第十八話 遊び
GWだからなのだろう。人が……多い。あまりの混雑に吐き気もしてきた。
俺は今、新宮町駅にいる。約束の時間より少し早く着くだろう。
今日は待ちに待ちに待ちに待った友達で遊びにイベント!生まれてはじめての……。ちょっと張り切って、いや張り切りすぎたかも知れない。
バイト終わりにソフィー先輩に連れられ、服屋に連れて行かれた。
そう、俺がいま見に付けている服は今日のために買った新品の服なのである。
(ちなみに代金はソフィー先輩の大人のカード)
俺は人混みを抜け、新宮町駅の南口に出る。
南口は大きな広間の様になっており、多くの学生はここで待ち合わせをする。
俺達も例外じゃない。俺はポケットからスマホを出す。
メールを開き、自分が待ち合わせ場所についたことを報告しよう。
「付きました」
「僕はもうそろそろで着くよ」
「私はもう付いてるんだけど……どこ?」
「こっちから探して……」
「どうした?
「見つけました」
「「早くない!」」
自分でも正直びっくりしてる。俺は周りをキョロキョロと見回した。
すると明らかに他とは違う何かを感じ取った。
「ちょっと!どこ見てんのよ!」
「い、いやあの……」
野見中の前を通り過ぎたカップルの男が隣の彼女さんに怒られている。
まあ見たくなる気持ちは分かる。大いに分かる。
そのまま別れてしまえ、リア充が。
俺はカップルを見届けた後、野見中の方に向かう。
「よ!野見中」
「久しぶり!
野見中は無邪気に笑う。うん可愛い。久々の野見中さんは目の保養になるわい。
……あれ?俺今滅茶苦茶キモいこと言った?
「まさか……本当に遊びに誘ってくれるなんてな」
「別に普通じゃない?友達なんだし」
「そう……ですね」
俺はその普通が分からないんですよ。俺は髪を掻きむしる。
「ねえ、赫賀谷君。それ」
「?」
「服にシール付いてるよ」
「え、まじ?」
「うん、ほら」
野見中は俺の服についていたサイズシールを取ってくれる。
付いていたなんて……家出るときに結構チェックしたぞ。
俺の目は節穴だったか。
「赫賀谷君、結構抜けてるんだね」
「あんま服とかついてよく分かんなくてな。シールのことすっかり忘れてた」
「分からないにしては……センスがあるような……」
「ああバイト先の先輩が見繕ってくれたんだ」
野見中は少し考えてから、ニヤニヤしながら口を開く。
「……うん!すごく似合ってる!」
「あー、どうも。野見中も……似合ってるぞ」
「ふふふ、ありがと!」
俺は照れながら言う。これはお世辞でもなんでもない。
野見中の服装は白いワンピース。シンプルだがむしろそれがいい。
そんな事を言っていると……。
「お待たせ、真空・野見中さん」
「久しぶり〜」
「久しぶりだな、
これで久しぶりにいつもの三人組が揃った。全員が私服なのが何というか新鮮だ。
俺達はお互いを見つめ合った後、広斗は口を開く。
「じゃあ、行こっか」
「そうだな」
「賛成〜」
俺達は1Fのバス停に向かう。駅からモールまではバスで約五分程度。
モールは蒼橋良や駅からすぐ行けるので学生には重宝されている。
しばらくしてバスが発進する。
『この度は宮町交通をご利用くださりありがとうございます。このバスは新宮町モール経由、国立病院機構宮町医療センター行きです』
バスの車内放送を聞き流し、俺は野見中達と会話を弾ませる。
もちろん他の乗客に迷惑を掛けない程度に。
「モール着いたら、まずは飯食おうぜ」
「確かにお腹減ったもんねー」
「僕も朝ご飯抜いてきたから、お腹減った」
「その後はどうする?」
「ん〜、私は……ゲームセンターに行きたい!」
「「意外だ……」」
「えっ!意外!?」
野見中の口からゲームセンターに行きたいなんて事が出るなんて。
正直服とかが見たいとか言うのかと思った。
最近の女子はそういうのに興味ないのか?うん……考えるだけ無駄か。
「赫賀谷君はやりたいこととかないの?」
「俺?俺は……」
……何も思い浮かばない。そもそもモールに何があるのか、よく分かっていないのだ。ちょっとした買い物とかに来る程度でそれ以外で来ることはない。
予定がないから……。俺は友達とモールに行ければいいとしか考えてなかった。
「俺は……どこでも良いぞ。本当にどこでも良いぞ」
「黄異宮君は?」
「僕は新しい本が買いたいかな」
「「納得」」
「そんな分かりやすい!?」
正直広斗が本しか買ってないイメージしかない。THE・勤勉って感じだし。
野見中と広斗が話始めたので、俺はふと窓の外を見る。
窓の外からは高層ビルや外国人、時々ロボットのようなもの見れる。
おそらく配達ロボの試運転だろ。
ここ新宮町は前回話した気もするが、東京などに次ぐ主要都市の一つ。
宮町崩壊事件を機に大規模な復旧・復興が行われた。
現在この「街」には最新の技術が集まり、外国人の観光場所としても成り立っている(「町」に出れば自然もある)
……そんなに栄えているなら俺のファミレスでもタッチパネルでの注文にしろ。
こっちの仕事の負担が減る。いや……俺の仕事なくなる?
