒会の説明を終わりにします。

一年生はこれからの学校生活がんばってください』

生徒会長は壇上を降りる。うん……生徒会に入るのは無しだな。

俺じゃ荷が重すぎるし、忙しそうだ。俺はこの時異変に気づいた。

明らかに静かすぎるのだ。音の一つしない。誰も喋りやしない。拍手すら無い。

すると……。

「「「「「「「おぉぉぉーーーー!!!」」」」」」」

突如として歓声がおこる。

「おお、始まったな」

「……何なんですか?これ」

「やっぱりお前には効かねえか」

前山先輩はこの事態を理解しているようだった。

「すごいぜ……。流石生徒会長だ……。素晴らしいスピーチだったぜ……」

「ああ生徒会長……。もう……好き!」

「生徒会長万歳!!万歳!」

たかが生徒会のスピーチでこうなるか?

俺と前山先輩以外の生徒は異常なテンションで生徒会長を褒め称えている。

中には泣いてる者すらいる。

「先輩、なんすかこれ」

「これはあいつの能力だ」

「生徒会長の?」

「あいつの能力は「感情を引き出す」能力。俺と同じで精神干渉の能力だ。声を通して相手の現状で一番近い感情が引き出させる。例えばお化け屋敷で怖いと思っていて、あいつの能力を受けたら、怖いが昇華してすごく怖いになる。あいつはこの能力を使って、生徒会長になった」

「それってズルじゃないですか?」

「言っただろ?現状で一番近い感情を引き出すって。つまり投票したいという感情が少しでもないと能力が大きく作用しないんだ」

「じゃああの人の実力でもあるんですね」

「能力なしでもあいつは生徒会長になってたよ。そういう奴だ」

「先輩はどうして能力が効いてないんですか?」

「認識を変えてるからな。逆にお前はなんで効かないんだ?」

「……ははっ」

「笑って誤魔化してるんじゃねえぞ」

俺は騒ぎの中、異常の空間から抜け出した。先輩は生徒会長に用があるらしい。

結局生徒会には入らないし、てかスケジュール的に入れないし。

振り出しに戻っただけだな。

いやそもそも生徒会には少ししか入る気がなかったから言うほどでもないか。

とりあえず放課後で文化部の見学をしようか。


















そして時が加速して、放課後。

廊下には様々な文化部がブースを出していた。

「ねえそこの君」

「………………」

「無視はやめようか!?」

無視せざる負えなかった。

声をかけてきた眼鏡の先輩のブースは明らかにヤバいからである。

机の上には骸骨のようなものが置いてあり、タロットカード?だろうか。

他のブースとの雰囲気の差がありすぎる。ここはスルーが安牌…………。

俺はそのまま先に足を進める。するとグイッと制服が引っ張られる。

「お願いだよ〜!このままじゃ廃部しちゃうよ!!」

「なんで俺なんですか!?」

「……陰の気配を感じたから」

「………………」

「ちょ、ちょっと行かないで!」

「はぁ……ちなみになんて部活なんですか?」

「オカルト愛好会」

「それちゃんとした部活ですか?」

「うん。多分。maybe」

「なんで自信なくしてくんですか!?」

オカルト愛好会。野見中が持ってきたチラシにはなかったぞ?

一応一通り見たつもりなんだがな。

「どんな活動してるんですか?」

「この街の都市伝説や心霊スポット巡り、呪いとかもやってるよ」

「呪い?」

「うん呪い」

「能力ですか?」

「いや呪い」

目がマジなんですけど!普通に怖いんですけど!

「君は幽霊を信じているかい?」

「いや別に」

「つまらないな〜」

「………………」

「ごめんって!行かないで!」

「……幽霊がいるとでも?」

「もちろんいないかもしれない!でも幽霊を見つけるまでの過程が面白いんだよね〜」

幽霊事態は全くと言っていい程信じていない。

能力によって、科学が発展した現代で幽霊を信じてるのはそこまでいないだろう。

信じてたとしてもあくまでフィクションとしてだ。

「なるほど。分かりません」

「分からないんかい!……で?どうだい。オカルト愛好会に興味湧いてきた?」

「…………」

「どうやら湧いてきたっぽいね」

幽霊は信じてない。でも興味が湧いてないかと言われれば、興味は湧きました。

それにこのまま別の部活に行くのも気が引ける。呪われそうだし。

俺は椅子に座り、机に置いてあるペンを取る。そして入部届に名前を書く。

「これでいいですか?」

「え!?入ってくれるの?」

「呪われそうだったので」

「うん。入らなかったら呪ってたかも」

「なら入ったほうが良さそうですね」

俺はこれで「オカルト愛好会」の一員だった。

まだ胡散臭さは残ってるが、まあなんとかやっていけると信じたい。

「これからよろしくお願いします」

「よろしく!一年!さあ、早速人を呪ってみよう!」

「…………」

早速心配になってきた。

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