五月
第十七話 バイト
俺が
この一ヶ月を振り返ってみよう。
入学式では盛大に自己紹介を失敗したな。
パラサとかいう寄生生物とかと会ったな。
オリジナルとベーシックの能力どっちも使えるようになったな。
………………うん。色々ありすぎじゃね?一ヶ月だよ。
高校に進学して、命の危機にさらされるんだけど!
後よく考えて寄生生物って何だよ!意味わっかんないよ!!
(いい加減飲み込め)
(飲み込めれたらどんだけ楽だろうか)
皮肉気味に言ってやる。当の本人は何も思ってないようだ。
さて、GWということは普通の高校生とかだったら、友達と遊びに行ったり、優雅な休日を各々過ごすだろうが、対して俺はどうだろうか。
スマホを見るが、メールが一件も来ない。
何もない家で一人ぼっちである。
(頭の中の
といっても今日は予定がある。もうそろそろ良い時間だ。
俺は私服に着替え、「街」に向かう。
最寄りのバス停からバスに乗り、揺られること数分。
駅から少し離れた所にある一軒のファミリーレストラン「SUCOCO」。
全国に広がっている人気飲食チェーン店だ。店内に入り、更衣室に向かう。
そう、この俺赫賀谷真空はバイトに来ていた!
俺は一人暮らしというのもあり、中学の頃からバイトをしている。
(この物語はフィクションです。基本中学生はバイトできません)
俺は慣れた手つきで制服に着替える。
その後バックヤードに入り、タイムカードを切る。
「よ!お久!真空!」
「お久しぶりです。
この人はソフィア先輩。俺含めバイトの皆からはソフィーさんと呼ばれている。
濃い金髪に青い目というTHE・外国人という見た目をしている。
事実、外国人なのだ。
だが日本人並みに日本語がうまい。
「学校の方はどう?最近全然バイトに来なかったけど」
「中学よりかは楽しくやってますよ」
「そりゃ良かったねー」
「あんま興味なかったんですね」
ここ最近は忙しくバイトに来れていなかった。
高校に入学したばっかなのもそうだが、襲撃事件にパラサ君。
忙しくない理由を見つけるほうが大変だ。
「よっと!」
「あ、ちょ!」
ソフィー先輩は俺のポケットに入っていたスマホを盗む。
手慣れた手付きでスマホを操作される。
「なんで俺のパスワード分かるんですか?」
「これくらいならイージー!イージー!」
バイトの時はよくスマホを取られる。
パスワードを解かれるたびにパスワードを変えているのに、それでも解かれてしまう。
まあ悪用されてないから良しとするが、どうしてそんな事ができるのか、謎のままである。
「ん?これは?」
「どうかしました?」
「………………ぁ……」
「どうしましたかー。おーい」
ソフィー先輩はスマホを見ながら、固まってしまう。
なんか見られてマズイものなんてあったけ?
俺は基本スマホは触らないので分からないが、気づかぬ内にそういうのが入ってたり?
ソフィー先輩は口を開く。
「あの真空の……スマホに……女子の……連絡先が……その他にも……ゾロゾロと……」
「ああはい。友達、出来たんですよ」
「嘘だ……何かの幻じゃ……!」
「そこまで信じられないですか!?」
確かに中学の俺を見てる先輩からしたら驚くべき光景だが、そこまで驚かれると逆に傷付く。
俺はソフィー先輩からスマホを没収する。
「私は嬉しいよ。あの真空に……友だちができたんだから……」
「大げさな」
「あの……接客時には目をキョロキョロさせて、ボソボソと何言ってるか分からなかった真空に友達が……」
「褒めてます?
そんな時期もありました。でも今それを掘り返しますか!?結構ダメージでかいよ!
「でも本当に嬉しいんだよ」
「母親みたいですね」
「どちらかと言うと姉貴じゃないか?」
「……そうですね」
俺はその事に否定はしなかった。
俺はファミレスとかでよく使われる、あの携帯みたいなやつ(PDT)を持つ。
「先輩、もうそろそろ行きましょう」
「ダルいなー」
「はいはい、行きますよー」
俺は先輩の背中を押してバックヤードを出る。
店内はピーク時とまではいかないが、ある程度席は埋まってきていた。
俺はすぐさま仕事に取り掛かる。俺達の仕事はホール。
注文を聞いたり、料理を運んだり、テーブルを片付けたり、会計をしたり。
やることがとにかく多い。手が空いたら料理を運ぶ・テーブルを片付ける。
会計に他のスタッフがいなかったら、会計をする。
ボタンが押されたら、注文を聞く。
俺はどちらかと言うとキッチンに居るようなやつだが、あっちは手が足りている。
よって俺は接客しか出来ないということだ。
ピンポーン
早速ボタンが押される。
俺はどこでボタンを押されたかを確認して、そこに向かう。
テーブルに着き、俺は無理矢理にでも笑顔を作る。接客の基本!笑顔!
