第十五話 寄生
(……我は…………貴様の頭の中に住み着く…………………………
(は?)
(寄生生物だ)
「はああああああああああ!?」
(うるさいぞ)
(うるさいぞって……はあ!?何寄生生物って?幻聴じゃないのは薄々分かってたけど……寄生生物は予想外でしたね!!)
(少しは静かにしろ)
(この事実を聞いて騒がないほうがおかしくない!?)
俺の予想としてはもう一つの人格の可能性を考えていたが、まさかの寄生生物。
日常過ごしてて寄生生物が体にいるって考えるやつなんている?いねえよな!?
(全く理解できない。俺の体のどこかにお前がいるってこと?)
(正確には脳の所だな)
俺は脳に住み着くグロテスクな生物を想像する。
自分でも分かるぐらいに顔が引きつっている。触手とかが至る所に……。
なんてものを想像してしまったんだ……。
(もっと細かく言うなら、我には実体がない。脳に我が浸透してるような感じだ)
(……余計に気持ち悪いわ)
(そもそも何故寄生生物という単語にそこまで反応するんだ?)
(普通に考えて気づかぬうちに体を寄生されてるんだよ!怖いし怖いじゃん!キモいし……)
(お前は我をキモいと言ったか?)
(冗談だよ冗談)
冗談でもなんでもない。
世間は寄生生物というものによい感情は抱いていないと思われる。
それは漫画やアニメなどもあると思うが、寄生という言葉が身近に無いものだ。
だからこそ気持ち悪いと感じている。
一定数そういうのが好きなマニアはいるだろうけど。
俺は街灯が差す夜道を歩いて、一話ぐらいに出てきた公園の横を通る。
ここまで来れば家まで後少しだ。
(単刀直入に聞くが、お前は何なんだ?)
(寄生生物だ)
(そうじゃなくて、もっと具体的に)
(具体的に……と言われてもな。我もそれぐらいしか知らない。それは多分
(他って……)
(お察しの通り。寄生生物は我だけではない。
(まじかよ……)
能力者全員。能力は世界人口の三分の一。
今現在二〇二五年の世界人口は約八〇億人。
想像以上の多さに動揺を隠しきれない。それに能力者という言葉が頭に残る。
ということは……。
(
(良かったな。その可能性はゼロだ)
(本当か!?)
(さあな)
(ん?ちょっと何言ってるか分かんない)
(そんな感じがする)
(可能性はゼロじゃないってこと?)
(いやゼロだ)
(さっきから何なんだよ!)
(我も言葉にするのが難しい。寄生生物同士のシンパシー・信号のようなものが感じないのだ)
(俺にはさっぱりだけど、お前には何か感じるはずの物が感じないんだな)
(そういうことだ)
心の底から安堵する。あいつらはあいつらだった。
決して乗っ取られてる訳ではなかった。
乗っ取られてたらこれからどう接していいかわからなくなる所だった。
そんなこんなしていると我が家が見えてくる。俺は鞄から鍵を取り出す。
鍵穴に鍵を入れ、ガチャリと回す。扉を開き、深く息を吸う。ああ我が家だ。
何という安心感!やはり我が家が一番だな!!
(ようこそ我が家へ)
(初めてではない。何回も
俺の視界を通して見ている、という意味だろう。
その言葉に若干の不信感を抱きながらも中に入る。俺の家は二階建ての一軒家。4LDKでリビングは吹き抜けになっていて、謎のファンライトなるものが回っている。そんな広い家で住んでいるのは俺一人だ。
色んな理由があるが、今語る必要は無いだろう。
俺は電気をつけて、広いソファーに横になる。
テレビを付けず、上の回ってるやつを眺める。
(……何してるんだ?)
「ちょっと落ち着こうと思って」
(急に口で喋りだしたか)
「防音性能もバッチリだし、俺以外この家いないし」
(ま、勝手にしろ。だが着替えるぐらいはしたらどうだ?)
「それもそうか」
俺は二階に上がり、自分の部屋に入る。制服を脱いで、部屋着に着替える。
Yシャツと靴下は適当に洗濯機の放って置く。再度ソファーに寝転がる。
(さて、先程の話の続きをしようか)
「能力者の頭にはお前ら寄生生物がいるんだろ?」
(そうだ)
「何で能力者限定なんだ?無能力者には絶対寄生していないのか?」
(……答える前にお前に一つ質問したい)
「なんだよ。藪から棒に」
(能力とは何だと思う?)
「は?」
(能力とは何故人間・ホモ・サピエンスに発現したんだ?)
