第十四話 実験

俺は奈加河先生に言われ、三谷島先生がいる研究室に向かう。

三谷島先生専用の研究室で授業以外は基本的にこの研究室にいるらしい。

俺はそんな事より学校に研究室がある方が驚きだ。

確かに本来は国で雇われるぐらいの天才で実績もある。

そんな人がこの学校で教鞭をとるんだ。そのぐらいあってもいいか。

俺はすっかり暗くなり、明かりが付き始めた廊下を淡々と歩く。

さっきまでは野見中がいたが、その人も帰ってしまい、恐らくこの学校には俺しか生徒はいないだろう。

早く帰りたいという気持ちと自分の体に何が起こっているのか気になるという二つの気持ちがぶつかっている。そんなこんなで俺は研究室に辿り着く。

コンコンと扉を叩くが返答がない。もう一度、次は少し力を入れて扉を叩く。

それでも返答がない。中で何か事故が起こっているの?幸い鍵は掛かっていなかったので小さい声で「失礼します」と言い、中に入る。

研究室は教室一つ分ぐらいの広さがあり、壁際にある大きな棚にはたくさんの量の資料・何かの標本がしまわれている。

中央には大きな訳の分からない機械が置いてある。

それにしても肝心の三谷島先生がいない。

俺は思い切って大きな声で「三谷島先生っ!!」と叫んで見る。

すると奥の扉の中から「はいはーい」と返事が返ってきた。

「あれ?赫賀谷君ですか。こんな時間にどうしたんです?事情聴取は終わったんですか?」

「知ってたんですか?」

「一応教師の間でも情報を交換してましたから」

「奥の部屋は?」

「ああ。あの部屋は実験室です。研究室は簡単にできる実験を。危険な実験は実験室でやるようにしてるんです。ここより丈夫ですから」

「はえー」

「さっきまで校内のASR検知器の点検をしてたんですよ。中庭に設置していた検知器が故障したようでね。本来検知されない量のASRを検知していましたからね」

「あのー……多分それと関係あると思います……」

「……ほう」

三谷島先生の目付きが変わる。すべてを知りたい好奇心の目。

研究者本来の目を俺に対し向ける。

思わず背筋をビクつくが、俺はどんな事があったが野見中の言っていたことを元に自分なりに説明する。

三谷島先生はその話をうんうんと頷きながら左上を見る。

「なるほど……要件は分かりました。私に体を調べてほしいんですね」

「そうです」

「ちょっとお待ちを」

三谷島先生は椅子を二脚用意して、パソコンと頭につけるような機械・それと線で繋がった箱型の機械を用意する。

それを運んでいる時、三谷島先生が転びそうになっていたので代わりに俺が用意する事になった。

「とりあえず座ってください」

俺は言われた通りに座る。

目の前では三谷島先生がパソコンをカチャカチャさせていた。

先生はどちらかというと研究者と言うより技術者が似合っていると思ってしまった。

「これを頭に」

「……なんとなくこうするんだなとは思いましたけど、何ですかこれ?」

予想通り頭に機械をつけるがいまいちピンとしない。

三谷島先生はパソコンを弄りながら説明をする。

「それは貴方の体の中にあるASRの量を調べるものです。よほどの量ではない限り、これで調べることが出来ます。それで計測した結果をこの箱を通してパソコンにデータが送られます。こういう仕組みです。分かりましたか?」

「まあ多少は」

「本当はもう少し詳しく説明したかったのですが、時間も遅いですしもう始めましょう」

説明されたら俺の頭はきっと破裂するだろう。

三谷島先生が作った機械なんて理解できるわけがない。

専門的な知識がたくさん必要だぞ。

「それでは始めますよ。リラックスしてください」

俺は新呼吸をする。こういう事は初めての経験だ。

すこしワクワクしている自分がいる。

「スイッチ・オン!!」

三谷島先生はそう言いながら、箱の機械に付いているボタンを押す。

それと同時に頭からつま先にかけて、電流のような物が走る感覚に陥る。

決して痛みなどはなく、軽く痺れているような感覚だ。

その感覚が数分間続いた所で止まる。三谷島先生はパソコンとにらめっこしている。その表情は面白いという感情となんじゃこらという困惑が感じ取れる。

「…………」

「あの、どうです?まあ聞いても理解できると思わないですけど」

「異常ですね……」

「?」

「私もこのような物は見たことがありません」

「えっと……何がですか?」

三谷島先生はこちらに画面を向けてくる。

パソコンの画面にはたくさんの数字とグラフのようなものが書いてある。

「つまり?」

「通常能力者は約六歳に能力を発現し、四十前後までASRは年月ごとに増えていきます。増え方にも個人差はありますけどね。それを踏まえてこちらを見てください。こちらが貴方のASR量の推移です。隣が能力者の平均ASR推移です」