「SUCOCOへようこそ!ご注文はお決まりですか?」
相手は女性の三人組。来ている服が若々しいので学生だろう。
いいな……友達とファミレス。俺はまだ誘われてないよ。
「えっと、ポテトを一つと……ドリンクバーを……」
「ポテトフライがお一つ。ドリンクバーを三つでよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「ドリンクバーは突き当りを右です。ごゆっくりどうぞ」
俺は機械に注文内容を打ち込み、その場を後にする。
俺の仕事はこれで終わりではない。店員を呼ぶ音は止むことを知らない。
俺は次のテーブルに向かう。
「いらっしゃいませ!ご注文の方は……」
「Do you have a menu written in English?」
おー、イングリッシュ!まさかの外国人客だ!バイト復帰初日にかよ!
やるしかない……覚悟だっ!覚悟が必要なんだっ!
俺の英語力を見せつける時が来た!
「
無理に決まってるだろ!!人と話すのが苦手な俺に、更に異国語で話せと?
ははは!なんてジョークだ!俺は少し離れたところにいる先輩に駆け寄る。
「先輩。出番です」
「ラジャー」
ソフィー先輩は結構な数の言語を話すことが出来るらしい。
英語・日本語・ヒンディー語・中国語・ポルトガル語。
バイリンガルどころじゃない。あんな適当な人だが、多様の外国語を喋れる事からこのファミレスでは重宝されている。
ちょっとだけ様子を見てみよう。
「You say you don't understand Japanese? Leave it to me!」
「Oh,thank you!Ah……what dose this mean?」
「This is Oroshi humburg steak」
「What is "Oroshi"?」
「It's a hamburger steak with grated daikon on top!」
「Ah……I see!Then I will order it!」
「Thank you!Any other orders?」
「Hmmm... I guess I'll order you then」
「I'm as expensive as the state budget, okay?」
「Ha ha! You certainly are that beautiful!」
あっ。皆さんもう英語読むの疲れましたよね。意味わかりました?生憎俺は何言っているのか、訳が分かりませんでした。でも大丈夫です。ここからは日本語しかないです。ソフィー先輩はウキウキでこちらに向かってくる。
「きゃー!美しいって言われちゃったよ!」
「注文聞いただけで何でそうなるんですか?」
「やっぱ、溢れ出ちゃうんだよね。美しさが」
「人生楽ですねー」
ソフィー先輩は外国人というのもあるのだろうが、かなりの美形だ。
野見中と同じかもしくはそれ以上か。大人の色気的なのもある(一応二十歳)。
「そういうお前もさっきの女子たちから「よく見たらイケメン」って言われてたぞ」
「よく見ないと分からないイケメンなんですね」
俺は店内のインテリアの鏡を覗く。
……日頃から自分の顔を見てるが、思い浮かぶ感想が何もない。
いや日頃から見てるせいなのかも知れない。
生まれてから一度も告白されたこともなければ、
高校でやっとコミュニケーションが出来るようになった。
鏡をずっと眺めるが、ここで一つ気づく。オーラがないなと。
有名な俳優やアイドルにはそれ特有のオーラ的なものがあるだろう。
野見中とかにもそれと似たような物がある。俺にはそれが一切ないような気がする。第三者からイケメンと呼ばれているのだ。そのオーラがあればモテるんじゃないか?オーラの作り方なんて分からいけどな。俺は一つの大きな音で正気に戻る。
その音はテーブルを叩く音であった。俺はその音の元を確認する。
なんとそこには頭を下げる俺と同じホールの店員と、ガラの悪そうな男二人組。
その二人組を見ていると、どっかの新井島を思い出す。
「おい!これどういうことだよ!!」
「こ、この度は本当に申し訳ございません!」
かなり男たちは演者のようだ。明らかに怒りの裏に笑いがある。
悪質クレーマーとはあいつらの事を言うのであろう。
多分だがクレームの内容もどっばちりだ。俺はクレームのテーブルに向かう。
できれば行きたくないがこれも仕事だ。バイト復帰直後からこれかよ……。
「お客様。何かお気に示さない事でもありましたでしょうか?」
俺はクレーム対応に当たっていた店員に「戻っておいて」と耳打ちし、クレーム野郎どもの相手を引き受ける。
「あん?そんなの見りゃ分かんだろ!メニューの写真と全然違うんだよ」
こいつらが注文したのはポテトフライ。
写真を見るが、特に変わっているとは思えなかった。
これでただの言い掛かりであることが確定した。
俺はこのファミレスで数年働いてきた。
こういうクレーム処理だって何度もしてきた。まずSTEP1!!
「この度は我々の不手際でお客様にこのようなことをしてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
これは基本の基本!謝罪だ!これがなきゃスタート位置に立ってないも同じだ。
そしてステップ2!
