第十六話 日常

ピピピッ……

スマホのアラームの音で目を覚ます。

枕元には朝日が射しているのを確認して、朝なのだと認識する。

ベットから起き上がり、スマホのアラームを止める。

その時、スマホに一件のメールが届いてることが気づく。

友達からの「おはよう!今日も頑張ろう!」的なものを期待したが、実際は学校からの連絡だった。メールの題名は「昨日の襲撃事件における登校について」。

これは……まさか!!休みのやつなのでは!?流石にあんな事があった後じゃあ登校はさせられな……。

「通常登校です」

俺は目をこする。寝起きだから少し焦点が合わなかったのだろう。

俺はもう一度スマホの画面を見る。

「通常登校です」

………………やりおるな……蒼橋良あおはしら……!

あんな事があって尚登校させるか……。

この文章、奈加河なかがわ先生が書いたんじゃないか?

これによって大半の学生が泣き崩れてるぞ。俺は落胆しながらも続きの文章を読む。

「校舎修繕のため、午前中のみの授業です」

この文章読みながら、俺は思い切りガッツポーズを取る。

休みじゃないのがあれだが、これによって微かな希望が見えた。

これでも昨日俺は死闘を繰り広げ、警察の質問に答え、体を検査して、寄生生物パラサによってやばい真実を聞いてと大変だったのだ。

疲労が体に蓄積している。そんな状態で一日学校は普通にキツイ。

俺はベットから降り、朝の支度を始める。

(朝から騒がしいな……)

「おはよ…パラサ」

パラサ。俺の頭の中に住み着く寄生生物(俺が名付けました)。

こいつに朝の概念とかあるのだろうか。

朝なのでそこらへんのツッコミはしないようにする。

そもそも俺はできるだけボケ方面に行きたいんだけどな。

ツッコミの方に行っちまったよ。

(昨日あんな事あったのに学校なのか?)

「そういう常識はあるんだな。校舎修繕だけだったら、能力で何とでもなる。そんなに時間は要らない訳だ」

(もう少し我らのことも考えてほしいな)

「主に俺な」

そんな会話を挟みながら、昨日出来なかった家事などをパッパとやる。

朝ご飯を作り、制服に着替え、学校に出かける。

(……結構今日は疲れるかもな)

(何故だ?)

(俺は昨日から急にベーシックからオリジナルになった。ていうかどっちでもあるっていう能力者になったんですよ)

(それが?)

(三谷島先生の話聞いてたか?)

(あのチビの話なんか興味ない)

(それ本人の前で言わないでよ!絶対ね!!)

(で?何なんだ?)

(俺それがバレたらホルマリン漬けなんだよ)

(そりゃ可哀想に)

(パラサもだからな!!何他人事のように言ってんだ?)

(ならばバレなければいい)

(それはそうだけど……)

隠し通れるかという不安、バレたらホルマリン漬けという恐怖。

本来高校生が抱えて良いものじゃない。俺はベーシックとして数年生きてきた。

何かの拍子でうっかりベーシックの能力を使ってしまうかもしれない。

分かる人にはきっと分かる。

(きっとなんとかなる。バレたらそいつを殺せばいい)

(物騒な発想ですね!!そんなの一端の高校生が出来るとでも!?)

(さあ?意外と出来るかも知れないぞ?)

