第十二話 覚醒

知ってる天井だ。俺は目を覚ます。中庭にいたはずが保健室に今はいる。

ていうか、俺死んだはずだよな?夢だった?いや夢とかそういう類のものじゃ……。ってアレ?俺はベットから上だけ起き上がり、自分の体を見る。

破れて燃えた制服が新しくなっていて、あれほどまでの傷があったはずなのに包帯の一つも巻いていない。痛みも感じない。

ジャララララ!

カーテンが開く。

そこには目を赤くした野見中のみなかと疲れ切った顔をした白尚しらなお先生がいた。

野見中のみなかは俺を見ると、ギュッと抱きついてくる。

俺は目をパチパチさせ今の現状を確認する。俺に美少女が抱きつく。

うん意味分からん!!

「よかったよ〜起きてよかったよ〜」

「え、あ、えあえ?」

野見中のみなかは泣きながらそういった。そこまで泣かれることだろうか?よく分からない。

「困惑し過ぎよ、少年」

「そりゃ困惑しますよ。起きたら急に抱きつかれるんですから」

外は夕暮れ時。あれから俺は数時間寝ていたのか。あの後先生が来たのか。それなら傷が治ってるのにも繋がる。

「あれ広斗ひろとは?」

「ぐすん……黄異宮きいみや君なら白尚しらなお先生に治療されて先に帰ったよ。頭が痛いって言ってたけどね」

野見中のみなかは俺から離れてくれた。

そうか……家に帰れるぐらいの怪我だったんだ

「そんぐらいで済んでよかったよ。白尚先生もありがとうございます。俺の怪我を治してくれて」

「何のことかしら?あなたはここに来る時ど」

「え?」

「え?じゃないわよ。嘘もついてない。あ!制服はまあ学校側が用意したけどね」

怪我をしていない?そんな訳ない。あの時の痛み全部覚えてる。言葉にも出来ない。二度と味わいたくない痛み。……白尚しらなお先生の能力はあくまで「傷を治す」でも、痛みは治せないはずだ。痛みを今は感じない。俺は本当に怪我をしたのか。

「それに凄いじゃない。あなたが?」

「はあ!?」

「???」

「……………………」

頭が追いつかない。俺は確かに負けた。あの男に負けたはずだ。

何かがおかしい。俺の知らない所で何かが起きている。

野見中のみなか。あの時なにがあったんだ?俺は一体何をした?」

「あなたは…………」














野見中のみなかは自分を責めた。動けない自分を責めた。

自分を殺してしまうぐらいに責めた。爆弾魔ボマーは笑っている。

野見中を守ろうとした一人の少年は息絶え横に寝ている。絶望に絶望が重なる。

本当に自分は動けるのか?黄異宮だけでも助けられるのか?

頭の中で考えようにも考えがまとまらない。爆弾魔はこちらに向かってくる。

「邪魔者もいなくなったし始めよっか」

「………………」

爆弾魔はこちらに両手を構える。最初と同じ。振り出しに戻っただけだ。

ここで素直に死んでおくほうが…………と野見中は思う。

『の…………み……な……か』

亡き少年の言葉が脳裏をよぎる。諦めてはいけない。

彼は私達を助けるために死んでいった。なら私は生き残らなきゃいけない。

ここで黙って殺されるわけにはいかない。野見中は戦う覚悟ができる。

野見中は爆弾魔に対しデコピンの形で手を向ける。

野見中の能力は「」能力。

物体を原子レベルにまで

この時物体を破壊するには多大なエネルギーが必要である。

ASRアーサーで破壊するのではなく、ASRで物体を原子レベルにまで破壊するエネルギーを作り物体に干渉する。それが野見中の能力の本当の姿。

デコピンの形で指に破壊エネルギーを溜める。

ズドンッッ!!

