第十一話 死亡

俺は走り出した。野見中達がいる中庭に。

中庭には人殺しを平然とやるイカれた野郎共の一人がいる。

能力を使っていいと言っていたが、殆どの学生が殺し合いなんてしたこと無いはずだ。野見中達も例外じゃないだろう。俺はある程度戦える。

あいつらを逃がすぐらいの時間は稼げるはずだ。

(本当に行くのか?)

(行くに決まってんだろ。何いってんだ?)

(何故助けに行くんだ?)

(…………)

(何の目的もなくただ手が届きそうだから、助けるのか?)

(そうだよ!悪いか?)

(悪い。悪いさ。お前が勝てるビジョンが全く見えないのだから)

(根拠は……?)

(根拠も何も。意志の問題だ。相手はお前らを殺しにかかってるんだぞ?対するお前はどうだ?人を殺す覚悟があるか?もしもの時相手の息の根を止める覚悟があるか?)

(…………)

(ないだろ?そんな中途半端な気持ちで行くならやめておけ。小娘とガリ勉同様死ぬだけだぞ)

「なんであいつらが死ぬ前提なんだよ!!!」

俺はその言葉に怒りを覚えた。つい声を漏らしてしまう。

俺は確かに殺す勇気なんてまだない。

自分で相手の生命を奪う行為なんてやりたいわけない。

それでも相手を無力化することぐらいなら可能性がある。やってみる価値はある。

(ある訳ねえだろ。馬鹿じゃねえのか?)

「…………」

(あの戦いとは訳が違う。自信があるないで収まる話じゃない。行った所で無駄死にするだけだ。大勢が死ぬより一人でも生き残ったほうが利口だ)

「だから……助けないってか?」

(ああこれがだ。弱いやつが死ぬのは当たり前。でも弱い奴は逃げることが出来る。今まさにお前がするべきことだ。力もない。知もない。ただの喧嘩ごときで自信を持った輩には丁度いい)

……確かに……一理……ある。一理ある?

俺は自身の頬をパンッっと思い切り叩く。

先程刃物の攻撃で受けた傷から血が出ていたのか、手にはベットリと血がつく。

「何が……だよ。何が丁度いいんだよ!!どこが!?今ここからUターンして避難場所に向かって、指を加えながらガタガタ肩を震わせるのか?ふざけやがって!!!そんなの……そんなの……」

「バカゲテル」

俺は段々と遅くなっていた足に活をいれ走り出す。声の忠告など無視して走り出す。

(無駄だと言っているのに何故走り出す。今更我がと認識しているだろう?)

「…………」

(死ぬのは怖くないのか?)

「…………怖くない」

(痛いのは我慢できるか?)

「…………俺は子供じゃない」

(後悔してることがあるんじゃないのか?)

「…………この人生になんか後悔……」

(どうした?)

「後悔はある。後悔しかない。俺のせいで死んだ人間がいる。俺のせいで涙を流した人間がいる。……でももうそんなの御免だ。俺はたとえ死んだとしてもあいつらは助けたい。そうしないと俺はまた後悔する。俺は………………もう臆病者なんかじゃない!!」

(その思いが嘘だったとしても?)

「……確かに自分を肯定するための嘘かもしれない。だからどうした?それがたとえ嘘だとしても、この思いが間違いであったとしても……それなら俺は……自分に嘘をつき続ける!」

(……なら我はもう止めない。精々頑張れよ、馬鹿野郎)

「うるせえ、最初から止めるんじゃねえよ」

覚悟は決まった。迷いはない。ただ走り続ける。階段をおり、また走る。

道がとんでもなく長く感じる。それでも着々と中庭に向かっていっている。

鼻に何かが焦げたような匂いがこびりつく。

黒い煙が立ち込めていて、廊下のスプリンクラーが起動している。

頭の着いた水滴を振り払い、目的地に辿り着いた。











「なに……してんだ」

中庭に生えていた花などの植物は土が掘り返されたようになっており、炎を上げて燃えていた。

火は壁・ベンチにも広がっている。炎以外にも壁は所々穴が空いている。

一人の白いローブを着た男が両手を構え、野見中に向けている。

隣には黄異宮が瓦礫をもろに食らったのだろう。頭から血を流し倒れている。

「誰?お前?生徒は全員避難したんじゃないの?」

「お前こそ何者だ?野見中から離れろッ!」

「やだなー。ただの神を信じる一人の人間だよ」

「これが……神を信じる人間のやることなのか?」

「俺はその神からを受け取っている!これは神がやりなさいと仰ったのだ!!」

「何言ってんだ……?」

話がまるで通じない。神?てことは何かしらの宗教?