『次は〜新宮町モール。新宮町モール。お降りの際はお足元にご注意ください』
「もう着くのか」
「お腹減ったー」
「はは!じゃあ行こっか!」
俺達はバスを降り、モールの入り口付近に来る。
デカい・人多い・ヤバい。流石GW。駅同様混雑している。
俺達は人の合間合間を通り、エスカレーターに着く。
「フードコートってどこだ?」
「3Fの……あそこは?」
広斗が指を指した所には多くの人がいる。
手にはプラスチックのトレイを持ち、その上には料理が乗っかている。
あまり信じたくはないがあれがフードコートらしい。
現在時刻十二時。お昼ピーク真っ只中。
「「「どうしようか」」」
俺達三人は頭を抱える。ノープランだったことがここで仇になった。
俺達の腹は限界寸前。今すぐ炭水化物を取らなければいけない。
どこかに席が開いてるだろうか?いや……広すぎて見つけにくい。
というかどこかで見落としそうだ。
「あくまで待つ?」
「「無理」」
「ですよね〜」
なら俺達がすべきはハイエナ作戦!!
説明しよう!ハイエナ作戦とは誰かが食べ終わり、立ち上がった瞬間そこの席を取るというごく一般的な作戦だ。
……まあ空かないから意味ないんだけど。
今この瞬間にもどこか空いてるんじゃないか?くそ!人が多すぎて見えない!
(そんな時の能力なんじゃないのか?)
(うわ!びっくりした!急に喋りだすな!)
(お前の腹が減ると、我も同じ様に感じてしまうのだ!早く見つけろ!最終的には立って食え!)
(んな無茶苦茶な!……まあ分かりましたよ)
とりあえずやってみることにする。俺は能力を発動する。
別に日常で能力を使う際は、危害が加えないのならOKになる。
俺は空気で目に入る
慣れない操作だ。試しに後ろにいる広斗の顔を見てみよう。
「おお……!」
すると後ろを振り向いてもないのに広斗の顔が見える。
これならば視界の問題は解決だ。俺は早速フードコート全体を見る。
人が右往左往しているせいか、頭に余計な情報が入り、頭が痛くなる。
あと気持ち悪い。
「……?あれは……」
右側のテーブルで丁度食べ終わったグループが居る。
雑談などをしなければ、すぐに片付けるだろう。
「おーい、行くぞ。二人共」
「空いてる席あったのか?」
「これから空く」
「「?」」
二人の頭には疑問しか浮かばないだろう。
実際に行ってみれば空いてるのが分かるはずだ。
俺は見た景色を手掛かりにその場所につく。するとその席に着いた直後に席が空く。俺達は考えるより先に体が動いていた。
「すごい……本当に空いた」
「真空。何したんだ?脅した?」
「失礼な!……ちょっと能力を使っただけだ」
「それで脅したの?」
「違う!脅してない!……飯取りに行こうぜ」
「じゃあ僕待ってるから二人で行ってきな」
「ほーい」
「うん!すぐ戻ってくる!」
俺と野見中は広斗を席に残し、飯を取りに行く。さて何を食べようか。
(パラサはなにか食べたいものとかあるか?)
(……蕎麦)
(蕎麦?何故?)