「それは……」
結構難しい質問だ。この手の質問は三谷島先生の
「確か……授業でやったのは人間の脳の進化じゃなかったか?」
(愚かだな)
「え?急に?」
(人間はその様に結論づけたのか)
「多分だけどまだ解明されてないんじゃない?ていうか愚かって俺に言ってる?人間全体に言ってる?今後の対応が返答で決まるけど。はいどうぞ」
(お前にも言ってるし、人間にも言っている)
「それ結構失礼なことだからね、一応。寄生生物だから分からなかったかな?人間全員・主に俺に重点的に謝ってください」
(肌の色・言語の違いで差別や争いをし、後先考えずに文明を発達させたら、そのせいで環境が汚染してしまい、自分が困っているという様な奴らを愚かと言わずなんと言うんだ?)
「……何も言えません」
反論など出来なかった。実際にそうなっているのだから。
こんな愚かなことをしているとズカズカと言葉の矢が刺さっている。
これを機に環境保全の活動でもしようかな。
A◯ジャパンはこんな活動を支援してんだろうな。
「で、答えは?質問したからにはあるんだろ?」
(もちろんさ。人間に能力が発現した理由は
「うん。なんとなくそういう流れだったよね」
(少しは驚いたらどうだ?)
「さっきうるさいって言ってたのはどこのどちら様?」
(話を続けるぞ)
「逃げるな!卑怯者!!」
自分勝手なやつだなと身にしみて実感する。奈加河先生並の理不尽だ。
(さっきの続きだが、我々が寄生したことによって人間に能力が発現した。このことから
「それ言う必要あった?」
(ない)
「なら言うなよ!!スケールでかいけどその中に俺入ってるんだからな!?」
(やいやい。退化退化)
「遊んでねえでさっさと説明の続きしろ!!話が続かなくて読者が怒るだろ!!」
(何言ってるか分からないが、まあいい。我々は人間に寄生し、乗っ取り、体を手に入れた後、その能力を使う予定だった)
「急に寒気が。乗っ取る?どういうことすか?」
(そのまんまの意味だ。お前の体もとい脳を乗っ取る)
「今すぐ俺の体内から出てけこの野郎!!」
寄生生物なのだから当然っちゃ当然だが、流石に動揺する。
もしかすると……と考えてしまう。
(乗っ取られていないのだから良いじゃないか。それに我がお前を
「選んでなかったら?え?何?寄生する人を選別してるの?」
(もちろんだ。我自身と最も適応しやすい人間を見つけ、寄生する)
「どういう基準かわからねえ……」
(見つけると言っても直感だな。お前を見た時直感であ、こいつだなと思っただけだ)
「結構適当なんですね!!全然選んでねえじゃねえか!!」
(まあまあ、そう興奮すんなよ)
「してねえわ。失礼だな」
ここまでの話を一旦整理しよう。
俺の頭の中もとい能力者の頭の中には寄生生物が寄生していて、それによって能力が使える。
こいつらは寄生生物だけあって、自らの体に最も適応しやすい人間に生まれてきた瞬間寄生すると人間の体を乗っ取ろうとしていた。
現状では(俺の中にいる寄生生物いわく)俺の周りでは乗っ取られてるやつがいないらしい。
(説明ご苦労)
「はいはいどうも。それで次に聞きたいことがある」
(ふん。なんだ?)
「あの時、お前は一体何をした?」
あの時。それはあの蒼橋良が襲撃された時の事だ。俺は絶対に死んだはずだ。
でも何故か俺の体はピンピンしている。死ぬ前に聞こえた声の主。
この寄生生物が関与しているとしか思えない。
(……まず、お前の体に我は三回の適合が行っている。第一の適合が「能力の発現」だ)
「六歳のときに能力が発現したのは、寄生生物が人間の体に適合したからなのか」
(そして第二の適合が初めてお前と会話した「自我の獲得」だ)
「なあ六歳からこの数年間。何してたんだ?」
(眠っていた。人間の体にまだ適合していなかったからな。体力の消耗が半端じゃなかった。第二の適合を終えた後も喋ったり喋んなかったりしただろ?)