それをそれ一気に放出する。その威力は人に当たった場合、骨が何本か折れるレベル。その威力が故、制御が難しく反動が大きい。

そのエネルギーは爆弾魔の頭に対して放出される。でもそのデメリットからか。

予備動作からか。呆気なく避けられてしまった。

爆弾魔としては頭スレスレに物凄い風が吹いたなぐらいの感覚。

「なになに?ちょっと危ないんだけどー」

「無理だった……」

これで正真正銘終わり。抵抗した所で人殺しのプロに勝てはしなかった。

今度こそ終わりだと思った瞬間、中庭に火災報知器のような音が鳴る。

『中庭にて多量のASRを検知……多量のASR検知……検知……検知しました。職は……たちに……対……して』

先程聞こえた放送と違って、所々が途切れていてガザゴゾしている。

「はははっ!!」

後ろの方で誰かの笑い声が聞こえる。誰か、じゃない。

赫賀谷あかがや?は立ち上がって笑い出す。まるで産声をあげるように。

制服には多量の血がついているが、そこにあるはずの火傷の痕がない。

綺麗サッパリ無くなっている。

「はははっはっはは!!!動くぞ!体が動く!!!成功した!!はははははっっっは!!」

「…………なんで死んでないんだよ」

「ん?ああ貴様か。我を呼び起こしてくれたのは。なるほど今は小娘の命を奪おうとしていると」

「我?だっさ。なにそれ?かっこいいと思ってんの?」

赫賀谷?はもうその場所にはいなかった。爆弾魔も同様野見中の前にはいない。

爆弾魔は空高く飛んでおり、全方向から打たれたかのようハチャメチャに動いている。そして落下。野見中の前には赫賀谷?がいる。

「何してる小娘。さっさと行ったらどうだ?」

「……小娘?」

「で行かないのか?……まあ行かなくてもいい。その目に我の伝説を記録しろ。

「……お前っ!!一体何しやがった!?」

爆弾魔は起き上がり何が起こったか分からないかという顔をして声を出す。

「ただ力を使っただけだ」

「ウソつけ!!お前はベーシックのくせに何言ってやがる。ASR!!あれは空中の何かが俺の全身を襲ってた!!」

「だからそれが力だと言っているだろう。馬鹿なのか?」

「うるせえ!!!」

爆弾魔は爆発を直線上に起こしていく。

赫賀谷?はそれをなんとも思わず手の一つも上げはしない。

ただ突っ立っているだけ。またまたおかしな現象が起こった。

爆発がまるで赫賀谷?に当たらないように二つに枝分かれしていた。

「温かいな。丁度いい」

「ど……いうことだ?」

「終わりなのか?。少し運動に付き合ってくれないか」

赫賀谷?はまたも超スピードで爆弾魔の元に向かう。

爆弾魔も急ぎ反応しようとする。赫賀谷?は爆弾魔の左腕を掴む。

「お前の能力は使。違うか?」

「……何でそれを!?」

「おいおい馬鹿正直に答えるなよ。馬鹿が透けるぞ。…………そうだな理由としてはお前の能力がそうだからとしか言えないな」

「…………」

「お前の能力は。爆発はそれによって起きていた。ならばもう一方の腕を塞いでしまえば能力は使えない」

赫賀谷?は真顔で淡々と能力の詳細を答える。

爆弾魔は何で知ってんだよと言いたそうな目で赫賀谷?を見つめる。

すると赫賀谷?は腕を離し、歩き出す。

「さあ始めよう」

「何を?」

「簡単さ。。まあ貴様は我を目覚めさせた。だから半殺しで済ましてやる」

「……狂ってんの?」

「失礼なやつだな。我は狂ってなどいない。お前はいわゆるだ。我の最強を示すためのな」

「最強?」

「ああ最強だ。我は誰よりも強くないといけない。メッセンジャーとしてお前を使えば強い奴らが我を襲いかかりに来るかも知れない。それを持って最強を証明する。な?画期的なアイデアだろ?」