そんなくだらない冗談を聞いていると、蒼橋良あおはしらの校門が見えてくる。他の生徒も続々と学校の中に入っている。

校門から昇降口までの道は昨日はそれどころではなかったため気が付かなかったが瓦礫がれきが散らばっており、所々に傷があるなどの戦闘の跡が目に見える。

更には火薬のような匂いまでする。

ということはこの襲撃事件に銃まで持ち込まれたことになる。

先生たちはそんな輩を捕まえたのか。俺は教室に向かう。

教室の中からは話し声が聞こえる。もう殆どの生徒がいるようだった。

俺は扉を開け、いつものように席に着く。

「おはよう!赫賀谷あかがや君!昨日大丈夫だった?」

「うわっ、びっくりした!野見中のみなかか?」

「うん!おはよう!」

「おはよう。朝から元気だな」

「えへへ」

あら可愛い。

座った直後に疾風のような速さで来た野見中の元気に戸惑いながらも、元気で良かったと思う。

昨日のことはあまり引きずって無いように見える。

「おはよう。真空しんくう

「おお広斗ひろと!……頭大丈夫なのか?」

「なにそれ馬鹿にしてる?」

「違う違う。そうじゃない。怪我だよ怪我」

「ああそっちね。一晩寝たら痛みもすっかり引いたよ」

「そりゃ良かった」

広斗ひろとは昨日の襲撃事件で頭に怪我を負ったが、白尚先生の能力でなんとかなったらしい。こうやって話せてるようで普通に安心する。

真空しんくうの方が大丈夫なの?怪我とかさ」

「いやーそれが別に怪我とかは大丈夫なんよ。精神的には疲れたけど」

「ご愁傷さま」

「確かに昨日大変だったもんねー。警察からの事情聴取でしょ?赫賀谷あかがやくんはその後も色々あったんでしょ?」

「なんかあったのか?」

「まあ…………ちょっと」

はい来ちゃったよ、こういうやつ。さてどうやって答えたものか。

あまり誤解されたくないしな。変な嘘とかつかず、あまり深くは喋らず。

よしこれで行こう。

「体の……うん。体の異常とかないか調べるために三谷島みやじま先生にお世話になってました」

三谷島みやじま先生と!?いいなー……」

「いいなーって何だよ。あんま楽しくないぞ。体の隅々調べられたし」

話題が尽き、数秒の沈黙が生まれた。

広斗ひろとは何か考えた後俺に問いかける。

「……なあ真空しんくう。昨日のあれ、結局何なんだ?」

「…………世の中には知らないほうが良いものもあるぞ」

「…………うん。知らないほうが良いかも」

「そんなに危ないものなの!?」

俺は野見中と目を合わせる。俺達はこの事件の詳しい事を知っている。

オリジン教という各地で「試練」と評して犯罪行為を行う宗教団体がこの学校を襲ったという事。

俺達は捜査途中の情報を聞いてしまった。無闇に口に出すものではないだろう。

ガララ

前の扉から奈加河なかがわ先生が出てくる。

奈加河なかがわ先生はこちらを一瞬見た後、教壇に一直線に向かう。

「早速だがホームルームを始める。座ってくれ」

いつもの流れだ。

奈加河なかがわ先生は全員が座ったことを確認して、口を開く。

「最初に昨日の襲撃事件についてだが……忙しく謝罪が出来なかった。俺達教師陣の不手際のせいで、このような事になってしまい申し訳ない」

奈加河なかがわ先生は頭を下げる。

この光景に驚いてるのは俺だけでは無いはず。理由は火を見るより明らか。

”あの”奈加河なかがわ先生が”真面目に”謝罪をしているからである。

適当を具現化したかの様な先生が……。変な物でも食べたのか?

「ま、こんな感じでいっか」

はい、いつもの奈加河なかがわ先生が戻ってきまーした。

だよね!分かってましたよ!これでこそ奈加河なかがわ先生クオリティー。

上げてから落とすんだね!

「注意事項としてこの事件のことをマスゴミはお前ら生徒に真相を知りたいがため(蒼橋良を貶めるため)にインタビューをするかも知れない。その時はスルーするか、カメラに向かって中指立てろ、変顔でも可。情報はこちらからではなく警察の方から出したいからな」

モラルは何処へ。

確かにマスコミが来るかも知れないけど、そこまでするやつはいないでしょ。

……いないよね?

(マスコミとは……情報機関のことか?)

(情報機関より報道機関だな。ニュースとか新聞とか)

(ほう……つまりそれを使えば大衆に周知されることになるんだな)

(俺が羞恥されるけどな!やめてよ!中指とか目立とうとしないでよ!)

(知られてなんぼだろ!)

(若手芸人か!)

俺がテレビに映るなんてゼロに等しいだろう。

俺みたいな一般人が新聞に載るのは俺の能力の事やパラサの事がバレた時じゃないだろうか。

「少年Aくんの体の中には寄生生物がいました」みたいな。

後は世界の危機を救ったとかで英雄にされるとか。……流石にそれはないか。

「てな感じです。他に知らせることは……お前ら知っている通り、今日は早帰りだ。四時間目終わったら飯食わずそのまま帰れ。ボソったくこんなことがあったのに仕事かよ。糞が」

全部丸聞こえなんですけど。欲望が口から漏れてますよ先生!