平均の方を見てみると緩やかに右に上っているのが分かる。

それと比較して俺のはASR量が上がっているのかどうかも分かんなかったのが、急に跳ね上がっている。

「元の貴方のASR量は平均にもいっていなかった。ですが入学時点で測った時点と比べてみるとどうでしょう。異常なまでにつり上がっていますよね?ASRです」

「俺、なんかやっちゃいました?」

「貴方が教えてくれたシチュエーションですと数分でこの域まで行ったことになります。このようなことはでしょう」

流石の俺でも自分がどれほどやばいのかが分かった。

分からない人向けに説明すると、俺のASR量は通常能力者が何十年とかけてなる量と同じだ。

しかもそれを数分程度でやったから、世界的に見てもやばいよってこと。

結論、俺のASRやばい。

「これはもうちょっと調べないといけませんね。次は貴方のオリジナルの能力について」

「…………」

「では付いてきてください」

俺は三谷島先生に連れられ、実験室に入る。

実験室はどこか無機質で異様な何かを感じる。

床と壁・窓までが特殊な何かで補強されている。

「ここでは貴方の能力を試します。まず最初に能力を使用してください」

「はっ、はい」

俺は急な展開に驚きつつも言われた通り、能力を発動する。

俺のオリジナルの能力……能力………………。

シーン

ただ手からASRが出るだけで何も起きない。確か俺は空気操作が出来るはずなのに。

「どうやればいいんですか?」

「そうですねー……イメージです。イメージしてください」

「それだけですか?」

「私も感覚で使っているので……そうとしか言いようが」

「……とりあえずやってみます!!」

イメージ。想像しろ。ASRを意識しろ。すると渦巻く風が掌に収まる。

俺がその風を様々な形に操作させる。成功だ。

俺は新たにオリジナルの能力を使える用になった。

「……ははっ」

笑みが溢れる。

時には憧れ、時には嫉妬したオリジナルの能力が使えるようになっていたのだ。

「どうですか?三谷島先生」

「なるほど。空気を操作しているんですか」

「分かるんですか?」

「空気の流れが貴方の掌に向かっていますから」

操作のオリジナルの能力は生み出した物を操作するのではなく、そこにある物をASRを消費し操作させる。

ASR自体で操作するのではなく、ASRを消費した時に出たエネルギーを使って物体を操作する。

それがベーシックとの違いだ。

「次はあの的に向かって、空気を当ててください。能力の射程を調べます。まずは五メートル」

三谷島先生は壁のボタンを押すと、倒れていた的が起き上がる。

俺は先程操作した空気の塊を的に当てる。

塊が的に当たった瞬間、拡散しその衝撃で的は倒れた。

「次は大きく離れて十メートルにしましょう」

同じ様に空気を容易に的に当てる。

最終的に様々な距離を試し、俺の射程距離は半径12.5メートルだというのが分かった。

「とりあえず君の一通りのデータは取り終えました。これでやっと帰れますね」

「これで……やっとかー」

俺達は研究室に戻り、三谷島先生はパソコンとまた向かい合っていた。

俺は疲れのあまり後ろの棚に寄り掛かる。そのせいか棚がガタガタ揺れる。

「赫賀谷君!!上!」

「ん?」

上からダンボールの箱が落ちてくる。

避ければいいと思うのだが、この箱に何が入ってるか分からない。

高価なものだったらどうしよう。俺は腕にASRを巡らす。

上から落ちてきたダンボールの箱をキャッチする。

「危なかったー……」

「大丈夫ですか!?」

「はい……。すいません」

「あなたに怪我が無くて良かったです。…………重くないんですか?」

「ええこの通り」

俺は箱を軽々と上下に動かす。

三谷島先生はその様子をマジマジと疑いの目で見つめる。

「能力を使ってる?でも空気の流れが……」

「ほら、授業でやってたじゃないですか。ASRの身体強化の……」

部屋の時間が止まったかのように感じた。

三谷島先生はありえないという目で俺を見ていて、開いた口が塞がっていない。

俺何かやっちゃいました?PART2

「もう一度言ってください……。何を?」

「ASRの身体強化……」

三谷島先生は頭を抱えながら天に仰ぐ。

ASRの身体強化はやばかったか?