「意味わかんないや」

「理解される筋合いなど無い」

動き始めたのは爆弾魔。爆弾魔は赫賀谷を翻弄ほんろうした爆発移動をした。

「ほお。工夫をしたな」

「ほざいてな!!」

グルリグルリと赫賀谷?周りを動き回る爆弾魔は攻撃に移る。

爆弾魔は完全背後からの爆撃をする。

「気づか無いなんて馬鹿だね!!」

「お前がな」

反撃を恐れてかゼロ距離ではなく至近距離からの爆発。

至近距離からでもとんでもない威力を持つが、この時の爆発は……不発だった。

赫賀谷?はニヤリと笑い、対して爆弾魔は驚きを隠せない表情をしていた。

「なんで?なんで爆発しないんだよ!!!」

「理由?こっちのほうがもっと簡単だ。ちょっとだけガスを出してみろ」

爆弾魔は半分諦めたようにガスを放出する。

「な……んだこれ?」

「ふっ」

爆弾魔が放出したガスは赫賀谷?の一定の範囲から取り除かれていた。

「これが理由だ。お前の爆発と我の能力は相性が悪かった」

「どうやって……どうやってやった?お前はベーシックだったはずだろ!!ASRでこんな芸当ができるわけがない!!」

訳の分からないという恐怖で後退りをする爆弾魔。

赫賀谷?もその様子に満更でもない様子だった。

「ベーシックというのはASRという力しか使えない能力者を言うのだろ?我はベーシックでもある。同時にオリジナルという分類に属することも出来る」

「我の能力は空気操作Air operation。我は。ガスだけを取り除くことなど造作もない」

「なんで……能力が!!あるんだよ!!ふざけんなよ!!こんなの……!!」

「こんなの……何だ?絶望しているのか?いい。すごくいい。その表情を見たかった」

後退りする爆弾魔を薄暗い笑みで追い詰める赫賀谷?。その姿はさながら弱った獲物を弄ぶ狩人のようであった。

「ち、近づくな……!!」

「なあに。そう恐れるな。潔く負けを認めろ」

「クソクソクソクソクソクソクソ!」

爆弾魔は何発も爆弾を発生させる。

その行為が無駄であることを承知で爆発を起こす。

もちろんその爆撃が赫賀谷?に効く訳がなかった。

赫賀谷?は攻撃に専念する爆弾魔に追いつき、頭の側頭部を踏む。

「手が…………!」

「お前の手は空気で押さえつけてある。これで能力も使えないただの一般人に成り下がったわけだ。どうだ?今の気持ちは?」

「俺は……強い!!お前の何倍も強い!!」

「今更何を……」

赫賀谷?は踏む力を強くする。それでも爆弾魔は喋るのをやめない。

「何が最強だよ!お前みたいな奴が最強なわけ無い…………」

「貴様……!今!!なんと言った!!」

踏む足を外され、爆弾魔は首から何かを払おうとしながら空中に浮かぶ。

赫賀谷?の能力によるもので赫賀谷?は何かを掴むような手を爆弾魔に向けていた。

「我の最強はくだらないか?え?貴様は今我の信念を馬鹿にした!!我の夢を馬鹿にした!!」

「がっ……がっ……がっ」

「最強がそこまで馬鹿らしく見えるか?ほざけ。今から貴様には罰を与える。やはり罰とは痛みが伴わなければいけないと我は思う。だから…………歯を食いしばれ」

爆弾魔は放り投げだされた。それと同時に体に無数の空気の塊が襲い、その威力によって爆弾魔は空中にいながら後ろ後ろへと押し流されていく。

赫賀谷?はまるで合唱の指揮をするがの如く、軽やかに能力を使っていた。

能力の使い方に慣れているかのように。

爆弾魔は数秒間空中での攻撃を受けた後、やっと地と再開することが出来た。

その時にはもう意識など残っていなかった。

爆弾魔の白いローブはビリビリになり、肌は赤く腫れ、所々紫色に変色していた。

赫賀谷?は爆弾魔の手や足を氷漬けにする。

「これで目覚めても大丈夫だろう。おい小娘」

「…………」

「小娘」

「は、はい!」

野見中は唖然としていた。開いた口が閉まらない。言葉も出ない。

体感時間でもそんなには経っていない。いつの間にか終わっていた。

その様にしか理解できていなかった。

「その小僧はいいのか?」

「え?あっ、ああ!!」

立て続けに起こった理解不能の出来事にすっかり忘れていた。

野見中は黄異宮の元へ駆け寄り、安否を確かめる。

意識は無いが、幸い呼吸も安定しているし、出血も少ない。心から安堵する。

「おっと」

「だ、大丈夫?」

「流石に限界が来たかもな」

赫賀谷?は一歩踏み出すとガクンと崩れる。

言い方から自分では疲れを認識してないからか顔から汗の一つも出ていない。

「小娘。ついでだ。この小僧もだ」

「え?え!?」

「ったく。上手くは行かないものだな」

赫賀谷は何かが抜けたかのように横に倒れた。

中庭に一人残された野見中は二人を安全な場所に連れていき、爆弾魔は先生に回収されることになった。






「……ということがあったの」

「……………………」

うん。意味分からん。俺の一人称が「我」に変わって、急に空気操作だが言う能力を使えるようになって、あの男をぶっ飛ばしたってことでしょ?意味分かんない。

「で?その事に少年は心当たりはあるの?」

「心当たりは……」

正直滅茶苦茶めちゃくちゃある。俺の頭の中に聞こえる謎の声。

それしか考えられない。俺が死んだときも最後に聞いたのはあの声だ。

関わりがあるとしか言いようがない。でも……。

「……ありません」

「……そう」

白尚しらなお先生も薄々気づいただろう。俺は嘘をついた。

理由なんて当たり前だ。バカ正直に「頭の中から声が聞こえて……」なんて頭の可笑しい奴だと思われかねない。事実思われてるかも知れない。

この声については自分で解決したい。

「さて事の内容も分かったことだし、二人は校長室に向かって」

「は?」

「この事件の事情聴取。校長室で君たちの担任と校長先生。そして刑事さんが待ってるわよ。心が踊るわね」

「どこが!?」

「あら?年頃の男の子はこういうのに憧れないの?」

「どの時期の人でも警察に関わるのは嫌でしょ」

「そうは言っても拒否権は無いわよ。黙秘権はあるけど。行ったほうがいいとは思うけどね」

ここで話さず、家に警察でも来たら、近所の人に誤解されるに決まってる。

俺はベットから立ち上がり少し背伸びする。

「分かりましたよ……。じゃ行くか」

「うん。失礼しました」

「お大事に」

俺達は保健室を出る。警察と校長に囲まれるのか。想像しただけでも吐き気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る