第十話 襲撃

二日後、俺はあの後広斗ひろとの連絡先を手に入れた。

会ってそんなに経たないのに今では俺の親友ポジションにいる。

霧智きりさととも仕事をしているがあんな事があったから滅茶苦茶気まずい。事務的な会話しか存在しない。いつか謝らないといけないが、勇気がないんだなーこれが。

俺はいつも通りに四時間目を終わらせ、昼の時間になり広斗ひろと達と飯を食べる。

「ねえねえ今日は中庭で食べてみない?」

「……ああそうだな」

何故かいる野見中のみなかさんには慣れない。

二日前から一緒に飯を食べる中になった俺達。

かの美少女と一緒にご飯を食べれるのはいいよ。でも視線よね。視線が痛い。

殺意を帯びた視線が俺と広斗ひろとを襲っている。

いつか物理的に襲われるよ絶対。で今日は中庭で食べると。

そっちのほうが精神的に楽だ。何よりほとんどどの生徒がいない。

生徒は基本教室・食堂と行った所で飯を食う。中には穴場だ。

外は寒かったり虫がいたり不人気らしい。

好きな人にとっては良い所なんだろうけど。

「今日は俺弁当じゃないんだよな」

「真空は購買?」

「まあな」

野見中のみなか広斗ひろとが微妙な顔をする。

俺なんか悪いこと言ったけ?

「ああそうだな」と「今日弁当じゃない」と「まあな」しか言ってないぞ。

「この学校の購買は相当大変なんだよねー……」

「何が?」

「競争が激しいんだよ。数が少ないのと人数が多いので。最悪怪我人が出る」

「そんなに!?やばっ!?じゃあ早く行かなきゃ……」

「まだ余裕はあるよ。席取ってから行ったら?」

「まあ広斗が言うなら……」

俺達は中庭に着いた。中庭はとても静かで空気がきれいな所だった。

花なども咲いていたが、桜はもう散り始めていた。

それを見ると入学して時間が経ったんだなと思った。

この一ヶ月近くで友だちも出来た。今の学校が楽しい場所になっていた。

おっと、そんな思い出にふけっている場合じゃねえ。

「じゃあ俺は行ってくるわ」

「いってらっしゃーい」

「んー」

俺は少しダッシュして購買に向かう。購買は特別棟の三階にある。

今のままだと三年生が有利だな。

(ちゃんと栄養がある物にしろよ)

(惣菜パンに栄養を求めちゃいけないんだよ)

(それでもだ)

(そんな物ありません!!諦めてください!!)

(なら作れ)

(買うって言ってんだろ!!なんで作るんだよ!?)

今日弁当を作れなかった理由は至極簡単。寝坊だ。

アラームを入れる時間を二時間もミスってしまった。

家事全般を後回しし、急ぎ学校に向かったのだ。

鞄の中に財布が入っていたのが奇跡だ。

(栄養は大切だ。筋肉を作るにしても健康面においてもな)

(お前は俺の母親か何かか?)

この声は買い物をするたびに栄養栄養言ってくる。

俺の体を気遣ってんのかなと思ったが全然そんな事なかった。

(お前は我の乗り物だ。乗り物が貧弱なのは困る)

ウゼエえええええ!!!!結局自分のためかよ!!想像ながら恐ろしいわ!!

(ったくしょうがない。今回は見逃してやる)

(悪党の台詞!!ていうか俺の自由だろ!!黙ってろや!!)

(ふん)

想像ってこんな生意気なのか?皆こうなのか?俺だけ?

これはストレスは溜まるのも無理はないわな。

こんなストレス製造マシンと暮らしてたら薬も効かんわ!!

俺は栄養なんか無視した惣菜パンを買うために購買に向かう。

ふふふふふふふっ、余分な油・炭水化物・脂質の塊。ビタミンなどを摂取しない。

これがこの声に対するささやかな復讐だ。覚悟しろよ!!クソボイス!!!