「お前たちも結構大変なんだな」
(他人事のように言うな。さて、お待ちかね第三の適合。それが「共存状態」。今の我々の状態だ。この状態になるときに出た大量のASRの影響でお前の自然治癒能力が活性化し、生き返ったというより死ぬ直前で全回復したんだ。そしてオリジナルの能力を手に入れた)
「……何で第一の適合ではオリジナルとベーシックっていうバラつきが生まれるんだ?」
(適合にもパーセンテージが存在する。ベージックは五〇%。オリジナルは一〇〇%だ。バラつきが生まれるのは個人差だろう。仕方がない。全員が同じ個体じゃないからな)
「今の俺はベーシックでもあって、オリジナルでもあるんだけど」
(通常一〇〇%が限界だ。だが第三の適合によって、最大%は二〇〇%に跳ね上がった。今のお前と我の適合率は一五〇%だ)
「あーすごいね」
(絶対理解できてないだろ。ここまで至っているのは我らだけだぞ。他の能力は第一の適合止まりだ)
まるでなろう系主人公のような特別な能力だ。だが更に疑問は生まれる。
「なんで俺達はそんな事になってるんだ?二七億分の一ってことだろ?そんなの天文学確率だろう」
(さあな。偶然か必然か。お前が特別なのか、我が特別なのか。誰にも分からない。でもそんなの関係ない。我らはただ自身の信念を貫く通すだけだ)
「信念?」
寄生生物はクククと笑っている。自信満々に自身の信念について語る。
(我は「最強」になる。最も強く、誇り高き称号。それこそが我が貫き通すべき信念だ)
「くだら……」
(くだらないと言ったら、殺すぞ)
俺は口から出そうになっていた言葉をスッと口に戻す。
さっきの籠もった言葉だった。
このまま言っていたら殺されていたんでは無いのだろうか。
……とりあえず、褒めとこ。
「いやー!!大変素晴らしい信念ですね!!」
(気持ち悪いからやめろ)
「はーい。ごめんなさい」
グ〜〜〜〜〜〜。
誰もいない家に腹のなる音が響く。
そういえば帰ってきてから、いやもっと前の昼食の時間から何も食べていない。
俺はソファーから起き上がり、キッチンへと向かう。
(栄養がある物にしろよ)
「栄養栄養うるせえよ!好きに食わせろ!ていうかちゃんとそこらへんは考えてるから!!」
(ちゃんと栄養を取らないと我が死ぬからな。死んだらお前も死ぬぞ)
「へえーそうなん……だ!!?!??!??!」
出たこともないような声が出る。
冷蔵庫から取り出したキャベツを落としてしまった。
(我とお前はもう切っても切り離せない関係だ。適合とは脳と融合することに近い。お前の脳の大事な所に我が入ってしまった。無理やり我を取り除いたり、我が死んだりした場合お前の脳も同時に死ぬ)
「そういう事は!ちゃんと言いましょうね!!最初に!!」
(我には栄養が必要だ。ASRを回復するのにも、我が生体活動を継続させるためにもな。我らは運命共同体なのだよ)
「ちょっと待ってて。めっちゃ栄養あるやつ作るから」
俺は予め買っておいた食材を使い、栄養のことを考えた晩飯を作り終わる。
俺はそれをテーブルに置く。
「…………」
(どうした?食わないのか?)
「いや……食うよ」
ここに座ると思い出してしまう。
家族で一緒に晩御飯を食べていたあの頃の様子を……。
今は一人でしか食卓を囲むことが出来ない。
それは食卓を囲んでいると言えるのだろうか。
「いただきます」
(ゆっくり噛むんだぞ)
「お前は……母親か何かか!?」
(寄生生物だ)
「あっそ!」
俺は口に飯を運ぶ。うん。普通の味だ。
特別不味くもなく、滅茶苦茶美味しい訳でもない。
「そういや、お前名前は?」
(は?)
「名前だよ。名前。ずっとお前とか言ってるけど、肝心の名前がわからないからな」
(…………知らん)
「知らんって、覚えてないのか?」
(あったかどうかすら分からない)
「名前があったほうが読みやすいんだけどなー……」
(何だ?そういう流れなのか?)
「そういう流れです。名前決めます」
(勝手にしろ)
「天の声さん」
(却下)
「声主さん」
(却下)
「寄生さん」
(却下!!もっとマシなの無いのか!?ふざけてるだろ)
至って真面目に決めているつもりだ。全部いい名前だと思うんだが。
出来れば寄生要素入れたいよな。寄生……英語だとparasite。
日本語表記に直してパラサイト。
ここで俺の頭にひらめきの稲妻がビビッと落ちてくる。
「パラサ!!どうだこれ!!」
(まあ、今までのやつよりかは良いんじゃないか?)
「じゃあ決定。パラサ!キミにきめた!!」
(……本当にその名で呼ぶのか?)
「大丈夫。呼ぶ人間なんて俺だけだから。てことでこれからよろしく。”パラサ”」
(はいはい。よろしく。”真空”)
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