思想を広めるためにこんな事をしてるのか。

しかも試練とか言うので被害があっても何も感じてなさそうだな。

これは結構重症だ。口で通じないならやることは一つだ。

「悪いけど、その神様の試練とやら邪魔させてもらう」

「……………………殺すぞ?」

味わったことのないような殺気。これが本当の殺し合い。息が詰まる。

「神にすがる事しか出来ねえやつが……殺せるもんなら殺してみろよ!!」

「FA◯K!その身を神に捧げろDedicate yourself to Origin!!!」

ASRアーサーを足に溜める。先手必勝。一気に距離を詰めて終わりにする。

男は野見中に向けていた両手を

直感的に「危険」と判断した俺は急遽後ろに下がり、ASRを展開する。

ドゴドゴドゴドゴドゴドン!!!

直線上に爆発が連なっていく。距離としては約五メートル。

俺のASRアーサーに少し掠る。端に行けば行くほど威力が落ちているのか?

それなら後ろに下がっていなかったら危なかったな。

至近距離で爆発を食らったらASRなんて意味を成さない。

少し間を置いてから、男は爆破を再開する。

マシンガンの様に来る爆発から逃げることが出来ない。

一瞬でもASRを解除ずれば俺の体が火で包まれる。

男はジリジリとこちらに詰め寄る。

ASRアーサーに当たる爆発も威力が上がっていく。

ピキピキピキ……

展開していたASRアーサーが音を鳴らして処理限界が近いことを知らせている。このままじゃ……。一か八かやってみるしかない!

俺は展開してるASRアーサーを解除し、精一杯の力で地面を蹴り、横にスライドする。

「あっつ……!」

その時に服に火が燃え移る。俺はその火を叩いて消火する。

だがこれで攻撃ができ……。

「どこいくの〜」

男は爆破を起こしながら、照準を合わせ続ける。

近づいて男に一発食らわせることが出来るかも知れない。

でも急に方向転換して至近距離からかの爆破を食らう可能性も高くなる。

なら相手のASRアーサーをが枯渇するまでの持久戦。

俺の方がASRは少ないかも知れないが、アレだけの爆発を起こすにはそれほどのASRが必要だろう。

相手にジャンジャン能力を使わせて、無くなったら一気に攻める。

男の爆発を避けつつ、出来ればこの間に野見中達を避難させたい。

あいつらは今男たちの死角だ。だから……!

「そんなに逃げるなよー。じゃあさ……これならどうだよ!!!」

男はくるりと後ろを向く。ターゲットは変更された。

また野見中に照準が当てられる。

「チッ……!クソが!!」

避けるのは終わり。あいつが能力を使う前にダメージを与える。

俺は先程と同じ様にASRアーサーを足に溜めて地面を蹴る。

スピードに乗り、勢いまま飛び蹴り。あいての腕を狙う。

爆発を起こそうとしていたタイミングだったからか、能力を解除することが出来た。

「なにこれ?固定されてるの?」

「……」

野見中のみなかとの間に割って入り、男の蹴飛ばした腕を固定させる。

これによって隙きが出来た。俺は野見中のみなかに叫ぶ。

「さっさと広斗ひろと連れて逃げろ!!ここにいたら爆発の餌食になるぞ!!」

「でも……」

「でもじゃねえ!!こうして男の腕抑えてるが、これだって時間は有限だ。俺の中のASRアーサーも枯渇寸前でもある。お前らがいても邪魔なだけだ!!」

「…………」

「楽しそうにお喋りしてていいのかな!!!」

「クッ……!」

腕を固定されながらも能力を使い、俺のASRを乱してくる。

上手くコントロールできない。

「野見中!!!俺のことなんかどうでもいい!!早く逃げろ!!」

「あ……」

「………やるしかねえか」

俺は自分の体の中にある全ASRアーサーを使い、相手の行動自体を奪う。

鼻から血が垂れる。ここまでASRアーサーを使ったことがない。

使いすぎるとこうなるんだな。一瞬だけでも相手の動きを止める。

そして出来たチャンス。

俺は男の懐に入り、鳩尾みぞおち部分に全力の拳を打つ。

「ガハッ!」

ASRが解かれ、最後は回し蹴りで相手の体を吹き飛ばす。男は背中から倒れる。

「イッテえなー」

「まあ……だよな」

急所とかも攻撃したはずなんだけどな。

出来ればそのまま倒れていてほしかったが、終わるわけもない。

男は立ち上がり不気味な笑みを浮かべる。

「お前だけ絶対殺してやるよ!!」

「やって……」

爆発音とともに俺は後ろに吹き飛んでいた。男は両手を後ろに向け爆発を起こす。それによって起きた推進力で俺のもとに一瞬でやってこれた。

「どうした?馬鹿みたいにASRを出せばいいんじゃないのか?」

「…………お前に対しては別に必要ねえよ!」

俺はASRアーサーをすべて使いきったことを悟られないよう大っぴらに嘘を付く。ブラフってやつだ。

もしここでおれが馬鹿正直に「ASRアーサー使えませーん」といった暁には俺は灰になってるだろう。

ドゴンドゴン!!