本当はあくまで出来るかも知れない程度だったのか!?それはやばい。

「これは……嬉しいことのはずなんですけどねー。まさか生徒が……」

「先生?」

「……気づいてないのですか?まあその態度からだと全く分からないんでしょうね。

「あのーどういうことですか?」

「よく考えてください。あなたは今なんですか?オリジナル?ベーシック?」

「…………」

この時すべてを理解した。俺は元はベーシックでASRしか操作できなかった。

今はASRを使って空気を操作できるオリジナルになった。

そこで一つの疑問が生まれる。

「あなたは何故オリジナルなのにASRを操作できるのですか」

「ははっ……」

流石のこれには苦笑いするしかなかった。やっちまった。

本来オリジナルはASR自体を操作なんか出来ない。

だからASRで身体強化なんてもっての外だ。それを俺はやってしまった。

オリジナルなのにベーシックの芸当をやってしまったのだ。

「いいですか?赫賀谷君。あなたも分かってる通り、今のあなたはASRを操作なんか出来ないのです。でもそれが出来てしまっている。はっきり言いましょう。異常を超えた異常だ。こんなのASR量の比じゃない。世界の能力事情が変わってしまう」

「な、何かデータとかないんですか?俺と同じような人はいないんですか?」

「いたとしても片手で数えられるでしょうし、そんな人間がいる事を公にはしないでしょう。私はこの事については全くの無知です。アメリカにいた時にもこんな情報、目に入らなかった。

「どういうことですか?」

「世の中はそこまで明るくないってことです」

三谷島先生はどこか遠くを見つめていた。

「現在世界は、いや日本は平和です。でもそれはすぐに壊れてしまうかも知れない。能力というものは便利ですよね。物を運んだり、空を飛んだり。機械に頼っていたことを人間一人で出来るのですから。だが忘れてはいけない。能力はなんであろうと人を傷つけ、殺してしまうのですから。これはあなたが一番分かっていますよね」

今日の惨劇。能力で俺は死にかけた。いや死んだ。殺された。呆気なく。

俺も能力者なのに。能力者でさえあれだ。能力をもたない一般人が防げる訳がない。

「ある国では能力者を兵士に育てようとしている。ある国では非道な実験をしている。人間は能力という道具を「兵器」を手にしてしまった。核兵器にも劣らない。戦車などの重火器を使わずとも戦争が出来てしまう世界になってしまった。そんな世界であなたという存在は危険です。あなたという存在は世界に影響を与える。この事は誰にも知られてはいけない」

今までの三谷島先生とは違う。科学者としての三谷島先生は俺に忠告を施す。

その視線から見える世界は俺にとっては遠く理解できないものだ。

でもその世界に俺は片足入ってしまった。

理解できない世界に理解できないものが入ってしまったのだ。

「ちなみにバレたら……」

「避ければ即ホルマリン漬け。悪くて人体実験からの兵器としての運用ですかね」

「想像以上にやばい!!」

「死にたくても死ねませんよ」

「怖い怖い。普通に怖いです」

バレたら死。その言葉が頭の中に永久に記憶される。

「とりあえずこの事は私とあなたの秘密です。それと毎週土曜、私のところに来て検査を受けてください。分かりましたか?」

「は、はい」

「今日はこの辺で良いでしょう。友達に言わないこと。言ってい良いのはオリジナルになったということだけです。人の前でASRの身体強化とかしないでくださいね」

「わっっかりました」

「ではまた」

俺は研究室を出た。……頭の整理が追いついていない。

自分がやばくなったってことしか分からない。バレたら死ぬ。

突然押し寄せる死の恐怖。それを噛み締めて俺は帰路についた。








(もうそろそろいいだろう。出てこいよ)

(ふっ)

(全部説明しろ。お前は一体何だ?何が起きたんだ)

(そうだな……。まず我の正体から。驚くなよ?)

(…驚かない自身はない)

(……我は…………貴様の頭の中に住み着く…………………………だ)

(は?)

(寄生生物だ)

「はああああああああああ!」

夜の道に驚きの声が響いた。

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