「よろしければこの写真と同様のポテトフライをご用意したいと思います」
代替案を出す。有識なクレーマーならこれで落ちる。
「あ!?そんなの求めちゃいねえよ!!」
だが今回のは有識と言うかアタオカなクレーマーなので効果なし。
……できれば最後のステップは踏みたくなかった。
でもやらなければいけない!この店のために!精一杯…
「我々「SUCOCO」の店員一同、お客様の幸せを第一に考えています。私達に最高のおもてなしをさせてくれませんか?」
媚び売ってやるさ!!相手を立てに立てまくる!
これがバイトを長年をやり続けて編み出した必殺技!!
これでどんな奴であろうと引き下がらざるおえない。
しかもここまで大げさにやったおかげで客の目がこちらを向いている。
クレーム慣れしてるからと言っても、この状況はキツイよな〜。
ふふふ、勝ったな!第四部完!
「ふ、ふざけんじゃね!そうだ!金出せ金!」
ふぇ?嘘でしょ?ここまでやったのにまだやるの?あ(察し)。ヤケクソだ。
こいつヤケ……ヤケクソ。予想外の出来事に思考が追いつかない。
えっとこの後どうすればいいの?俺のバイト人生初の出来事よ。無理無理。
誰か店長呼んで!クレーム処理お願いします!
(もう殴れば良いんじゃないか?)
(その考え、物騒すぎだろ!クビになるわ!ていうか損害賠償に警察案件だよ!!)
(じゃあ、殺気だな)
(How?)
(体借りるぞ)
(えっ?急に?)
突如俺の胸ぐらが男に掴まれる。
「おい!なんか言ったらどうだ!?」
「あ……」
その後俺の意識は飛んだ。いや気を失っているわけではない。目も見える。
でも体の自由がない。
(借りたぞ)
(こんな簡単に借りれるの!?)
(お前の許可があればな)
(えっと、とりあえずやっちゃって)
(了解)
「お客様……」
一気に空気が変わる。ピリピリと凍りつくような空気だ。
能力も何も使用していない。パラサは胸ぐらを掴んでいた男の腕を持つ。
男は相手の雰囲気が変わり、困惑している。
パラサは掴んだ腕を絶対に離さない様に力を入れる。
「ぐぎっ……!」
それには男も声をあげる。パラサはなおも続く。
「お客様……この度は……大変……申し訳……ございませんでした……」
パラサは相手を殺す勢いで殺気を放つ。二人は果たして何を見たのか?
二人の顔は引きつるどころか恐怖というのを具現化したかのような顔をしていた。
「ヒッ……!」
座っていた男は情けない言葉を上げ、そのまま店から出ていった。
「お客様
「あの……これ……」
腕を掴まれている男はポケットから財布を取り出す。パラサはそれを見ると、すこし力を緩める。そのスキに男は「すいませんでした!!」と言い逃げていった。
「腰抜け共が……二度とくるな」
(ナ、ナイスー)
俺はその光景に尊敬とともに驚きを隠しきれない。ああ……こいつやべえ。
なんか達人の域に行ってるよ。すると俺の体の自由が戻る。
(久々にスッキリした)
(そりゃよかったですね……。やりすぎな気もするけど)
(あんなヤツ、あれぐらいが丁度いい)
まあ、俺も立場なかったら殴っていたかも知れない。
俺は地面に落ちた財布から男たちが注文した文だけ金を取る。
この財布はしばらく預っておくようにしよう。
またのご来店するかどうかは知らんけど。
「えっと……お食事をお続きください」
注目がこちらに向いていたので、とりあえず喚起しとく。
「先輩、何してんすか?」
「ん?いや何も?」
先輩は手帳に何か書いてる様子だったが、すぐさまそれを仕舞う。
「それにしても災難だね、復帰初日から」
「ホントですよ」
「でもすごかったじゃん。あれどうやったの?」
「頑張って……出しました」
寄生生物が出してくれましたー、なんて口が裂けても言えない。
俺はその後も仕事を続けた。
ピークを過ぎたので客足も減り、最後らへんは滅茶苦茶楽だった。
仕事も終わり、更衣室で着替えていると、スマホに一件のメールが来る。
また学校からかと思ったが、その予想は早々にぶち壊れた。
野見中からだ。
「明日暇?」
どうやって答えようか。まあ一応「メチャクチャっ暇」と送っておこう。
やれやれ別に暇じゃないんだけどな〜。数秒後返信がやってくる。
「明日、黄異宮君と一緒にモールに遊びに行こう!」
俺はガッツポーズをカマす。初めてだ……友達からの「一緒に遊ぼう」メール……。生まれてはじめて……あれ?なんだろう目から汁が……。
「真空?どうしたん?」
「これ……」
「……おめでとう」
俺は一文字ずつ丁寧に「わっかりました」と送った。
次回、ウキウキみんなでモールでショッピング!乞うご期待。
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