……まあ俺もそんな風に思いましたけどね。気持ちはわかります。

「あと四月ももう終わりだ。来月からは部活選びに中間試験。おっとその前にGWがあるじゃねえか!よっしゃ!」

なんで生徒より教師が喜んでいるんだ?

そこまで教師という職業は大変なのだろうか。

国よ、もっと教師の待遇を良くしてあげてください。

奈加河なかがわ先生は普通に仕事したくないだけだと思います)

「てなわけでホームルーム終わり。授業頑張れよ。俺は職員室で寝てくるから。今日体育ないし」

感情のないドヤ顔を見せられ、クラス中に殺気が湧く。

さっきは哀れんだけどやっぱなし!殴りたい、その笑顔。

奈加河先生が教室を出た、数分後に授業が始まる。

キーンコーンカーンコーン

ほら始まった。



















四時間目は!終わりだあああああああ!!!

授業終わりのチャイムが鳴り、教室中には歓喜の声が漏れる。

もう俺は誰にも止められないぜ!!

赫賀谷あかがや君!」

いました。今の俺を止められる天使が一人。(天使って「一人」で数えるのか?)

「どうかしましたか?」

「なんで?敬語?」

「気にするな。なんか用か?」

「みんなでこの後遊びに行くんだけど、赫賀谷あかがや君も来ない?」

「……あ……」

「なんで泣いてるの!?」

この時が……来た。遂に俺にも遊びの誘いが……来た。涙!流さずにはいられない!俺は野見中の後ろにいるであろう、仲間たちを見る。

サーっと血の気が引いてるのが分かる。

クラスでも有名な陽キャ達である(名もないモブキャラである)。

誘われたのは超嬉しい。マジ嬉しい。でも……流石に無理だ。

俺のコミュ力じゃ無理だ。

「悪いけど……俺は……」

「シオリン〜、何してんの?」

俺がセリフを言い終わるまでに、後ろから誰かがやってくる。

金髪の明らかなギャルであり、陽キャ筆頭。唯一の名前持ち。

さすがの俺でも名前を知っている。八乙女やおとめ 玲香れいか

「あれ?えっと確か……アカカガヤ君!」

赫賀谷あかがやです……」

「そうそう。それそれ!いつもシオリンと一緒にいる人じゃん!」

「どうも……」

この反応から分かる通り、俺は八乙女やおとめさんの事が苦手である。

いや天敵である。何というかテンションの差が違う。距離の詰め方も。

本当に同じ人間なのだろうか。

「で?何してんの?」

赫賀谷あかがや君もどうかなって話だよ」

「ふうん〜、で?どうすんの?行く?」

「えっと、え、遠慮、さ、させていただきます」

「何キョドってんのwキモw」

「グハッ……!」

「ちょっとレイカちゃん!」

「ゴメンゴメン!許してよ!シオリン〜」

「きゃ!もうーやめてよ〜」

八乙女やおとめは野見中に思い切り抱きつく。

野見中のみなかはそれをビックリしながらも喜んでいるようであった。

キモという言葉によって、心に重大な傷が出来ているのに、何目の前でイチャイチャしてくれてんですか!

「じゃあ……また……」

「あ……」

「またね〜」

俺は懐を抱えながら、教室を出る。

(お前も大変なんだな)

(他人事のように言いやがって……)

(他人事だからな)

(流石に無理ですよ。あれは)

(情けない。漢ならもっと大胆にいけ)

(もう……そんな時代じゃねえんだよ)

昔は男性の方が女性より地位が高かったらしいが、どうやってそうなったのか全くわからない。

これが時代の流れかー。

トボトボと帰路を辿る。早帰りの喜びは先程の一件で消えてしまった。

ブ-

スマホが振動する。メールだ。宛先は……野見中のみなか様!


「さっきはごめんね!」

                          「別にダイジョウブだよ」

「本当に大丈夫!?」

                           「楽しんでらっしゃい」

「お父さんかな?」

                               「(・ω・)」

「また遊び誘うね!」

                             「GWにでも頼む」

「(^ν^)」


早帰り以上の喜びに体を震わせる。初めての友達とのメールだ!!