復讐できるか分からんわ、これ。購買に辿り着いた。

辿り着いたはいいが、この有様はどうかと思う。

購買の購入口には多くの生徒が自分のパン欲しさに群がっていた。団子状態。

もはや俺に取らせないようにしてる感じさえしてきた。

俺は一応育ち盛りの男子高校生だぞ!昼飯食わないと……食わないと……授業中に腹が鳴っちまうだろ!!それだけは避けなければならない。

……団子の中に隙間が空く。俺は走り出す。

出来たチャンスは掴まないといけないよな!!!俺はその隙間に入り込む。

多くの生徒の手が俺の体に触れる。ホラーゲームのシーンとかにありそうだ。

俺は前に前に進んでいく。後少しでパンに……。

すると急に人の流れが激しくなる。横に俺は押されてしまう。

前から後ろにジグザクに団子が動く。

俺はそのせいで後ろに押され、スタート地点に戻る。

まじかよ、人の流れってやばいな。クソ!結局チャンスを掴めなかった。

皆パンごときに本気になりすぎんじゃね?……俺が言えたもんじゃないか。

仕方ない……ここは諦めたほうがいいだろう。言ってみれば所詮パンだ。

そうパン。パン……。

俺は中庭に戻ろうとしていた所、急に人がいなくなる。

帰る人の顔はその事を気にしてない様に感じた。

「あれ一人だけ帰ってないな」

後ろを振り向く。

その人物はこの学校のNo.1・前山拓洋まえやまたくひろその人。

前山まえやま先輩は俺を不思議そうに見つめる。

前山まえやま先輩ですよね?」

「おおよく知ってんな。いや当然か」

「これは先輩が?」

「まあなパンをほしかったから。退

前山まえやま先輩の能力は認識変化。人の認識を変え信じさせる能力。

さっきの人たちは前山先輩の能力で認識が変えられ帰っていったのだろう。

どんな認識にしたのか知らないけど。…………いや待てよ。

それならなんで

この前のアビマではちゃんと効いてだろ。なら何で……。

(そんなの簡単だ)

(へ?)

(あのバカそうなやつは。パンの表面は焦げたが、中身は焦げてないみたいな感じだ)

(ナ、ナイスすぎる。ただの声とかクソボイスとか言ってすいません!!)

(その話詳しく)

(…………)

声も色々役立つんだな。そのおかげで認識を変えられなかったから結果オーライ。

「お前そういう感じの能力者?」

「いや……ベーシックです」

「へー。まあいいや、名前は?」

赫賀谷真空あかがやしんくうです」

赫賀谷あかがやね〜、珍しい名字だね」

「前山がありがち過ぎるんじゃないですか?」

「周りはただでさえ何の意味があるのか分からん名字ばっかなんだもん」

「仕方ないでしょ!!」

あまりメタ的なやつは出すべきではない。

前山まえやま先輩の名前には少々理由があるんですよ。きっと。

俺は不意にパンが置いてある所を見る。

ラストワン。一つのパンが俺の目にある。偶然・奇跡と言っていいだろう。

あのパンはまるで俺のためにあるのかと。神のお恵みなのかと思ってしまう。

俺は前山まえやま先輩を置いて動く。前山先輩に頂いたチャンス。

ありがたく利用させてもらいます!!

「おまっ!」

前山まえやま先輩も気づいたように走り出す。

遅れてスタートだったはずがいつの間にか俺と並走していた。

前山まえやま先輩はどうやら運動能力もあるよう。白熱した勝負。

負けられない勝負。おばちゃんも眺めてる勝負。どちらかの手にパンが手に入る。逆を言えばどちらかはパンを食べれず空腹のまま五六時間目を過ごさなきゃいけない。

男たちは走る。走る。走る。そしてついに決着が………………………………………。


ほぼ同時にお互いパンを掴む。VAR判定をしていこう。

まず最初に俺がパンを掴もうとした。だがそれを前山先輩が手を弾き阻止する。

それでも俺は諦めなかった。俺は残りの力を使いパンを手に取る。

だが相手の方が上手だった。掴もうとしたがそれではもう手遅れだった。

前山先輩の手にはもうパンがあったのだ。俺はそれに遅れてキャッチする。

よって勝負は…………前山拓洋まえやまたくひろの勝ちだ……!!

「おばちゃん、これくれ」

「はいよ!!」

「嘘だ……。こんなの……。これは罠だ!!(パンをどれだけ先に取れるか勝負しただけです)」

「負け惜しみ?(パンをどれだけ先に取れるか勝負しただけです)」

「くそ!!(パンをどれだけ先に取れるか勝負しただけです)」

俺は地面に手を付く。新井島あらいじまに負けた時よりも悔しいぞ!!

たかがパン。されどパンだ。あのパンが俺にとっての栄養補給だったのに……。

赫賀谷あかがや。ほらよ」

「こ……れ……は」

前山まえやま先輩が俺に渡してきたのはパン……!

「いいんですか……?」

「後輩を助けるのは……先輩の役目だろ?」

「先輩……!!」

ありがてえ!ありがてえ!前山まえやま先輩は先輩の鏡だ……!

自分の昼飯がなくなるのを覚悟して俺に渡した!!この恩は絶対に忘れねえ!!