(滅多に食べないからだ)
(まあ毎日食うもんでも無いしな)
俺はパラサのご希望に沿うために、蕎麦・うどん屋へ向かう。
「かけそばを大盛りで」
「はいよ」
俺は大盛りを頼む。結構俺は腹を空かしている。
大盛りぐらいならペロッといけちゃうだろ。俺はブザーを持ち、席に戻る。
席ではすでに二人が料理を持ってきていた。
「早くね?」
「僕の奴、ファストフードのハンバーガーだし」
「私はサンドウィッチだったから」
俺だけ和食?場違いすぎるでしょ!そうだよね!
普通の高校生とかってそういう物食べるよね!
「赫賀谷君は?何頼んだの?」
「……蕎麦」
「和だね〜」
「和だー」
「コメント浅っ!」
その時、手元にあったブザーがブーブーと鳴る。俺は席を立ち、店に向かう。
お盆に蕎麦が載せてあり、ブザーを店員に渡し、俺はまた席に戻る。
「かけそばだけ?」
「大盛りだぞ」
「お腹減らないの?」
「そっちこそサンドウィッチだけだろ?」
「ほら……私女の子だし!」
「……そうですね」
反則ですよね!?女の子だもん、は!?これにどう反論すればいいの?まあ良い。
時間ももったいないし、いただくとしよう。
「いただきます」
俺は蕎麦を一口食べる。こういうのでいいんだよ、こういうので。やはり美味い。
不味い訳がない。あっさりとしたつゆ、そして麺。普通だがそれが良いのだよ。
「……そういえばもう五月だね」
「入学から一ヶ月。長く感じたなー」
「まあ、そうだな」
野見中が話題を出す。あっという間の五月。俺以外にも長いと感じてた人がいるようで安心した。
「五月は色々あるよね。部活選びに……中間テストもあるっけ?」
「僕は中間テスト、自信あります」
「「知ってる」」
広斗が自信ない訳がないだろう。学年一番の秀才だぞ。
ちなみに俺は全く自身がない。特別悪いってわけでは無いのだが、特別良くもない。どれだけ頑張っても、何かの能力が働いているのか知らないが、絶対に中の上の成績になるのだ。
意味がわからない。
「じゃあ、部活はみんな決めた?私はまだ決めてないんだけど」
「俺は……文化部辺りに入ろうかな」
「運動部じゃないの?ほら格闘技できるじゃん」
襲撃事件の時のあれか。あれは……格闘技なのか?
どことなく人を殴ってるだけな気がするんだが。
「まあバイトあるし、家事とかが大変だしな」
「そっか。黄異宮君は?」
「僕はもちろん!能力科学研究部!あの三谷島先生の元で学べるんだよ!絶好の機会じゃないか!」
「「…………」」
あまりの熱意に言葉を失う。広斗は三谷島先生を超慕っている。
火を見るより明らかだ。そんな広斗にとっては天国のような環境だろうな。
しばらく話をした後、食べ終わったので片付けをして、目的であるゲームセンターに行くことにする。俺はゲームセンターへは全く行ったことがない。
そもそもゲーム自体をそこまでしない。
ゲーム機自体を持ってないし、興味が沸かない。
だからこれまでやってこなかった。だがそれが仇になった。
ゲームセンターに到着。俺達はまず何のゲームをするかを話し合った。
そして最初にやるのが「ドラムの達人」。
いわゆるリズムゲーという奴で画面に出てくる音符に合わせて、タイミングよく叩く。
「これで叩けば良いのか?」
「真空やったこと無いの?」
「生憎初めての試みだ」
「珍しいね」
「えっと……百円をここに入れて……曲を選んで……難易度設定?」
「僕は”ゲキムズ”でやるけど、真空は?」
「”フツウ”で」
これでゲームが始まった。曲が流れると音符のようなものが流れてきた。
俺はそれに合わせ、手元のドラムを叩く。
MISS!
叩く叩く叩く!なのにすべてMISS!
しかもその後、テンポが早くなり、続々と音符が登場する。
俺はあまりの速さに手が止まる。俺はこんなにもリズム感がなかったのか?
しかもこれで”フツウ”である。俺は”ゲキムズ”を選んだ隣の広斗さんを見る。
それを見た瞬間、俺は口を空け、その場に立ち尽くした。
俺の譜面とは比べほどにもならない速さで流れてくる音符を一つも外すことなく、的確にPERFECT!を叩き出している。その様子はまさに化け物。
本当に人間の技なのか分からなくなる。
結果は俺はオールミス。広斗はオールパーフェクト。
ちなみに後にやった野見中も”ゲキムズ”でオールパーフェクトしていた。
俺はその後も挑戦したが結局オールミスだった。
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