力強くガッツポーズをとる。今日も静かに眠れる。




















「……いい加減吐いたらどうなんだ?」

「……………………」

取調室。

中では砂州宮すさみやと赫賀谷が倒した爆弾魔ボマー爆宮ばくみや ばくがお互いに睨み合っている。

襲撃事件の主犯格である爆弾魔から情報を引き出そうとしている。

「爆宮 爆。暴行に強盗、終いには殺人まで犯している。能力法にも違反している。お前にくだされる刑は無期懲役?違う。死刑が妥当だ。……なあもうお前は八方塞がりだ。秘密にしたって意味はないぞ。もう一度聞く。オリジン教は一体何を企んでいる?宮町崩壊事件はお前たちがやったのか?何故蒼橋良を襲った?」

「全ては神の思し召しだ」

「はあ……」

爆弾魔は不敵な笑みを浮かべ、砂州宮を見る。

砂州宮が困っているのを見て喜んでいるようだ。

コンコン

取調室の扉が叩かれる。

「砂州宮刑事。ちょっと……」

出てきたのは砂州宮の部下だった。

砂州宮は爆弾魔に「待ってろ」と言うと取調室を後にした。

「何だ?何か掴んだのか?」

「いえ……これが”能力刑事事件捜査専門課”宛に先程届きました」

それはボイスレコーダーであった。砂州宮は早速それを再生する。

しばらく聞いた後、取調室に戻る。テーブルの上にボイスレコーダーを置く。

「なんだ?」

「聞け」

再生ボタンを押すと、それから機械音声が流れる。

『やあ!能力刑事事件捜査専門課と爆弾魔君!私はオリジン教の教祖であり、神の代弁者であるー……そうだな……X……とでも名乗ろうかな!』

「教祖様!」

爆弾魔は目を大きく光らせる。その様はまるで子供のようであった。

『まず刑事殿。この度はうちの信徒達が迷惑をかけてすまない。だがこれだけは信じてほしい。我々はただ神からのお告げがあり、それを実行しただけだ。「試練」をしただけなのだよ。それに犯罪などは関係ない。信じることは罪では無いのだから』

「何を馬鹿げたことを……」

『そして爆弾魔君。君は……「試練」に失敗してしまった。それは分かるね?』

「それは……!」

『……これも神の思し召しだ。これで君は許されるはずだ。さらばだ。爆弾魔君』

話し終わると、ピッピッと一定のリズムで音が鳴る。

爆弾魔の顔は青ざめ、今にでも泣き出そうとしている。

「次こそ!次こそ試練を完遂してみせます!だから……だからもう一度チャンスを!!」

リズムは早くなっていく。

「なあ!刑事さん!!助けてくれよ!死にたくない!死にたくない!いやだいやだ!!!俺はまだ……」

「どういう事だ?一体何を言っている?」

爆弾魔は今にも立ち上がり、暴れようとしていた。

砂州宮含む刑事は爆弾魔の体を抑える。

「離せ!!離せ!!」

リズムは先程のようにどんどん早くなっていく。

これが何を表しているのか?爆弾魔の様子を見る限り、ただ事ではない。

そしてその時はきた。

ピーと心臓が止まる瞬間の音が聞こえたと思ったら、ボンッ!と小さな爆発のようなものが起こる。

爆弾魔の動きが止まった。

「おいおい、マジかよ……」

爆弾魔の目・鼻・口・耳。穴という穴から血が流れ出る。念の為部下が脈を測る。

部下は首を横にふる。

『さてこれで証拠隠滅は終わりだ。せいぜい頑張りな刑事さん。いや……砂州宮正義さん。それではまた』

ボイスレコーダーもまたボンッ!と爆発し、煙をあげる。

「拘置所でも……」

これが表すことは証拠隠滅として襲撃事件の実行犯・十五名が証拠隠滅で消されたのだろう。

「……これがどこから送られたか。郵便局に問い合わせろ」

「了解」

部下が取調室から出ていく。

「くそっ!!!」

砂州宮は壁を殴る。

己の不甲斐なさと何も知ることが出来なかった怒りを発散するかのように。

「絶対お前を法のもとに裁く……教祖X!」

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