このパンにありがたく戴こう。

「それに俺には弁当があるからな」

「え?」

「そのパン好きだったから。家で食おうと思ってよ。だからいいよ別に」

「………………なら最初から譲ってくださいよ!!」

「いやーそれだと面白くないじゃん」

素晴らしい先輩像が崩れ去る。家で食うなら昼飯が無い俺に素直に譲ってくれ。

能力は使う必要はどこにあった?ただ好きなら昼飯が無いやつに譲ってやれよ。

先輩最低だな!!




パリン

購買のすぐ近くで窓ガラスが割れた音が聞こえる。

「……今の聞こえたか?」

「……はい先輩」

「おばちゃん達、ちょっと避難してくれないか」

「え?なんだい急に?」

「いいから」

「……分かったよ」

前山まえやま先輩は購買のおばちゃんに避難するよう指示し、俺は手元にあるパン置き場に置く。もしかするとパンが食べれなくなるかも知れないからな。

恐る恐る割れた箇所の確認をする。

気のせいというのもあるし、生徒のイタズラかも知れない。

でも用心に越したことはない。

案の定、予想は的中してしまった。おばちゃんを避難させといてよかった。

割れた窓ガラスからロープが垂れている。

そこから二人の白いフードを被った顔の分からない男と女が登ってくる。

「先輩」

「ああ、こりゃってやつだな」

二人は俺達の存在に気づいたようだ。

男のほうが物凄い勢いでこちらに突進してくる。右手には刃物を持っているようだ。俺は自分でも驚くぐらい落ち着いていた。深く息を吸う。

「来るぞ、赫賀谷あかがや。任せていいか」

「……なんとかやってみます」

「そうか。なら後ろの女は任せろ」

前山まえやま先輩も異様に落ち着いてる。

こういう相手には慣れているかのように。俺は刃物を持った男と対峙する。

後三メートル。二メートル。一メートル!刃物の攻撃可能域に俺の胴体が入る。

男は刃物を横に大きく振る。後ろに少し避けて、相手の行動を観察する。

次に男は俺の頭の位置に刃物を突き刺そうとする。明らかに俺を殺す気でいた。

体を横に避けると同時に首を傾ける。

刃物は俺の顔をかすめ、ほほに傷をつける。

痛みを感じるがそんなことよりも男に硬直が起きる。

俺は男の右手首と左腕をガシッと掴み力を入れる。男は刃物を落とす。

相手を固定し、腹に蹴りを数発入れる。

「ゲホッ……」

左腕を離し足を絡め男を転倒させる。後ろに回り、男の右腕の関節をキメる。

「先輩っ!」

「ああ分かった」

すると男がガクンと眠るように気を失う。実際眠っていた。

離れた女も急にバタンと横になる。

「最初からそれやってくださいよ」

「意外と疲れるんだよ。認識を変えるのは」

「ていうかこれなんです?」

「俺に聞くな、どうせ」

校内に火災報知器のような音がなる。明らかに緊急事態を伝える音だ。

耳にキンキン響く。機械声で放送が入る。

『緊急事態発生。緊急事態発生。校内に能力・武器を持った不審者が多数侵入しました。生徒たちは至急指定された避難場所に向かってください。職員一同は自体の収拾に向かってください。一時的に能力の使用を許可します。自分の身を守るようにしてください』

「俺達も避難するぞ」

「は、はい」

この件は奈加河なかがわ先生達に任せよう。

一応生徒でもなんとかなる事が分かったし、俺達が首を突っ込む必要なんかない。

指定されていた避難場所に向かおう。するとまたもや火災報知器のような音が鳴る。

「気にせず行こうぜ」

『中庭にて多量のASRアーサーを検知しました。職員は対応をお願いします』

歩いていた足が止まる。不穏な単語が聞こえた。

「中……庭?」

あいつらの顔が頭に浮かぶ。

中庭に武器とかを持った明らかに俺達を殺す気の奴らが……中庭に?

急に冷や汗がドバっと出る。頭が混乱する。

「先輩先行ってください!!」

「ちょ……」

俺は先輩の言葉を聞かず、走り出す。クソなんでだよ。

なんでよりにもよって中庭なんだよ!!

















野見中のみなかは何も出来なかった。|

黄異宮きいみやの頭からは血が流れ出ている。

あまりにも急で、味わったことのない生存の危機。

それに野見中は屈してしまった。

「こんな可愛こちゃんは殺したくないんだよ。でもまあ仕方ない?」

野見中は朝あるニュースを見た。それは銀行襲撃事件。

犯人はまだ逃げており能力者で、その能力は「爆発を起こす」能力。

今正しくその能力が視界に入った。その能力を使う能力者が目の前にいる。

「なに……してんだ」

渡り廊下から聞き慣れた声が聞こえる。その声に野見中は希望を抱いた。

その希望もに。

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