男は縦横無尽に飛び回る。動きは見える。

でもこちらから攻撃することは出来ない。

「これならどうだ?」

ボンッ!ボギィ……

男の両手が俺の左腕を掴む。その瞬間俺の左腕に激痛が走る。

「ぐあああああああっ!!!」

チリチリと腕がやけどしてるのが分かる。

この痛みは……更に骨折もしてるみたいだな。

「お前には苦しんで死んでもらいたいんだよ。だから……まだ死なないでね?」

「ぐっ……ガッ」

俺は舌が噛み切れるぐらいまで噛む。痛みは多少は和らいだ。

俺は近づいた男の腕を右腕で掴む。

「これでも食らえや!!」

ゴキッ!!

男の腕から変な音が鳴る。男は叫びながら後ろに下がっていく。

「……俺の腕に何をした!?」

「少し関節をな。折れちゃあいねえよ」

俺達はにらみ合う。双方いや俺のほうが不利だ。

でもここで負けるわけには行かない。

ここで負けるってことは野見中達が死ぬのと同義だ。

そんな事はさせない。俺がたとえ死んだとしても……。

「……もういい。お前なんか殺してやる!!」

「何度もいいやがって、やってみろよって言ってんだろ!!!」

男は爆発を利用して、さっきと同じ様に俺に近づく。

さすがにそのスピードにも慣れてきた。俺は近づいたと同時に男の頭を蹴りつける。

その衝撃で腕に痛みが走るが、それは相手も同じだろう。

防戦一方の戦いから攻撃できるほどになった。勝つ可能性が見えてきた。

見えてきた……はずだった。見えてきたのにもう何も見えない。




ドゴンッ!!

油断した。希望を見てしまった。

よろけた時、男の両手は俺の心臓部に当たっていた。俺は……倒れる。

「……あ…………」

「はははははっっはっはははは!!馬鹿じゃないの?もしかして俺に勝てるかもって思っちゃった?勝てるわけ無いじゃんwwだって君ベーシックなんだからさ!喧嘩は出来るみたいだけどそんなんで勝てると思うなんておこがましいよ!!」

制服が焼かれ胸のところから焦げたような匂いがする。その時理解してしまった。

俺は爆発を食らったんだ。ゼロ距離の爆発に……。胸・口・腕・腹。

至るところから血が出てくる。

「の…………み……な…………か」

せめて逃げてほしかった…….

怖いかも知れないけど動けないかも知れないけど逃げてほしかった……。

男の笑い声が聞こえる……。それと同じくらいに痛みが全身を走る。

言葉に表せないほどの痛みが俺を襲う。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

なるほど……これが死か……。だんだん何も聞こえなくなってくる。

人の声も……炎の音も……。だんだん見えなくなってくる。

空の色も……すべてが白に変わっていく。

????

これは……走馬灯か?家族と一緒に行った旅行。父親と一緒に行った公園。

泣きじゃくる妹。廃墟で埋まる街。笑顔で別れたあの日。

バイトで接客を教えてもらった時。新井島との喧嘩。三人で飯を食べた時。

…………声の言うとおりだった。俺が行った所で意味なんてなかった。

俺は力もなにもない人間で、ただ普通に暮らしてればよかったんだ。

美少女なんかと飯なんて食わなくてよかった。

ずっと一人で孤独で良かったんじゃないのか?

ああ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!

後悔してる。誰も助けられなくて、終わるのか?嫌だ嫌だ!

俺は……もう後悔したくない。

(だから言っただろう。行かなきゃいいと)

(ああ……言ったな)

(…………生きたいか?)

(…………え?)

(生きたいか?)

(…………生きたい。まだ死にたくない)

(そうか……。ならどけ。後は我に任せろ)

お前に何が出来んだよ、と言葉が出なかった。もう俺は終わりのようだ。

最後に聞くのがこの声なんてな。最後に……あいつに……謝りたかったな……。



死亡者

赫賀谷真空あかがやしんくう ✕




 

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